第9話:次にテイムするべきは

 俺たちはグースに案内されながら、森の中をさらに奥へと進んでいく。

 村からは結構離れてしまったが、本当に大丈夫なのだろうか。


「……なあ、グース? この先に本当に、花畑の土を作った魔獣がいるのか?」

「モグモグ!」


 もちろんだと、自信満々に返されてしまった。

 ……いや、そうだとも。俺が従魔たちのことを信じないで、どうするんだ!


「……とはいえ、やっぱり他の魔獣は怖いんだよなぁ~」


 こちとら元日本人で、争いとは無縁の生活を送ってきたのだ。

 近くにこわ~い魔獣がいると分かっていて、安心できるはずがない。


「ガウガウ!」

「ミーミー!」


 そんな俺の恐怖を感じたのか、レオとルナが俺の足元に寄り添ってきた。


「……お前たちが強いってのは十分、分かってるよ。分かってるけどさぁ~!」

「……ガウ~」

「……ミ~」


 そんな呆れたような鳴き声を出さないでくれよ! 怖いもんは怖いんだからさ!


「モグモグー!」


 そんな話をしていると、前を進んでいたグースから声が掛かった。


「と、到着したのか?」


 俺が急いで進んでいくと、そこはなんの変哲もない、拓けた場所だった。


「……なんだ、ここ?」

「モグモグー! モグ、モグモグ!」

「え? あっちを見ろだって?」


 グースがズボンのすそを引っ張り、広場の中央を指さした。


「どれどれ? ……うーん、なんにもいないみたいだけど?」

「モグ! モーグー!!」


 ちょっと待てって! そんなにズボンのすそを引っ張るなって!


「近づいてもいいのか?」

「モー……モグ」


 え? なんだよ、今の間は。いいみたいだけど、気になる間なんだけど?


「モグモグー」

「どうぞどうぞって……ん? グースは行かないのか?」

「モグ」


 ……なんで?


「ガウー」

「ミー」

「え? レオとルナも?」


 どうしてものすごい勢いで頷いているのかな、二匹とも?


「……えぇい、ここまで来たら絶対に見つけてやるんだからな!」


 無駄足だけは絶対に嫌だ! なんだか怖いけど、行ってやるよ!

 というわけで、俺はグースたちが行くのを嫌がっているっぽい、広場の中央へ歩き出す。


 ――ぐにゅ。


 ……ん? なんだか、いや~な感触が、足元でしたような?


「モグ~」

「ガウ~」

「ミ~」


 ――ぷぅぅ~ん


「…………くっさああああぁぁああぁぁっ!?」


 嘘だろ!? マジか? マジなのか、これは!!

 この一帯の茶色い土はもしかして――魔獣の糞なのか!?


「……ギギ?」

「今さらかよおおおおっ!?」

「ギギ!?」

「あぁっ!! ごめん、ちょっと待ってくれええええっ!!」


 土の……ではなく、糞の中から顔を出した魔獣に大声をあげてしまい、その魔獣が再び潜ろうとしたので、慌てて声を掛けた。

 なんだろう、このデジャブ感。


「……ギ、ギギ」

「マジでごめんて! お前の力が必要なんだよ!」

「モグモグー!」

「ギギ? ギー! ギギー!」


 おぉ、グースが糞の魔獣と会話を始めたよ。


「モグ! モグモグー!」

「ギギー?」

「モーグモグモグ!」

「ギー? ……ギギー?」


 ……グースの話はテイムしているから分かるんだけど、糞の魔獣の話は分からないなぁ。

 まあ、グースが説得してくれているみたいなんだけど、やっぱり俺が言葉を尽くさないとダメだよな。


「俺は今、近くで暮らしている人たちの食糧改善のために動いているんだ。ここの土……糞か? これが植物の成長に重要だってことを、グースから聞いたんだ」

「ギギー?」

「モグー!」


 グースに本当か? みたいな感じで確認しているのかな、これは。


「本当だよ。お前がこの森で暮らせるよう手助けもする。だからお願いだ、力を貸してくれないかな?」

「ギギー……」


 糞の魔獣が悩み始めた。……結構悩んでる。……まだ悩んでる。…………ま、まだかな? ここ、なかなかに臭うんだけど?


「……………………ギギ!」

「いいのか?」

「ギギー!」

「ありがとう! それじゃあ早速テイムを……あ」


 そうだった。

 テイムをするには、魔獣と触れ合わなければいけないんだった。


「ギギー!」


 ……ですよね~。糞の着いた節足、ですよね~。

 しかし、背に腹は代えられない!


「よろしく頼むな!」

「ギギー!」


 俺は伸ばされた糞の魔獣の節足に触れ、テイムを完了させた。


「えぇっと、種族は……へぇ、黄金コロガシか」

「ギギー!」


 日本でいうところの、フンコロガシみたいな奴なのかな?

 でもまあ、テイムできたからひとまずは良しとしよう!


「名前はどうしようかな……」


 黄金コロガシ……オウゴンコロガシ……オウゴン……コロガシ……よし!


「決めた! お前の名前はゴンコだ!」

「ギギー?」

「あ、あれ? 嫌だったか?」

「ギギー……ギー! ギギー!」


 最初の反応こそ微妙そうだったけど、納得してくれたみたいだ。

 それにしても……みんな、俺のネーミングセンスをどう思っているのだろうか。

 納得してくれているからいいんだけど、まさかテイムされたから仕方なく、とかではないよな?


「……だ、大丈夫、だよな?」

「ギギー!」

「ん? どうしたんだ?」

「ギー! ギッギギー!」


 突然ゴンコが鳴き出すと、一塊になった茶色い、丸いものを持ってきてくれた。


「……えっと、ゴンコ? これってもしかして、糞?」

「ギギギギー!」

「え? 違うって?」

「ギギー! ギッギギー!!」


 なるほど、そういうことか。

 これがグースの花畑を作り出した、栄養豊富な土の塊だったんだな!


「ゴンコはここで、糞を使って栄養豊富な土を作り出しているんだな!」

「ギッギギー!」


 これはすごいぞ!

 グースとゴンコ、二匹がいれば村の食糧事情を大きく改善できるかもしれない!


「ゴンコはここで、この土をたくさん作ってくれるか?」

「ギギー!」

「ありがとう! グースは俺たちと一緒に、村へ来てほしい!」

「モグモグー!」


 あとはナイルさんの許可を得るだけだ!

 ……その前に、足に着いた大量の糞をどうにかしないとだけどな。

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