隣の席は魔王さま!?

まめいえ

第1話 転校生は魔王さま!?

1 「今日、転校生が来るんだって!」

「ねぇねぇ、知ってる? 今日、転校生が来るんだって!」

「かっこいい男子だといいなぁ!」

「えぇ〜! 二組の朱里雄ジュリオ君よりかっこいい男子なんているかなぁ?」


 まだ朝の八時をちょっと過ぎたぐらい。

 六年一組の教室に入ると、黒板の近くに集まっている女子三人組がそんな話で盛り上がっていた。

(へぇ、転校生が来るんだ。まだ六年生が始まってちょっとしか経ってないのに)


 今は五月。

 まだ朝はちょっぴり肌寒いけど、昼休みは汗をかくほど暑い。

 ようやく新しいクラスの友達の名前を覚えてきたかな、くらいのこの時期に転校してくるなんて……って、余計なお世話かな。


 そんなことを思いながら、僕は窓側の一番後ろにある自分の席に行き、ランドセルを下ろした。


「ゴウくん! おはよう。聞いた? 転校生が来るって」


 前の席に座っていた友達の千堂せんどう剛士たけしくん――僕はタッくんと呼んでいる――が、嬉しそうに話しかけてきた。


「おはよう、タッくん。あっちで女子たちもそんな話してたよ」

 僕はランドセルを開けて、中に入っている教科書を取り出しながら返事をする。


「……とっておきの情報があるんだけど、聞く?」

 教科書を全部引き出しにしまってタッくんの方を見ると、何かを言いたくて仕方がないっていう顔をしていた。

 はいはい、聞いてあげようじゃないか、と思ったら。


「だけど、じゃ教えられないなぁ……算数の宿題プリント、答えを写させてくれたら教えてあげよう」だって。


「……どっちにしろ、どうせプリントを見せてって言うんでしょ? いいよ。見せてあげるから教えてよ」

 僕はランドセルの中にあるファイルから、提出しようと思っていた算数のプリントを取り出すと、タッくんに手渡した。


「へへっ、毎度あり!」

 僕のプリントを見てぱぱっと答えを写し終えると、タッくんが口元を手で隠しながら、ひそひそ声で僕に話した。


「校長室をチラッとのぞいたんだけどさ、転校生はどうやら女の子らしいんだよ」


 確か、転校生って、朝の会が始まるまでは校長室で待っていて、時間になったら担任の先生が連れてくるんだよね。そうか、転校生は女子なんだ。男子だったら、もしかして友達になれるかも、とかちょっぴり思っていたけど、残念。


「やっぱさぁ、男子は背が高くないとね」

「目だよ、目! しかも二重ふたえ! それは外せない!」

「確かに! 朱里雄くんも超二重だし!」


 あれ、もしタッくんの情報が確かなものだとしたら、今もまだ嬉しそうに話をしている女子たちの期待は外れることになる。ま、僕にとっては女子の転校生と聞いた時点で、だいぶ興味がなくなってしまったんだけど。


「でな、一瞬だけ顔が見えたんだけど、結構かわいかった……気がする」

「それはさ、タッくんの好みってだけじゃん」

「いやいや、ゴウくんが見ても絶対かわいいって!」

「じゃあ、楽しみにしとく」 


 ちょっと心にもないことを言ってしまったかも。楽しみ……にはしていない。小学校高学年になって女子と仲良くしている男子なんて、ほとんどいない。休み時間とか昼休みは、男子は男子、女子は女子で集まって話をしたり、遊んだりするのが普通。

 今だってそう。


 まあ、ちょっと――ほんのちょっとだけ、どのくらいかわいいのかは見てみたいな、と思ったけど。


 タッくんから返してもらった宿題を先生の机の上に提出。そのあと、カバンだなにランドセルをしまう。そんないつも通りのルーティンをこなして、タッくんと他愛もない話をしていると、あっという間に朝の会の始まりを告げるチャイムが鳴った。


 キーン、コーン、カーン、コーン。


 それを聞いて、みんなバタバタと自分の席に戻る。しばらくすると、担任の町田先生が教室に入ってきた。


「よーし、朝の会を始めるぞ! っと、その前に、みんなに嬉しいお知らせだ!」


 先生の「嬉しいお知らせ」という言葉と同時に、タッくんが僕の方を向いてニヤリと笑う。ほら、さっき話をした転校生のことだ! って。

 町田先生もニコニコしていて、なんだか嬉しそうだ。


「うちのクラスに転校生がやってきたから、みんなに紹介しよう! 名浜なはまさん、入って!」


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