ありがとう

moon

思い出を抱きしめて。

抱きしめなきゃいけない思い出がある。



ステージの前にいた。


いろんなバンドがでるフェスに先輩がいる

目の前に君がいる。

あの日、バンドを組むと言っていた日には

ここからステージに立っている彼を見上げることなんて想像もしてなかった。

ライブハウスに初めて行って、彼のバンドを、声を、聴いたあの日から私の居場所は"そこ"にあった。

ライブに行く度に彼は私に


「ありがとう」


と言った。

簡単に投げ出そうと思っていたこの命も

彼からの"ありがとう"が増えるたびに命が重くなった気がして。

彼の音楽に何度救われたかわからない。



ステージに立っている彼。いつもは他人に見えてしまうのに、今は彼の声に抱きしめられているようですごく安心した。目が合った。

こんな幸せでいいのだろうか。

そんな贅沢な事を、考えてしまった。



一瞬で終わってしまった。

彼らのバンドに誰もが圧倒されていたと思う。

誰もが、彼らに救われている。


 



私はこのフェスでみたかったバンドがもう一つあった。

一曲一曲が、彼を思い出させる。

気づいた時には目から何かが溢れていた。

2人で見たあの水平線も、海も

真夜中に散歩したあの橋も、

届かないのに手を伸ばしてみたあの星空も

何度もタバコに火をつけたあの夜も

そんな日に隣でギターを弾いていたあなたの横顔も。

私は全部思い出すことができる。

そしてこれからもこの曲で思い出すことができる。


抱きしめる。








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ありがとう moon @andy0221

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