第66話:緊急の話し合い

「おや? リドル君、どうしたんだい?」


 大急ぎでリディアルに戻ってきた俺は、すぐにナイルさんの屋敷へ向かった。

 タイミングよくナイルさんも屋敷にいてくれたので、俺はすぐに事情を説明する。


「実は、石材の採掘中に、洞窟の奥で新しい通路を掘り当ててしまいまして、未知の魔獣が出てこないとも限らないため、相談しに戻りました」

「新しい通路だって? その通路は今、どうなっているんだい?」

「ガズンさんたちとミニゴレ、ゴレミが見張ってくれています。埋めるのもありだとは思うんですが、新たな資源があるかもしれないし、探索するのもいいかなとは思っているんですが……」


 俺が今の気持ちを伝えると、ナイルさんはしばし思案顔になった後、一つ頷いてから口を開く。


「……探索、いいのではないかな?」

「いいんですか? もしも何かあったら、村が危険な目に遭うかもしれないんですが……」

「私たちはリドル君のおかげで、今こうして多くの資源を得ることができている。昔では考えられなかった状況だ。だから、君の思う通りにしてくれたらいいんだよ」


 ナイルさんの言葉を聞いて、俺はどう返事をしていいか分からなくなってしまう。


「……悩んでいるのかい?」

「……はい」

「悩むのもいいことさ。そうでなければ領主は務まらないだろうからね。だが、悩んだ末に動かず、後悔するくらいならば、思い切って行動するのもありだと私は思うけどね」


 柔和な表情でそう口にしてくれたナイルさんを見て、俺の決意は固まった。


「……ありがとうございます、ナイルさん! すぐに戻って、ガズンさんたちにも伝えてきます!」

「すぐに探索を行うのかい? なら、食糧は豊富に持って行った方がいいんじゃないか?」

「確かに! 石材を置いて、食糧を詰めたら、すぐに向かいます!」

「気をつけるんだよ」

「はい!」


 ナイルさんに見送られ、俺は石材置き場に切り出した石材を魔法鞄から取り出すと、一度屋敷に戻って食糧を詰めていく。

 そして、屋敷を飛び出したところでルッツさんと顔を合わせた。


「どうしたのですか、リドル様?」

「新しい通路を掘り当ててしまって、これからガズンさんたちと探索を――どわあっ!?」


 早口で説明していると、突然ルッツさんが顔をずいっと寄せてきた。


「あ、新しい発見がありましたら、ぜひとも教えてください! そして、採取できるようであれば、採取もお願いいたします!!」

「……わ、分かりました」

「必要なものはありませんか? 探索のためなら無償でお譲りいたしますよ!」

「だ、大丈夫かと。それじゃあ、行ってきますね!」

「お気をつけて!」


 さすがは商人だ。お金になるかもということであれば、遠慮なくお願いしてくるんだな。

 でも、ルッツさんの言うことも確かだし、何か新しい発見があれば持ち帰るとしよう。

 ……あれ? なんだろう、探索するとなってから、俺の心が不思議と弾んでいる気がする。


「……はは、不謹慎だな。俺、探索を楽しそうだと思っちゃってるよ」


 日本にいた時も、子供の頃の探索は自然と気持ちが弾んでいたものだ。

 田舎の森の中に行ったときなんかは、迷子になるんじゃないかと親に口酸っぱく注意されるくらいには、歩き回っていたっけ。

 それが洞窟、それも新しく掘り当てた通路の探索だというのだから、気持ちが弾まないわけがない。

 せっかくの探索だ。危険は伴うだろうけど、迷惑にならない程度には楽しんでもいいかもしれないな。


「これくらいの我がままは、言ってもいいよな?」

「ガウー?」

「ミー?」


 ぼそりと俺が呟くと、レオとルナが顔を上げてこちらを見てきた。


「……レオとルナも、洞窟の探索は楽しみか?」

「ガウガウ!」

「ミーミー!」


 二匹も嬉しそうに声を上げ、洞窟へ向かっている俺の足元でぴょんぴょんと跳ね回っている。


「そうだよな。最近はリディアルの中と、魔の森でも同じ場所にしか行ってなかったもんな。……よし、今日の探索は、レオとルナに思いっきり活躍してもらおうかな!」

「ガウーン!」

「ミミー!」


 やる気に満ちた声を上げた二匹に笑みを向けながら、俺たちは再び洞窟へと急いだ。

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