彼女という名の1年間

ゆうさん

第1話 カウントダウンスタート

何の変哲のない男子高校生である柳千尋やなぎちひろ。18歳の誕生日の朝にいつも通り学校へ行って下駄箱を開けると、そこにはなぜかケースに入った高級そうな指輪と記入済みの婚姻届けが入っていた。


 「お~千尋。どうした?自分の下駄箱の前に突っ立て。」


千尋がよくわからない状況に呆気に取られていると、クラスメイトの城戸秀斗きどしゅうとが話しかけてきた。


 「なぁ秀。下駄箱に入っている靴以外の物ってだいたいチョコかラブレターが相場じゃない?」


 「あ?まぁそうなんじゃないか。本当にどうしたんだ?・・・ってこれはまた。」


秀斗は千尋の下駄箱に入っていた指輪と婚姻届けをみて、少し引いた顔をしていた。


 「ちなみに差出人は?」


 「えっと。」


千尋が差出人を確認しようと婚姻届けに手を伸ばした瞬間、すごい足音とともに一人の女子生徒が走ってきた。


 「その婚姻届けを手に取ろうとしたね。さぁ、それに印鑑を押して提出しに行こうちーちゃん。後、誕生日おめでとう。」


 「はぁ~鏡花きょうか。やっぱりお前か。」


入ってきた女子生徒は浅沼鏡花あさぬまきょうか。千尋の2歳年下の高校1年生で家が向かいの幼馴染だ。


 「これはなんのいたずらだ。指輪に婚姻届けってしかも記入済みの。」


 「いたずらだなんてひどいよ。ちーちゃん、覚えてないの?」


 「何が?」


 「12年前に約束したじゃん。お互い結婚できる年齢になったらその日に婚姻届けを書いて入籍しようって。」


 「この手の約束にしてはやけに具体的だね。」


 「前から変な知識ばっかり身に着けるからなこいつは。」


 「私も一昨日16歳になったし、ちーちゃんは今日18歳になった。つまり、法律という名の障壁がなくなったんだよ。さぁその婚姻届けを一緒に提出しに行こう。」


 「なぁ秀。今日って確か数学の小テストあるんじゃなかった?」


 「そうじゃん!まぁいいや数学なら教科書みればわかるし。」


 「この理数系が。」


 「待って待って!シカトだけはやめよ。流石に泣くよ。16歳が本気で泣く姿見たくないでしょ。」


鏡花は千尋の足にガッチリとしがみつき、離そうとしなかった。


 「どんな脅しだよ。足にしがみつくなよ危ないから。っていうか、その婚姻届けと指輪はどこで手に入れた?婚姻届けはともかく指輪は鏡花が買えるような物じゃないだろ。見た感じ結構高そうだし。」


 「確かにこの指輪給料3か月分じゃすまなそうだけど。」


 「あ~これ?今朝お母さんが『これでちーくんを我が物にしてきなさい。大丈夫、私もお父さんとそうやって結婚したから。』っていってくれた。婚姻届けも後はちーちゃんが書いて印鑑押したら提出できるようになってるよ。」


 「おばさんの仕業か。」


 「親子そろってすごいね。?待って。後は千尋が書くだけって言ったよね。幼馴染ちゃんの保証人は両親のどっちかとして千尋の保証人は?」


千尋は鏡花から婚姻届けを見せてもらうと、保証人の欄には父親の名前と印鑑が押されていた。


 「親父の名前。いつの間に書いてたんだよ。親父今海外に単身赴任中だぞ。」


 「あぁ~それはね。ちーちゃんのお父さんが海外赴任に行く前に5時間かけて説得して書いてもらった。頑張ったんだよ。私の結婚に対する意志とかちーちゃんじゃないといけない理由とかを示すために口頭とパワポを使って。」


 「凄まじいね。結婚の許しを得るためにパワポまで使ったのは多分幼馴染ちゃんが初めてだろうね。」


 「だから、あの日げっそりしてたのか。」


 「ねっねっ。私の親も公認だしちーちゃんの親からも許可もらったから結婚しようよ。大丈夫。必ず幸せにして見せるから。」


鏡花は飼い主を見つけた犬のような目で千尋を見つめた。


 「だから結婚はしないって。」


 「痛い。」


千尋は鏡花の額にデコピンをした。


 「俺は学生結婚をしたくないの。資金面とか責任面とか今のままじゃあどうしても超えられない壁っていうのがあるからね。このまま結婚しても負担をかけるだけだし、俺は結婚するならきちんと社会を経験をして自分で納得のいく大人になってからしたいの。わかった?それには、時間がかかるから鏡花も他にいい人が見つかるかもしれないだろ。」


 「う~ん。・・・わかったよ。嫌がるちーちゃんと結婚しても楽しくないだろうから。それじゃあ1年間だけ待つね。」


 「はい?1年?」


 「うん1年。来年のちーちゃんの誕生日の日まで結婚は待つ。それまでの1年間でちーちゃんがさっき言ってた大人になるための環境を整えてあげる。もちろん私と結婚したいって思ってもらえるように猛アプローチもするから。」


 「それに私はちょっと怒っているんだよ。ちーちゃん。ちーちゃんさっき、『他にいい人が見つかるかも』って言ってたでしょ。まさか、私の今までの愛がその程度だと思われてたなんて悲しいよ。私はちーちゃん以外と結婚する気はないしちーちゃん以外の男性は眼中にないの。それほどまでに愛しているの。覚悟しててね♡」


この時の鏡花の目は先程までの可愛らしい目ではなく獰猛な捕食者の目をしていた。



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