第18話 乗り換え ※エリック王子視点
「お前まで、そんなことを言うのか!?」
「ちが、違うのよエリック! これは、神殿の連中が伝えろって言ってたから……。私が代わりに言わされただけなのよ! 信じて、エリック!」
エリーゼが慌てて言い訳するけれど、俺のイライラは収まらなかった。せっかくの楽しい時間が台無しだ。
「……」
「聞いてエリック。神殿の連中って酷いのよ! 仕事を押し付けてきて、自分たちは何もしないで、贅沢な暮らしをしてる!? 私、もう我慢できない! 貴方も、そう思うでしょ?」
神殿に対する文句を言って、俺の同情を引こうとしている。それで、さっきの言葉を無かったことにするつもりなのだろう。神殿に資金を援助しろというお願いを。
だけど、それは逆効果だな。
「……」
「それに、最近の女神官って酷いのよ。修行をサボって実力も衰えてるし、そのせいで任務の成功率も下がってるみたい。酷いと思うでしょ?」
どうにか神殿の評価を下げようと必死だ。しかし、それではエリーゼに対する評価も下がることを理解しているのか。なんせ彼女は、その神殿のトップである聖女なのだから。
「……」
「ね、ねえ? エリック?」
今まで見えていた美しいものが、一気に薄汚いものに変わってしまったな。どこで変わってしまったのか。こんな未来は想像していなかったし、残念だ。けど、切り捨てるしかない。
この女と結婚したら、神殿の連中はつけあがるだろう。それが嫌だった。
せっかくの資金援助を無駄にして、最近どんどん神殿の評判を下げていく。それなのに、追加で資金の援助をしつこく求めてくる。一方的に負担だけ押し付けてくる。そんな相手、付き合う価値がない。
俺は無言で立ち上がると、部屋を出ようとする。それを見て、エリーゼは慌てて俺に縋り付いてきた。
「ま、待ってエリック! ねぇ、私が悪かったわ。謝るわ。だから話を聞いて!」
「離してくれよ」
「……っ、あ、あの……あのね? 私たち、婚約してるでしょ……? もうすぐ、夫婦になるんでしょ?」
「ああ、俺たちは婚約相手だよ。だからこそ、これ以上失望させないでくれないか?」
俺がそう言うと、エリーゼは目を見開いて固まった。そして、すぐに涙を流し始める。それを見て、少しだけ心が痛む。
「ご、ごめんなさい……!」
「……」
涙で濡れた顔で謝罪される。そこまでされると、めんどくさい。泣いたら許してもらえると思ってるのかな。
「泣くなよ、みっともないぞ」
「うぐっ……! だって、エリックぅぅ……」
「はぁ……」
嫌だけど、もう少しだけ我慢して付き合うしかないか。向こうの方が絶対に悪いが、ここで厳しく接したら俺の方が印象を悪くしてしまいそうだし。見捨てるのも心苦しい。甘いな、俺は。
エリーゼの近くに戻って座り、彼女を抱きしめた。すると、彼女も嬉しそうに俺の背中に手を回す。
「やっぱり、エリックって優しい……! 好きッ!」
近いうちに、この面倒な問題を解決しないと。神殿に代わる、新しく付き合うべき相手を探すか。この国を導くために、いずれ国王となる俺には力が必要だから。衰退していく神殿は、早めに見切りをつけたいのだが。
そういえば、最近は冒険者たちの評判が良いみたいだ。神殿の失敗を尻拭いして、新人の冒険者たちも頑張っているみたいだ。そっちに協力を要請するというのもアリかもしれない。
そんなことを考えながらしばらく、エリーゼの謝罪と泣き言、しょうもない言い訳を聞き続けた。
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