同じ名字の桂木先輩は、凄い美人だったけど処女では無かった

ヘタレちゃん改

前編

50代の中年にも、もちろん高校時代はあった。

、、、物凄くガキだった。記憶も曖昧である。ただ、、凄く楽しかった、、と思う。


俺たちの子供時代、遊びは野球だった。少なくとも少学校中学校は夢中だった。

小6で崖から落ちて、利き腕の肘を複雑脱臼して、後になって思うとこれが原因で、中学校では肩ぶっ壊して、ずっと内野手だったのに一塁くらいしか守れなくなってたけど、そんなこと関係無く野球していた。

高校でも当然のように野球部に入ると思っていた俺に恐るべき壁が立ちはだかった。

「野球部員は全員坊主!!」

普通に嫌だった。あり得なかった。

俺は筋金入りの帰宅部になった。そういうやつ多かったように思う。

俺は、理数系科目は得意だったが、記憶系の科目の成績は興味に著しく左右された。


【じゃがいもの生産量日本二位の県はどこか?】

、、んなこと覚えて何が楽しいのだろう。


高校一年早々、地理の中間テストの成績がむちゃくちゃだった俺は、学校の名物先生にブッ飛ばされ、先生顧問の「放送部」に叩き込まれた。

放送部は、普段はお昼休みと放課後の生徒向け番組をやっていて、たまにアナウンサーコンクール?みたいなのに顔を出す、そんなところ。

だから女子はみんなアナウンサー、男子はアナウンサーと機械担当に別れる。


俺はアマチュア無線の免許持ち(中学から持ってるのは珍しかったらしい)だったんで当然のように機械部門。


まあ、もう少し色気付くと「女の子の多いアナウンサー部門が良い」とか思うんだろうけど、思春期に手が届ききっていなかった俺には、放送室内の高価なアンプや4レーン別録音が可能なオープンリールレコーダーとかのほうがよっぽど楽しげでね。

結構早くから先輩差し置いて好き勝手に機械を弄れる環境を手に入れて、気がつけば放送部機械部門チームの中心になっていた。


で、本題!!


二年先輩の高校三年に俺と同じ桂木(かつらぎ)姓のアナウンサーがいた。仮に「瞳(ひとみ)」さんとする。

この人が今思うと美人さんだった。

整った目鼻立ちもさることながら、セミロングのさらさらな髪。

、、あの頃はさらさらな髪って維持が難しかったのよ?

それと制服も今と違ってタイも色気も無い普通のワイシャツに紺のスカートなんだけど、それでも他の人とは一線を画するバランスの良いスレンダーな体型がとても目立っていた。

(あえて類似をあげるなら、すずめの戸締まりの鈴芽ちゃん)


まあ桂木なんてあまり被らない名字が同じだとどうなるか?

先輩は俺のことを名前で「三月(みつき)くん」と呼んでくれていた(普通は部の仲間なんか名字読みね)。

まあガキだった俺は頑なに「桂木先輩」呼びだったんだけどね。

手の掛かりそうな弟扱いだったんだろうけどそこそこ仲良くして貰っていたと思う。

後で聞いたら桂木先輩は学年トップクラスに人気があったらしいのだけど、ずっと同学年のハンドボール部の部長さんに片思いをしていて、昨年の秋の文化祭後にやっとカップルになれたのだと聞いた。

、、、まあ、見てくれのガタイはともかく中身がガキの俺にはあまり興味が無かった。


桂木先輩には女の子にあまり興味無さそうな俺が便利だったらしく、何かで男女ペアみたいな組み合わせが必要な場合は決まって俺が指名されていた。彼氏持ちでモテる彼女にはモテるなりの大変さがあっんだろうなあ、知らんけど。

ーー

ーー

夏休みが終われば、三年生なんてどの部活も引退だろう?

放送部も一緒。ここで顧問が名物先生らしいところなんだけど、上手い具合に夏休みの合宿予算を分捕ってきてね。これが事実上の三年生引退イベントってね。


放送部は一学年4~6人位のこじんまりとした集まりなんだけど、俺たちは本栖湖畔のバンガローに二泊することになった。今思い出しても「これのどこが放送部の合宿?」って話だけど。

ーー

瞳「三月くんお願いがあるんだ!合宿の時は出来るだけ一緒にいてくれないかな!?」

ーー

、、別に俺がモテていたとかそんな話じゃないよ?要は合宿中の桂木先輩の男避けを仰せつかった訳だ。

まあ別に断る理由も無い。正直、好きで放送部に入って来た同輩の連中と好きでもないのに放送部に叩き込まれた割りに知識で機械を占領している俺とは微妙に距離が有ったしね。

湖畔のバンガローの合宿で美人の桂木先輩とペア。色々楽しいこと有った!、、と思いそうだよな?

でも記憶に残ってないから大したこと無かったんだろうと思う。

かろうじて、「トランプ大会」や「王様ゲーム」をやったなあ、、、とかは覚えてるんだけどね。


ただね、、強烈に記憶に残っているのは、最終日の夜と、、その後の話。

ーー

ーー

合宿二日目は、大雨だった。


デカいバンガローの、より広め(といっても男女全員集まるとぎゅうぎゅう)の男子部屋に集まった俺たちは、中止になったペアの肝試しの代わりに百話怪談をやっていた(またまた桂木先輩とはペア)。


何話目だったかな?三年の半田先輩(この人、俺と同じ機械部門でガンダムヲタク。とっても仲が良かった)の番になった。


半田「これは、ここ本栖湖の話だ。俺たちの合宿の一週間位前の話なんだけど、ここで殺人事件が有ってね。犠牲者は女子大生だったんたけど犯人は死体を湖に投げ捨ててね?」

半田「犯人は捕まったんだけどね。警察が捜索してるんだけど、まだ死体が見つかって、、」


瞳「ひっ!!三月くん!」

突然、桂木先輩が隣の俺の腕を掴んできた。


瞳「三月くん!窓のところを誰か通った!」

実はあり得なかった。このバンガローは斜面に建っている。窓のところの地面は遠いんだ。


皆が窓に目を向けたその瞬間、部屋が停電した。


「きゃあ!!」


黄色い悲鳴が響く(別に女性が桂木先輩だけって訳じゃないよ?放送部の4割が女性だし)。

しばらくして、電気は回復したんだけどさ、さすがに気持ち悪いって話になってさ。

百話怪談はその場で終了して、女の子は女子部屋に帰っていった。

百話怪談って、百話まで読んではいけない。

でも、実は99話までは読まないといけないのね。

翌日は晴れだったんだけど、バンガローの男子部屋と女子部屋の窓には、人の手のひらの跡が外から幾つか付いていた。

あれは未だに良くわからない

合宿の帰り、出来るだけ男子が女子を送っていってくれとの話になった。

前日、窓の外にあり得ない人影を見た桂木先輩の怯えかたは酷かったんだけど、先輩、同じ方向のやつが居なくてね。男子の先輩たちはこぞって申し入れたんだろうけど、なんか当然のように俺が送っていく羽目になった。

瞳「三月くんごめんね。家の方向違うのにね」

「本当です」

瞳「、、そういう時は、いいえこれくらい何でもないですくらい言えないとモテないよ!」

「だって、もう駅から結構歩いてますよ?」

瞳「良いよもう!家バレも嫌だからここまでで!」

「本当っすか!じゃあお疲れです~」

瞳「もう!君は本当に!って、あれ?、!わぁっ!!」

ーー

突然の雨、俺たちは必死に軒に避難。

ーー

「先輩のところってまだ遠いんすか?」

瞳「う、、うん。まだ10分くらい。」

「まじっすか?バスとか無かったんすか?」

瞳「だって、、トータルあんまり変わらないんだもん」

「仕方ないっすね。これ貸しますので」

瞳「、、これって折り畳み傘、、三月くんはどうするの!?」

「雨、弱くなったら走って帰ります」

瞳「駄目だよそんなの!」


押し問答の割には雨は弱くならず、結局は傘を共有して先輩の家まで行くことに。

先輩の家の後ほんの少しのところ


瞳「!!玄関の前に誰かいる?」

「先輩、ここにいて、、」

瞳「で、でも、、不審者だよ?ナイフでも持ってたら、、」

「、、距離は取ります、、」


雨は好都合だ。俺は3メートル位まで近づいて


「誰だ、お前!」


一瞬振り返った顔。血走ったような目。その男は、少し離れた桂木先輩を一瞥すると反対方向に走り去った。

足には自信がある。

だけど、追えなかった。

経たり込んだ桂木先輩を残してこの場を離れることは出来なかったんだ。

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