三日目① 初心者講習のお誘い

 朝起きて、食堂で食事を済ませて、ギルドへ向かう。

 これが朝のルーティンだ。


 まずはいつものように井戸で身支度を整える。

 汲み上げた水はやはり冷たくて、強制的に思考がクリアになっていく。

 周りを見れば井戸の周りは冒険者たちでいっぱいだった。

 この人たちも俺とさほど変わらないランクなんだろうな。

 ただ意外だったのが、幼い子供たちだけではないということだった。

 俺と同じくらいの年の男性もいるし、女性もいた。

 さらにはもっと年配の人もいた。

 きっといろんな事情で冒険者を目指しているんだろうな……

 なんて、勝手に想像するのは失礼かもしれないな。

 すると、一人の妙齢な女性と目が合った。

 あれ?これももしかしてテンプレ的な奴?


「おそいよ。」

「わりぃ~、ね寝坊した。」


 うん分かってたよ、俺の後ろから来た奴に気が付いたパターンのテンプレでしょ?

 ……

 …………

 がんばろう……

 

 

 

 身支度を済ませ食堂へ向かうと、ちょうど2回目の補充の準備が終わったばかりのようだった。

 お、今日の朝食は……ベーコンエッグにパンだ。

 ただ、パンがな……堅いんだよ……

 ハード系のパンは嫌いじゃないけどさ……限度があるでしょ?

 小さくちぎって一口噛んだら、速攻で顎が痛くなった。

 そしてがんばって食べ終わる頃、周りの人たちを見て正解が分かった。

 そう、スープに浸して食べれば良かっただけだった……

 明日からはそうします……


 朝食を済ませ少しお腹が落ち着いてきた段階で、隣にある冒険者ギルドへ足を向けた。

 すでに時間は早朝というタイミングが終わり、ギルド会館へ向かう冒険者の数はまばらだった。

 眩しい日差しに目を細めて宿舎の門を出るとき、担当職員から「行ってらっしゃい。気を付けて。」の声をかけられた。

 案外うれしいものだった。

 



ガランゴロンガラン


 昨日と同様に冒険者ギルドへ入り、クエストボードで依頼を探した。

 やはりこの時間だと、ほとんど残っていないみたいだ。

 もっと早く来ないと依頼がないのかもしれない。

 そういやそういうの全く説明されてなかったな。

 あとでキャサリンさんに話を聞いておかないとな。


 俺がクエストボードで依頼とにらめっこしていると、昨日の先輩冒険者たちを蹴散らしたおっさんに声をかけられた。


「お前さんは一昨日登録した奴だろ?」


 よく見ていたなって思った。

 他にも一昨日登録した冒険者なんて何人もいるはずだ。

 それなのにピンポイントで覚えているとか、どんな観察眼なんだよ。

 話はそれたけど、俺はこのおっさんが何者か知らない。

 また絡まれるのは面倒なんで、適当にあしらうのが正解だろう。


「そうですが何な問題でも?」


 俺はおっさんにそういうと、クエストボードへ目を向けて依頼を探し始めた。

 俺のランクに合う依頼はすでになく、高ランクのものばかりだった。

 おそらくだが、俺が受けられる依頼は争奪戦なんだと思う。

 それだけ、初級冒険者が多いのだろうな。

 それに、高ランクが残っているってことは、そうなんだと思う。

 高ランクに上がるのが大変なのか、それとも生き残ることが大変なのか。

 命の安い世界だから、きっと生き残りの問題なんだろうな。

 俺はしばらくクエストボードを見つめていると、下のほうに少し古ぼけた依頼書が数枚張られていた。


・下水道清掃(スライム討伐含む。)

・街中の美化(ゴミ拾い。清掃活動。)

・ゴブリン討伐(5匹単位で受付。)


 下水道清掃は匂いがやばそうな気がする。

 そもそも清掃活動にどうしてスライム退治が含まれるんだよ?

 むしろ街の地下にモンスターがいるってどうよ?

 更にどうやってこのモンスターの討伐数を確認するんだ?

 討伐部位の提出とかそんな感じなんだろうか?

 

 次の街中の美化は……むしろみんなで掃除しろよ!!って思う。

 つか、ポイ捨て禁止!!だめ!!絶対!!

 ポイ捨てされたゴミを回収する仕事か。

 楽といえば楽だけど、冒険者って感じじゃないよな。


 最後のゴブリン討伐……さすが異世界!!そそられるよな。

 冒険者の序盤のクエストの定番だろう。

 そして、馬車が襲われているのをみつけて、助けてトラブルに巻き込まれるまでが定番だよな。

 やばい、これ考えると絶対実現しそうだ。

 うん、忘れよう。


 俺がゴブリン討伐の依頼書に手を伸ばすと、もう一度おっさんから声をかけられた。


「警戒させてすまん。実はな、一昨日の受付嬢が仕事さぼりやがってな、初心者講習の説明をしていなかったんだ。それで改めて説明させてほしい。」


 おっさんはバツが悪そうな顔を浮かべて頭を下げていた。

 このまま無視してもよかったんだけど、話の内容的にギルド職員なんだとわかった。

 さすがにこれ以上無視したら怒られるだろうか……


「わかりました。」


 これでも俺は立派な?社会人。

 納得しなくても理解した体を装い、話をまとめることは得意だ(ブラック企業あるある)。


「助かるよ。おい、こいつを訓練場へ案内してくれ。」


 訓練場ですと?

 あれですか?

 新人をフルボッコにするっていうテンプレですか?

 よし、その喧嘩買った!!


 俺は意気揚々と、職員と一緒に訓練場へ移動した。

 そしてこの後俺は後悔することになる……

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