DARKRING

サンサソー

第1話 崩壊の引き金

 遥か未来、人類は地球を捨て宙に天体を作り楽園を築いた。


 地球は異常気象と核汚染によって死の星となり、海は蒸発し地表は溶岩の冷え固まった黒一色がどこまでも続いている。その理由は今や定かではないが、人類が戦争を起こし地球の核を傷付けたからだと言われていた。


 長い年月の果て、地球はその名はほとんど使われていない。かつて故郷であった黒い星は『ゲヘナ』と呼ばれ、もはや誰が初めにそう呼んだのかもわからなくなっていった。


 人類は安住の地『エデン』へ移り住み、これを再び死の星に変えぬよう神の如き機械マキナに護られながら安寧の日々を送っている。


 しかしそんな平和な日々も、ある事件を境に崩壊していく。それを止める手立てなど、マキナに頼りきりゆっくりと滅びへ向かっていた人類が持つはずもなかった。


 これは、ただの一軍人でしかなかった私が滅びを止めようと足掻き、何もできなかった絶望の物語。



 ◆



 私の名はカタリナ。故あってエデン政府軍に仕官した者だ。


 エデン軍事担当マキナ''マーズ''直属特殊部隊SOFJEソフィエ。そこが私の所属する部隊。階級は中佐である。


 自慢ではないが、SOFJEは他の政府軍や民間の警備隊などとは比べ物にならない戦闘力と作戦遂行力を有する。エリート中のエリートだ。


 軍人はこの部隊に配属されることを何よりの名誉とし、血反吐を吐く努力に人生の大半を費やす者も少なくない。しかしそれでは不十分。

 研鑽は大前提、類まれなる才能とマーズに認められる程の活躍をした士官にのみ試験を受ける機会が与えられる。


 私は長く険しい鍛錬の道に分け入り、ただ一人によるテロ鎮圧の業績をもって入隊した。


 この部隊は政府軍のような要人護衛や対テロ作戦などにはつかず主目的であるマキナの護衛を任されている。しかしこの他にもう一つの半永久的な任務を与えられている。


 それがスター軍事空港にてゲヘナからサルベージされた物資を検めること。重度の核汚染を警戒し、有用な物資の回収、または過去の過ちを忘れないための展示品としてのもの。


 それらはこの軍事空港で保管され、我々は一部の区画を展示区画とし民衆に解放している。全5班からなる警備班、それによる警備もまたSOFJEの仕事だった。


「カタリナ中佐。展示区画入口担当の警備第5班から通信です」


「繋げろ」


 警備室で警備班の動向を見ていた私は席をたち、モニターの前へ移動する。警備第5班からの映像が映し出されると、そこには入口に屯する団体の様子があった。


「こちらSOFJE警備室。第5班、何が起きている」


「こちら、第5班班長のオードリー。展示区画入口にエデン保護団体を名乗る集団がデモを起こしています。退ける許可を問います」


「保護団体とやらは何を要求している」


「『ゲヘナからのサルベージを廃止し、物資の全てを廃棄すること』です」


 ゲヘナは死の星。そこにあるものも危険極まりない。異物はエデンに入れてはならない。


 このような言い分を通そうと日夜抗議活動に精を出す者たち。エデン保護団体というチープな名称だが、こぞって言うことは同じだ。


 こういった輩は何度も展示区画に来たことがある。しかしこれはマキナの勅令であり、廃止などまずありえない。

 だが奴らは全く引かないのだ。エデンは全ての脅威から守護される楽園、政府軍である我々が武力行使に出ることができないことを奴らはわかっている。


 こうなっては形だけの制止を行いながら本日の展示時刻終了まで乗り切るのが通例。オペレーターがそのように指示を伝えようとマイクに口を近付けたその時だった。


 映像に乱れが生じ、続いて轟音が警備室を襲った。これは爆破音、しかもかなりの大きさだ。

 映像の乱れが少し収まると、そこには人の数倍の大きさをほこる鉄の巨人が姿を見せていた。


 機械兵クリーガー。人間が搭乗し幾つもの武装を所持する戦闘兵器。


 つまり、これはデモではなくテロ。一瞬にして展示区画は阿鼻叫喚の嵐が巻き起こった。


「馬鹿な、SOFJE我々の軍事空港でテロだと!?」


「クリーガーなど何処で手に入れたというのだ!警戒態勢!武装レベルを3スリーまで引き上げろ!」


「はっ!すぐに警備班を現場に集合させます!」


 警備室内の戦闘員が慌ただしく退室しようとする中、オペレーターが他の警備隊へと緊急コードを発令しようと赤いボタンへ手を伸ばす。


 私は戦闘員たちとともにすぐさま現場へ急行しなければならないだろう。クリーガーが相手ならばこちらも戦闘兵器を導入する必要がある。これ以上被害が出る前に迅速な対応を行わなければいけない。


 本来の私の仕事ならばそれでいい。



 私は素早く腰にかけた光線銃を抜くと、オペレーターの手ごとボタンを撃ち抜き破壊した。



「あっ!?うあああああっ!!」


「カタリナ中佐!?いったい何を…!」


 戸惑う隊員たちへ躊躇することなく引き金を引く。中には反撃しようと試みる者もいたが、既に攻撃を開始している私にとっては武器を取り反撃するまでの時間のうちに全員を始末することは容易だった。


 死体ばかりとなった警備室を見渡し、繋げたままの第5班との通信に「行け」と一言だけ送る。


 映像のクリーガーはさらに数を増やし、展示区画入口を破壊して暴れ始めるのだった。

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