終焉のジュメール

馬の骨

第一章 サイハテ

第一章 第一話 遭遇

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 時の鐘が鳴る。


 時代の変わりを告げる鐘。


 その音色はこの世界の果てまで響き渡った。


 その時、全ての生物は立ちどまり天を仰いだという。


 あの魔法使いの少女も例外ではなかった。


 『サイハテ神話』第1章 序章 より抜粋

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異世界ジュメール:ローゼリエット帝国 

王歴3245年299日 12時30分 

魔法帝国大学校第一校舎


「おーい、ロゼー行くよー」


 ラザリーが呼ぶ。


「……ああ」


 私は空を見ながら答える。少し見続けると、ラザリーが近くによってきた。


「なにを見てるの?」


 私が見ている空を見上げた後、ラザリーは首を傾げて聞く。


「明日、『時の鐘』が鳴る」


 私は考える間もなく言葉が口からでた。


 明日、この世界の何かが変わる。


 ・


 ・


 ・


地球:日本 

令和5年8月5日 12時30分 

陸孤島市 外村 名もなき山


「暑すぎる。今日は休みにするはずだったのに、俺は何をしてるんだ」


 超ド田舎……高校卒業……市役所就職……難病の父……退職……帰省……農地法……田んぼとかいう負の遺産……山仕事……19歳……彼女いない歴=年齢……未来…。


 この山は荒れていてそもそも足場が不安定だが、茹だるような暑さの中、この山を登ると色んなことが頭を巡り、足場がより不安定に感じる。


 その上、慣れている山とは言え私服に普段使いの靴できてしまった。


 それなのに進み続ける。


 この山は俺の親父が所有するなんの価値もない山だ。


 俺がよくここに来ているのは山仕事のためだが、今日は違う。


 昨日、この山に来たのだが、そこに昔からあると言われる小さな洞穴から奇妙な紫色の光がみえた。


 前に来たときは日暮れだったので帰ることにしたが、その後どうしても気になって、もう一度来ることにしたのだ。


 山が静か過ぎて異様だ。


 そのせいで気になる気持ちはさらに増す。


「今は昼だし、ゆっくり行っても暗くはなんねーだろう」


 この後特段予定もない。ダラダラ進もう。


 なんだか独り言をつぶやく癖がだんだんひどくなってきている気がする。


 俺はおかしくなっているのだろうか?


 親父と母さん、それに俺を加えて3人家族だが、母さんは前から足が悪く山仕事ができない。


 そのため、半年前に親父が難病で寝たきりになってから、田んぼと山の仕事がたまりっぱなしになっている。


 よろしくない状況が続き、地元民の我慢も限界に達していたところ、俺が地元に帰ってきて一つ一つ片づけているのだが、慣れていないのもあって中々終わらない。


 母さんは俺が遠くの市役所を辞めて、山仕事のために実家に帰ることになったことに申し訳なさそうだ。


 あまりに気を使われてこっちが気をつかってしまう。


 退職し、地元に帰ることは自分で決めたことだ。


 後悔は……とかそんなことを考えていると、もうその洞窟の近くにきていた。


「やっぱなんか見えるな。紫色の光みたいなものが」


 なるほど、きっと日光が洞窟に差し込んでいるのだろう。


 知らない間に洞窟内に隙間かできたとかで、日光が入り込んで水滴に反射してそう見える?みたいな感じだろうか?


「それにしてもやけに綺麗だな、あの光」


 もう少し近くで見ようと洞窟に近づく。


 さらに進んで、すっと洞窟内に足を2、3歩踏み入れると異変を感じた。


「......よくぞきてくれました」


 重たく深い声が脳内に響く。


 反射的に洞窟を出ようとするが、出口だったところが一瞬でふさがっていき閉じ込められていく。


「ハァ……ハァ……」


 完全に塞がってしまった。あせって息だけが荒れ、言葉は出ない。


 出口だったはずの部分に触るが、元からそうであったかのように完全に閉ざされ、少しの光さえ差し込まない。


 そのはずなのに、洞窟内はなぜか薄暗い程度には見える。


「……大変申し訳ありませんが、奥に来ていただけませんか?お願いですから……」


 重い声が脳内に直接響く。


 怖いと感じるが、苦しそうにも聞こえる。


 もしかしたら、『どこかで洞窟のことをきいて探検気分できたやつが、怪我でもして助けを呼んでいるのかもしれない』と思いかけたが、脳内に響く声と妙な閉じ込められたことをしたことを思い出し、身構え奥にむかった。


 『小さい洞窟』と親から聞いていただけで、直接奥の方までは行ったことがなかったので地形もよく分からない。


 二重の緊張感を持ってゆっくり奥へと進む。


 そうすると不思議なことに奥に行くほど明るくなる。


 奥側に連れて広くなり、俺が想像する以上に広かった。


 日光も差し込んでいないのに異様な明るさだ。


 突き当たりの曲がり角を恐る恐る曲がると、……そこには巨大な怪物の姿があった。

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