行きずり女と寝たはずなのに、どんなムーブをしても義妹を抱いてしまう。

いぬがみとうま

第1話 義妹と俺とプロローグ

「ほら、湊斗かなと。ちゃんと挨拶しなさい。今日からお兄ちゃんになるんだから」

 

 俺が小学校五年生の秋、父親が再婚した。この日、俺に四つ年下の義妹ができた。まるで人形のように可愛らしい少女が、俺の前に現れたのだ。


 艷やかなショートボブに奥二重の切れ長の目、大福餅のようなきめ細やかな肌。義妹の梨紗はすぐに俺に懐いた。まるで俺の周りを踊るように、くるくると回りながら、無邪気な笑顔を見せる。


 黄色い帽子を被った梨紗と一緒に登校する俺の小学校。梨紗は転校生ということになる。新一年生だが、すでに仲良しグループは形を成しており、そこに入る余地がなかった梨紗はいつも、子犬が飼い主の後を追うように俺の後をついて来た。


 「お前、いつも妹を連れてるな、恥っずかしい〜」


 同級生の言葉が、鋭い矢のように俺の心を貫いた。

 同級生の、少年ならではの、その言葉はずっと俺の心に引っかかっているんだと思う。


 いつの間にか、梨紗を遠ざけるようになった。厚い壁にセメントを塗り続けるように、俺は梨紗との距離を広げていった。


 それは高校生になっても変わらなかったが、梨紗は構わず俺にベタベタとくっついてくる。「ほんと、あなた達は仲がいいわね」という義母の口癖。心底嫌悪感を感じていた。その度に、同級生に言われた言葉がぐずぐずと心の傷を抉った。


 大学生になり、俺は一人暮らしをする。最後に俺が家を出る時の梨紗の顔は、前の晩に隣の部屋から聞こえたすすり泣く声の結果だろう。赤く膨れた瞼越しに、しおれた表情で俺を見つめる。


「お義兄ちゃん……さみしくなるけど、たまには家に帰ってきてね」


 梨紗の声は、か細く震えていた。これでこいつとも離れられる。


 今までの慣性で、その言葉すら冷たく返してしまった。氷のような言葉が、俺の口から放たれる。心の中で、自分自身に嫌悪感を抱きながら、俺は家を後にした。


 ***


 今まで、「義兄LOVE」な義妹に邪魔されて一度も彼女なんてできたことがない。もちろん童貞だよ。そして、恋愛とは程遠い大学生活を送ってしまい、いつの間にか社会人四年目だ。

 追い打ちをかけるように、俺の会社はスーパーブラック会社だ。

 

 過剰なノルマ、上司の罵倒。ストレスフルな毎日を忘れるように酒を呷る日々。女と縁遠いために、自家発電をする永遠の日課。

 もうだめだ……。このままでは心が壊れてしまう。


 そんな俺を見かねてか、同僚が合コンを開いてくれた。

 ――今日こそは!思いっきりハッスルしてやるぞ。


 ***


 合コン当日。

 俺を含めて、会社の同僚四人。相手は女子大生四人だ。

 心臓がバクバクする。そんな事はお構いなしに誰かが決めた時計回りの自己紹介を始めていく。

 

「ユカです。大学三年生です」

「ナギサです。同じく大学三年生です」

「アケミです。ユカの高校の時の友達です」

「ミクです。社会人一年生です」


 誰が誰だか覚えられない。会話の中から呼び名を探す。

 ――ええい! 酒の力を借りるしかない!

 毎日、ストレスから自宅で酒を飲んでいる。もはやアル中と言っても過言ではない。


 動悸も手の震えもピタッと止まった。

 饒舌になる。


「ユカちゃんは何カップ?」


 ――そんな言葉が俺の口からでるとは。

 だが、恥もへったくれもないんです。酒の力、偉大なり!


「えー。それはまだ言えないー」


 ――「まだ」言えない? グレート! とっても上手い返しですよ!


「私はD寄りのCだよ」


 ――ナギサ! ナイスです。そして、超タイプです。


 合コンは大いに盛り上がっている。俺の股間も同様だ。

 向かいの席に座っていたナギサはトイレに立つ。戻ってくると、俺の横に座るではないですか。


 座る時に、俺の方を支えにしてるではないですか。

 空になった俺のグラスを下げる時も、俺の太腿にボデータッチ。


 ――キタキタキタキタぁぁぁぁ。春が来ましたー。

 

 『お持ち帰りできる子の特徴5選』というショーツ動画を見たことがある。

 ――ナギサ。君に決めた!ビビビッと俺の体に10まんボルトが電光石火の様に流れましたよぉ。今日はハイドロポンプさせてあげようではないですか。


 俺のテンションは最高潮! 皆が二次会どうする? なんて居酒屋の前で道を塞ぐ中、俺はナギサの手を引き、自宅に連れ込んだ。


 トロンとしたナギサの可愛さ絶好調、俺の股間は最高潮。

 まるで、飢えた獣が互いを喰らい合うように、あんまりやり方がわからないから少しリードしてもらいながら……。



 いたした。


 ――お前たち高名なるすべての賢者よ、お前たちは、民衆と民衆の迷信に奉仕してきたし、真理には仕えなかった! そして、それゆえにこそ、人はお前たちに畏敬を払った。


 心の中にニーチェの言葉が響き渡る。

 我は、今までにない賢者の時間を過ごし、まどろみの中に落ち、眠りについた。


 薄れゆく意識の中、洗面所に向かうナギサの気配。化粧を落としているのか。水道の音が心地よい。



 ――朝、雀の声がまた一つ大人になった俺を目覚めさせる。


 傍らに眠る姫を抱きしめると、白雪姫のように目覚める梨紗。



 ――梨紗?


 なぜ、生まれたままの格好の梨紗がいるんだ?


 メイクの専門学校に進学し、舞台女優になった梨紗の策にまんまとハメられた。

 いや、ハメた。いや、ハメられた。

 こいつの義兄LOVEは継続してたのか!



「んがぁぁっぁぁぁ義妹を抱いてしまったぁぁぁぁぁ」



 こうして、俺と義妹の化かし合いの日々が幕を上げるのだった。

 


 

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