二日目② 東の森での薬草採取

 冒険者ギルドを後にした俺は、薬草採取のため、東の森に来ていた。

 東の森は初心者用の森とも言えるほど、穏やかな森だった。

 危険なモンスターも、動物もいないらしい。

 たまにゴブリンが出現するが、装備さえ整っていれば、なりたての冒険者でも倒せるらしい。

 それにしてもテンプレって、どこにでも転がっているんだなと改めて思った。

 



 少し時間を戻すが、俺が東の門を出ようとした時の事だった。


「君、装備もなしで森に行くのは危険だ。今すぐ引き返しなさい。」


 東門を警護していた衛兵に、いきなり呼び止められたのだった。

 俺は頭をかしげていると、衛兵は呆れた顔でさらに説明してくれた。


 武具の装備も無しに東の森に行くのは自殺行為だと。

 いくら初級冒険者用の森だといっても危険が無いわけではない。

 だから、ここの衛兵は冒険者への注意喚起を行っているらしい。

 そして俺は……全く装備してませんでした。

 うん、忘れてました。

 丸腰ってかスーツのまま森に行くところだった。

 改めて衛兵におすすめの武器防具屋の場所を聞いた。

 初級冒険者は必ず一度は訪れる店だそうだ。

 店の名前は……


『ガンテツ武具店』


 いかにも無骨そうな店の名前と店構えだった。

 一見さんお断りそうな雰囲気を醸し出していた。


カランコロン


「いらっしゃい。なんのようだ?」


 いかにもな店主が店番してました。

 そこは娘か孫娘が可愛い感じで「いらっしゃい!!」っていうのがテンプレでしょう?

 どうしてココはテンプレじゃないんだ……

 店内もいかにも的な内装だった。

 とにかく〝生き残る〟ことを前提とした装備品の数々。

 見栄えよりも性能を重視しているのか、そんな感じが見て取れた。


 俺自身目利きが出来るわけではないので、店の親父……ガンテツさんに初心者用の装備を見繕ってもらった。

 俺の体を見るなり、軽装備を中心に選んでくれた。

 選んでくれている最中にぼやいていたけど、どうやら初心者冒険者はここにきてから自分でそれっぽいものを選んでいく者が少なからずいるようだった。

 そういう輩は大概、自分に合っていない装備を選ぶみたいだけど、ガンテツさんが親切にやめておくように忠告してもキレてそのまま買っていくみたいだ。

 そして大概依頼失敗して文句を言いに来るのがワンセットらしい。

 どこにでもいるよなそういうやつ。

 

 装備品を選び終わり会計をお願いすると、料金は全部で銀貨80枚だった。

 ついでに戦闘用の服一式を売ってもらった。

 換えを含めて銀貨18枚だったが、今着てるスーツが珍しいからって下取りでタダでくれた。

 ありがたや。


 買い物が終わり、店を後にしようとしたとき、


「必ず装備を見せに来い。メンテナンスしてやるからよ。」


 と声をかけられた。

 つまりは死ぬなよ?ってことなのかな?

 そうか、ここは日本じゃないんだな。

 それほどまでに命が軽いのかもしれない。




 ガンテツさんの店を後にして改めて東の森へ行くために、東の門へと向かった。

 先ほどガンテツさんの店を教えてくれた衛兵に、お礼を言って門を潜り抜けた。


「行ってらっしゃい。気を付けてな。必ず帰って来いよ。俺はいつでもここにいるからよ。」


 なんて暖かいんだろうか……

 人の温かさが心に染み渡るようだった。

 あのくそ国王に爪の垢を煎じて飲ませたいよ、まったく。



 門を潜り目にしたものに、俺は心奪われてしまった。

 そこには広い広い大地が広がっていた。

 そよ風に揺れる足の短い草花。

 簡単に整備され、固められた街道。

 空を見上げれば澄んだような青空。

 ただ、空には2つの明るい光が輝いていた。

 どうやら太陽みたいなのか2つあるらしいな……

 うん、俺は本当に異世界に来たようだ……



 

 それから街道沿いの東の森に入った俺は依頼をこなすため、もらった絵を頼りにヒール草を探した。


 それにしても、俺は運が良いらしい。

 目的のヒール草はすぐに見つけることができた。

 うん、絵で探すより言われた物を探したほうが早かったよ……

 それから、周辺を隈なく探して歩いた。

 意外と探せばあるものだなと思った。


 数もすぐに揃ったため、無理をせず今日の探索を終えることにした。

 森を抜けて街道に出ると、同じく街へと戻る人たちがたくさん歩いていた。

 冒険者や商人、一般の人まで様々だ。

 街に戻った俺は、東門に居た衛兵に声をかけた。


「ただいま。約束は守ったからな。」

「おう、おかえり。明日も守れよ?」


 その一幕にまたジンとするものがあった。

 ん?そういえばあれから時間がだいぶたってないか?

 つまりブラック企業?!




 東門を抜けギルド会館へ戻った俺は、すぐにカウンターへと向かった。

 カウンターには朝もいた受付嬢……キャサリンさんが座っていた。


「ただいま。依頼のヒール草採取完了です。確認お願いします。」

「おかえりなさい。どうだった?初めての依頼は。」

「それが……」


 キャサリンさんに朝の一幕を説明すると、大いに笑われてしまった。

 たまにある初心者あるあるなんだそうな。


 キャサリンさんにヒール草を見せて、無事依頼達成だ。


「それじゃあ、この木札を持って奥の精算所へ行くといいわ。そこで木札と交換で依頼料がもらえるから。」


 俺はキャサリンさんから木札を受け取ると、奥にある精算所へ移動した。

 そこにも受付嬢が座っており、カウンターには〝木札を出してください〟と書かれた案内板が出ていた。

 俺はその案内通りに受付嬢に木札を渡した。

 木札を確認した受付嬢は、後ろの棚から小さな袋を取り出した。

 机の上に置くとじゃらりという音が聞こえてきた。

 中にはお金が入っているみたいだ。


「はい、銅貨10枚ね。確認して。」


 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10。

 確かに10枚だ。

 机に並べられた銅貨10枚がより現実味を感じさせた。

 俺は冒険者になったんだなと。


 清算を終えた帰り際、カウンターにいたキャサリンさんに挨拶をし、ギルド会館を後にした。



 しかし、装備にお金がかかったな……

 依頼料より高いとか……

 考えたら負けだ……



 よし、今日は遅いから宿に帰って寝よう。

 

 おやすみなさい。

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