第2話 再来悪縁。
春を迎えて、空き家のままは良くないからか、両親は俺にあの家から学校に通えと言い出した。
通学距離は延び、通学時間もかかる。
嫌すぎる。
嫌すぎるのだが、親からは好条件を突きつけられた。
・生活費を出す。
・交通費も出す。
・駅前の駐輪場も借りる。
・彼女を連れ込んでも問題さえ起こさなければ不問にする。
俺は学部の事もあるが、両親に「光回線」と呟くと、「ホームルーターじゃダメか?」と聞かれて、「なら住まない」と返すと、「…わかった。契約をするから頼む」と言われる。
そこまでするのかと思ったが、それはそれ。
2年の期限を設けて、仮に職場が沿線ならまだしも、違っていれば絶対にあの家ではなく、この家に戻ると言い聞かせて、口約束ではなく念書まで取って、俺はあの街に3年ぶりに戻る事になってしまった。
入学式直後、5月の連休までは忙しかった。
引っ越しが決まり、自分好みの家にする為にも、「爺ちゃん、婆ちゃん。ごめん無理」と言いながら、遺品の数々を両親と処分する。
そして最低限の家具を揃えて3年ぶりに祖父母の家に住む事になる。
勝手知ってる家なので不満はない。
あるとすれば古いくらい。
新築3年で、古い家に戻らされる事には不満もある。
だがまあ自由がある。
テンションは上がる。
堂々と彼女を呼べる。
もう十分だと思っていた。
連休明け、嫌すぎる新生活。
やはり自転車で駅まで行けるのはいいが、この先梅雨がある。
雨の日は25分も歩く。
傘をさすから35分は覚悟をする。
親には言わなかったが、どこか予感はあったので、候補の中から選んだ専門学校は、この家から一路線で通えるところにした。
決め手は別にもあったが、万一第一希望の学校にして、この家から通えとか言われたら、通学だけで過労死してしまう。
新生活3日目にして嫌な思いをした。
致し方ないし、そうなる事もわかる。
電車の本数が少ない以上、駅で元同級生に出くわす。
それは月曜日から気付いていたが見ないフリをした。
参考書に逃げた。
そして、スーパーマーケットで買い出しをする際に、同級生の母親がレジ打ちをしていて「あら?」という顔をされた。
結果…3日目の水曜日に「
関原だって沢山居ます。
私の事じゃないでしょう。
「関原櫂!」
ああ…嫌すぎる。
振り返ると、そこには中学3年の時に同級生だった
初日の電車で見かけていたから覚悟はしていた。
だが会いたくなかった。
学校は統廃合を繰り返し、駅の近くにあるお陰で、黒田の家は駅向こう。
「久しぶり」「おう」
「どうした?」「爺ちゃんの家の管理してる」
「そうか、またな」「おう」
これしかない。
これで切り抜けよう。
家も離れているし、会うこともなくなる。
そんな事を思ったが、甘すぎた。
黒田は、「どうした?」、「今は何をしているのか」などなど、しつこく聞いてきた。
帰ろうとすると、メッセージアプリのID交換まで求められた。
結局逃げきれずに交換する羽目になり、…その日のうちに根掘り葉掘り聞かれてしまった。
とりあえず、気ままに一人暮らしをしているとバレると、娯楽の少ないこの街では、集まれる場所もないので、溜まり場にしたいと言い出すのが見えている。
なので、[祖父母の家が売れるまでの間、清掃をしながら住むのが仕事なんだ。人を家に入れられるのも、両親の許可がないとダメだから面倒くさい]と言って誤魔化すと、[売るのかー。まあそうだよな。ウチの周りも空き家ばかりだ]と返ってきた。
それで終わらずに、週末の金曜日に集まって食事でもと言われた。
正直断りたかったが、下手な断りを入れて、こじれてウチまで来られると話にならないので、[生活費がカツカツだから滅多にいけないし、安いところでよければ]と断り、金曜日に駅前のファミレスで、中学のメンバーと会う事になってしまった。
土曜日は彼女がくる日なので、後腐れなく終わらせる道を選ぶ。
今の彼女は2人目の彼女で、高校2年の終わりから付き合っている。
彼女の事を思い出す度に、この街にいたら恋愛なんて無理だと痛感させられる。
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