15 「あれは、素直に嬉しかったんだ」

「どうしてって……そりゃ」


 我ながら、ずるい聞き方だなって思った。「ゴウくんのことが好きだからさ」なんていう返事を、心のどこかで期待していたんだ。


 名浜さんが顔を赤らめて、恥ずかしそうにしてくれればよかったんだけど、残念ながらそんなそぶりは見せなかった。そして、僕の期待していた答えとは違う言葉が返ってきた。


「人間の中で、ゴウくんが一番からさ」


 ……どういうこと?

 僕が言葉に詰まっていると、名浜さんが続けた。


「転校してきた初日のことを覚えているかい? みんなが私の席に近づいてきて、たくさん話をしてくれた」


 ……ああ、そうだった。僕も話しかけたかったけど、あまりの人の多さに話しかけることができなかったんだった。


「そのとき、みんな下心がみえみえだったんだよ。私、転校生に優しくしていて偉いでしょっていうアピールをする女子だとか、カワイイ女の子と友達になったら自分もカワイく見えるだろうと思っている女子とか、私のことを何も知らないのに外見だけで判断して好きになろうとする男子とかね……」


 ……名浜さん、そんなことを思っていたのか。


「だから私は次の日から『下心がある人は私に話しかけることができない』魔法を使っていたんだ。そうしたら、話しかけてくれる友達は少なくなったよ」


 ……なるほど、だからみんな、名浜さんの転校初日はあれほどまでに騒いでいたのに、数日経つと急に落ち着いたというわけか。


 これまでの学級の様子について、妙に納得できた。


「そんな中、困っている私にゴウくんが声をかけてくれた。『よかったら理科室の場所、教えるよ。一緒に行かない?』ってね。あれは、素直に嬉しかったんだよ」


 ……私のことを何も知らないのに外見だけで判断して好きになろうとする――これ、まさに僕のことなんだけど。理科室に行く前に声をかけたときは、そういう気持ちは関係なしに話ができて……いたんだろう。ちょっとだけほっとした。


「だから、私はゴウくんの隣に座りたいんだ。話しやすいし……それに、ちょっと今後、助けてもらいたいこともあるからね」


 そう言うと、名浜さんは足を止めた。

 ちょうど横断歩道のある交差点。僕はまっすぐ。名浜さんはここから右に曲がって帰るようだ。


「というわけだ。今日はたくさん話ができて楽しかったよ、また明日。ゴウくん」

「うん、凰ちゃん。また明日」


 名浜さんの姿が見えなくなるまで見送ると、僕は大きく息を吐いた。



 はぁぁぁぁっ。



 名浜さん、僕のことが好きっていうわけじゃないのかぁ。心が汚れていないから……かぁ。心が汚れていないって……そういうふうに思ってもらえただけでもよかったと思わないと。


 それと、助けてもらいたいことって何だろう。


 魔法が使える名浜さんなんだったら、助けなんていらないかもしれないけど、僕を頼ってくれているっていうのは悪い気はしない。

 むしろここで助けてあげたことで名浜さんからの好感度が上がるかも……いやいや、こういう下心がいけないんだったよな。気をつけないと。


 うーん。

 思い当たるのは、高橋さん、鈴木さん、佐藤さんたち女子三人組のことか、隣のクラスのイケメン伊藤朱里雄のことぐらいだけど……。


 僕はそのどちらにも、何か言えるほど強くないんだけどなぁ。

 いったい、何を助けてあげればいいんだろう……。


 そんなことを考えながら、僕は家路についた。

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