第23話:まさかの一軒家と宴

 切り出しを終えた傍から、ミニゴレとゴレミが洞窟の外へ運び出してくれる。

 外に運ぶだけで大丈夫なのかと思っていたのだが、戻ってきたミニゴレから、ゴレキチとゴレオが戻ってきていたと報告を受ける。

 バケツリレーみたいに石材を運び出しているのだと知り、ミニゴレたちも考えて動いてくれているだと感動してしまう。

 俺はといえば、切り出しの力にもなれず、運び出しの力にもなれず、ただただ従魔たちの働きを見守ることしかできない。


「……俺の存在とは、如何に」


 そんなことを考えながら見守っていること――三時間。

 木材とは違い量が必要な石材も、結構な量を切り出すことができたと思う。

 あとは洞窟の入口に残っている運び出した石材を村まで運ぶだけ……そう思っていたのだが。


「……マジか? もう、四つしか残ってない?」


 この四つ、ミニゴレたちが一つずつ持ってしまえば、そのまま戻れるではないか。


「有能過ぎんか、小人ゴーレム?」

「「「「ゴッゴゴー!」」」」


 俺の呟きを受けて、元気に応えてくれたミニゴレたちが揃って右腕を上げてくれた。

 ……こういう揃っているのも、可愛いな。


「「「「ゴゴゴゴー!」」」」


 可愛いミニゴレたちが、巨大な石材を軽々と持ち上げてしまう姿は、ある意味でギャップ萌えな感じがするね。

 そんなことを考えながら、俺はみんなと一緒に村の方へ戻っていった。


 村に到着すると、再び入口の方に村人たちが集まっている。

 しかし、今回は俺の心配をしてではなく、入口に集められた資材の量に驚き、眺めていた。


「戻りました」

「うおっ!? ……なんだ、リドルじゃねぇか」


 俺が声を掛けると、誰も気づいていなかったようでコーワンさんが驚きの声をあげた。


「リドルですけど何か?」

「何か? じゃねえよ! なんだよこれ、マジですげえじゃねえか!」

「それは……俺も驚いています。ミニゴレたちがものすごく有能でした」

「「「「ゴゴゴゴー!」」」」


 再びミニゴレたちが揃って右腕をあげたことで、コーワンさんは苦笑を浮かべた。


「確かに、こいつらも有能だ。だが、一番有能なのはお前だぞ、リドル?」

「俺ですか? いやいや、俺はみんなの働きをただ眺めていただけですよ?」


 事実を伝えたのだが、何故かコーワンさんは渋面になる。


「あまり自分を低く見せるもんじゃねぇぞ?」

「いや、事実なんですけど?」

「……はぁ。まあ、いずれ気づくだろう。そんじゃまあ、ひとまず来てくれるか、リドル?」

「えっと、分かりました」


 別に低く見せているんじゃなく、低いのが事実なんだけどなぁ。

 そんなことを考えながら、俺はコーワンさんについて歩いていく。

 進んでいく先を見て、ナイルさんの屋敷に向かうのだろうと俺は分かった。そのはずなのだが――


「あれ? あの、コーワンさん? ナイルさんの屋敷を通り過ぎちゃいましたよ?」


 予想外にナイルさんの屋敷を通り過ぎてしまい、俺は慌てて声を掛けた。


「目的地は村長のところじゃねぇ。お前のところだ」

「……俺のところ?」


 いったい何を言っているのかと困惑気味に聞き返したのだが、すぐにコーワンさんの言葉の意味を理解してしまう。


「……え? なんで、こんなところに? 前はなかったですよね?」


 ナイルさんの屋敷の隣には、ちょっとしたスペースが空いていた。

 そこに大きくはないが、立派な石造りの屋敷が一軒、建てられていたのだ。


「……これは、いったい?」

「これはリドル君の屋敷だよ」

「ナ、ナイルさん? いや、俺の屋敷って……え?」


 目の前にある石造りの屋敷から出てきたナイルさんにそう言われ、俺はますます困惑してしまう。


「村長に言われてな! 最初に建てる石造りの屋敷は、領主であるリドルの屋敷じゃなきゃダメだってな!」

「いや、でも……」

「私たちはリドル君に感謝しているんだよ。それも、多大な感謝をね」


 ナイルさんがそう口にすると、一緒に屋敷から出てきたルミナさんにティナさん、それにコーワンさんまで頷いている。


「私たちだけではない。村のみんなが、君に感謝しているんだ」

「だけど、屋敷の改善はまだ……」

「君がいなければそもそも、屋敷の改善をやろうという意識すらなかったのだ。これは大きな変化なのだよ、リドル君」


 柔和な笑みを浮かべながらそう言われ、俺は涙ぐんでしまう。


「……本当に、いいんですか?」

「そのために、コーワンにお願いして建ててもらったんだ」

「ゴレキチとゴレオも頑張ってくれたんだぞ!」

「「ゴゴー!」」

「ゴレキチ、ゴレオ!」


 二匹も頑張ったと言われてしまえば、俺に断る理由は見当たらなかった。


「……分かりました。本当にありがとうございます!」


 涙が零れる前に腕で拭い、俺は元気よくお礼を口にした。


「そして今日は、リドル君の屋敷が完成したお祝いをしようと思っているよ」

「お祝いって……あー、もしかして、コーワンさん?」

「がはははは! せっかくの高級肉だ! みんなで食べた方がいいじゃねえか!」


 どうやら高級肉を食べるための宴のため、俺の屋敷の完成を急いだ……わけないよな。

 しかし、屋敷のサプライズは本当に嬉しい限りだ。

 これだけのことをしてもらったのだから、もっとこの村にお返しをしていかなければならないな。


 そして、その夜。

 予定通りに宴が開催された。


「肉、うっまっ!」


 高級肉と言われるだけはあり、肉自体に甘味があり、口の中でとろけてしまう肉を頬張り、俺は恍惚の表情を浮かべてしまう。


「どうだ、リドル! やっぱりこういう肉は、みんなで食べた方が美味いだろう!」


 そこへコーワンさんがやってきた。

 お酒臭いのは宴のお約束で、俺は苦笑しながら集まった村人たちを眺めていく。


「……そうですね。みんなが笑顔で騒いでくれるなら、それが一番ですね」

「こんな時まで真面目か? まあ、それがリドルのいいところなんだろうな! がはははは!」

「……お酒臭いので、あまり笑わないでくださいね?」

「そう言うなよ! がはははは!」


 ……マジで臭いよ、コーワンさん。

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