14 「凰ちゃんは本当に魔王なの?」

「さて、何から話せばいいものか……」



 名浜さんと一緒に歩いて帰っている。しかも横に並んで。


 ドキドキはしているけれど、一緒に帰っているというドキドキではなくて、名浜さんが何を話してくれるのかというドキドキだ。


「えっとさ、まず魔王の話から教えてよ」

 僕が言うと、名浜さんが答えてくれた。


「名浜凰というのは、人間の世界での私の名前さ。信じてもらえるかどうかわからないけど、本来は魔界に住んでいるんだ。ちょっとわけあって、今は人間の世界で暮らしているんだけどね」


「え、な……凰ちゃんは本当に魔王なの?」

「ああ、そうだよ。転校初日にもそう言っただろう?」


 いや、「名は魔王だ」って、もちろん誰も信じてはいなかったけど……あれは冗談じゃなくてほんとだったってことなのか!


「魔王ってことは、本当の姿はもっとゲームのラスボスみたいな姿をしている……ってこと?」

「ゲームのラスボス? ちょっとよくわからないけど、魔界でも基本的に姿形は変わらないよ。着ている服は違うかもしれないけど、私は私だ」


 一瞬、頭の中で禍々しい悪魔の姿を想像してしまったけど、そうじゃないことを聞いて僕は安心した。となると、次に気になるのはやっぱり。


「魔法についても教えてよ。凰ちゃんはどんな魔法を使えるの?」


 それについても名浜さんは「ああ、構わないよ」と軽い返事で答えてくれた。


「まあ、正直言って何でも使えるよ。例えば……相手のお腹を一瞬でゆるくしたり、とか」

 そう言って、僕の方を見てニコッと笑った。


 あっ! 僕の頭の中に、先日の光景――僕のことを「ガチャ」と呼ぶと、突然お腹が痛いと言いだした山田と田中の姿――が思い浮かんだ。


「やっぱり、あのときも――?」

「そうだね、ちょこっと魔法を使わせてもらったよ。ああいう言っても聞かない人間には多少のお灸を据えてやらないとね」


「その魔法って……一生続くの?」

「いやいや、効果は徐々に切れていく。今頃はもう何ともないはずだよ」


「でも、いまだに本人たちは呪われているって言いふらしているみたいだけど……」


 名浜さんが僕の方にポンと手を置いた。



「はっはっは! 病は気からとよく言うじゃないか。呪われていると思うから、体がそう反応しちゃうんだろうな!」



 僕は少しだけほっとした。山田と田中の呪いがずっと続くのは、僕にとっては嫌な名前を呼ばれなくなるからいいことなんだけど、流石にかわいそうすぎるかなと思っていたから。


 だけど、本当のことを二人に教えたら、また名前でからかわれそうだから、教えてあげないことにした。


「ちなみに、今も魔法を使っているんだ。私とゴウくんの話の内容が外部に聞こえないようにする魔法をね」


「えっ?」


 僕は思わず体のあちこちを触ってしまった。別に痛くも痒くもないし、魔法をかけられてことすらわからない。


「ああ、心配しなくていいよ。ゴウくんには何の影響もない。ただ道ゆく人たちに、私たちの会話が当たり障りのない話に聞こえるっていうだけの魔法だ」


 僕と名浜さんは、仲良く今日の学校の授業について話をしながら帰っている。というように、周りの人たちからは見えるんだって。信じられないけど。


「じゃあ、席替えのときのくじも……?」

「もちろん。ちょちょっと魔法を使って、数字を変えさせてもらったんだ」


 こんな感じでね、といって名浜さんがポケットから席替えの時に使ったくじを取り出した。そこには確かに15という数字が書かれていた。


「こうして魔力を込めると……」

 名浜さんの言葉の後、15という数字が、一瞬にして12に変わった。


「え! うそ?」


 僕は思わず名浜さんの手から12と書かれたくじを取り上げた。裏を見てみたり、太陽に透かしたりしてみたけど、手品のようにタネがあるわけではなかった。


 ――これは……本当に魔法だ! すごい、すごいぞ、これは!


「これで、私が本当に魔法が使えるってことを信じてもらえたかな?」

「うん、うん! すごいよ名は……凰ちゃん!」


 自分が魔法を使えるわけじゃないけど、なぜかドキドキが止まらなかった。これから、一緒に過ごしていくであろうクラスの友達が魔法を使えるだなんて、しかもそれが超絶美人の転校生で、僕にも気軽に話しかけてくれるなんて――あ。


 忘れていた。一番大事なことを聞くのを。


 これを聞いたらいけない気がするけど、どうしても聞いてみたい。もしかしたら胸のドキドキはこのせいだったのかもしれない。


 今話をしても、聞こえているのは名浜さんだけで、僕たち以外には違う話に聞こえるんだよね。だったら、チャンスは今しかない。


 僕は勇気を出して聞いてみた。

「凰ちゃんは……どうして、また僕の席の隣を選んだの?」

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