第3話 懐古刺激。

金曜日、一度帰るのも馬鹿らしいが、教師の急病で授業が1時間減ったので、致し方なく一度家に帰る。

下手な行動は極力防いでいく。


帰り時間を知られると、待ち合わせをして帰りを合わそうと言われたり、駅で待ち伏せられて食事に誘われても困る。


そもそも、そんなに嫌がっていた事を知っていたのに。

高校になり、引越しをした時に、両親は「向いてなかったのね」、「すまなかったな櫂」と言ったにも関わらず、この土地で最長2年を過ごさせようとするのだから恐ろしい。


まあ、それは丸ごと母のパート代がこっちの生活費になっているので、それなりの痛手もあって、あまり文句は言えない。



待ち合わせは駅の改札で、一度帰ってから待ち合わせ場所に向かうのは、少し時間が厳しい。

自転車を持ち出せば良い気もするが、自転車があるからと言われて、解散時に駅向こうを登山させられても面白くない。


様々な可能性を考えて、予防線を張り巡らして、家に荷物を置くと身一つで駅へと向かう。


もう、個人情報の一欠片も渡したくない気持ちだった。

教科書一つから何を言われるかわからない。


それなら行かなければ良い。

それが大正解だが、最長で2年もこの土地にいるのに、それをするのはある種命懸け、リスクの高い賭けになる。


それは人の数が少ないから、路線からすれば多いが、街の規模からしたら少ない。

とりあえず変な噂が出て、生きにくくなるのは真っ平ごめんだった。



なんとか無理をしたおかげで、約束の10分前に駅の改札に着いた。




後は待ちぼうけならそれで構わない。

辺りを見渡すと、意外な人物が改札にいた。


高嶺麗華たかみね れいか

同じ中学に居た、高嶺の花と呼ぶくらいの存在で、まさかその高嶺麗華がここに居るとは思わなかった。


まさか黒田が高嶺を呼べたのか?と驚いてしまう。

彼女がいても驚く存在。

それが高嶺麗華だった。


だが、高嶺麗華は見覚えのない男と合流すると、駅に入っていきホームに行ってしまった。


約束の時間から5分遅れて現れた黒田は、遅れた事も、連絡をしなかった事も詫びずに、「もう群馬達はファミレスで席を確保してくれてるみたい。行こう」と言う。


「待ち合わせ場所、ここじゃなかったの?」

「え?うん」

「なら俺もファミレスに行っていたのに」

「いいじゃん別に」


会って2回目で、黒田のいい加減さを思い出して帰りたくなった。



ファミレスには男子2、女子2で集まっていて盛り上がっていた。

男子は群馬豪ぐんま ごう赤羽駿あかばね しゅん。女子は山本真矢やまもと まや白城姫しらき ひめ


4人とも中学の時には委員会活動や班わけで、少なからず接点があった。


「おぉ!本当に関原だ!」

「久しぶり関原くん」

「帰ってきたんだって?」

「座りなよ」


それぞれに返事をしながら座ると、なんとなくだが、黒田が待ち合わせ場所を駅にしたのがわかった。

黒田は自分抜きで始められる事を嫌がった様子だった。

現に、皆黒田には塩対応をしている。


「皆はここに何時に来たの?」


聞けば20分前で、俺は「なんだ、駅で約束の時間から5分も黒田を待ってたから、知ってたらこっちに来たのに」とわざと言うと、4人とも呆れ顔をしていた。


夕食を頼み、食べながら話せば、それなりに楽しめる。

皆と話す中で、小さく苛立ったのは、【多分だけど】と付けてから、駅で黒田を待つ間に高嶺麗華を見たと言ったら、驚きの声の中で、赤羽が「今だから言うけど」と言って、高嶺麗華への特別な感情があったと言った。


それこそ不愉快だった。

中学校時代、赤羽は何も言わなかった。

逆にしつこく聞かれて、仕方なく高嶺麗華を褒めた奴は、立場がなくなるまで擦り倒されていた。

その擦った奴らの中に赤羽も勿論いた。



これだ。

これが嫌だった。

再会30分でそれを思い出させられた。


だが、ここで帰る事も出来ずにいると、近況よりも過去の話になる。


だがまあ、過去の話と言っても、自分に痛手のない話ばかり、おっとりした連中が、恋愛失敗した話なんかで盛り上がる。

懐かしさもあるが、聞いていて不愉快さの方が上回る。


そして、どれだけ話しても80人の同級生のうち、30人くらいは話題にも上らない。


それはヤンチャをしていた連中や、問題のある生徒達。

そいつらを避けるように、問題のない連中。

その中でも擦り倒してOKと認識してしまう20人くらいを、コレでもかと擦っていく。


20人なんてあっという間だ。

だから人が足りなくなる。

過去は増えていかない。


俺はこの場ではカンフル剤でしかない。

マンネリ化した集まりを盛り上げるカンフル剤。

歓迎ムードも俺だからではない。

元同級生で問題さえなければ誰でもいい。

それだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る