余命1年
翠 颯太
君のいる世界
デート終わりに彼女を家に送る途中、彼女とこんな話をした。もしあなたが重篤な病気に罹ってしまって、後一年もない命だったらどうする?私はそんな事一度たりともまじめに考えたことがなかったので、答えるのに窮した。しばらく考えたのちに、僕が死ぬ前に君としたいことを全部やりたいな、と答えた。実に自己中心的で子供っぽいような願いである。彼女は続けて、じゃあ、後一年しか生きられないあなたは私にどんな言葉をかける?また難題だ、結局その返事はうまく言葉にできず流れてしまった。その時は、ああ、もっと気の利いたことが言えないのかと内省したのだが、彼女を家まで送り届け、帰路に就く途中でもう一度その問いについて考えてみた。
まず、初めの問いについてだが、きっと私は何日、何週間、何年間考え続けたとしても結局今日と同じ答えに行きつくと思う。だってそうだ。死んでしまうのだから。僕が死んだら現世で大して徳も積んでいないので天国への切符はきっともらえない。かといってブラッシュアップライフのように死後バカリズムにお願いして、転生するか人生やり直すかを選択させてもらえる望みも薄そうだ。となると、残るのは閻魔のいる地獄であろう。問題はここなのだ、彼女が死んで地獄に来るというのなら、私は喜んで死を受け入れる。でも、彼女は間違いなく天使のラッパの鳴り響く天の門をたたく。どこかの誰かが言っていた、君のいない天国より君のいる地獄を選ぶと、スタンダールだったかしら、この人の言いたいことはよくわかる。彼女がいないと嫌なのだから、彼女と一緒にいられる残りのタイムリミットが一年だけだとしたら、きっと私は生まれたての赤子よりもわがままになる。死んでから彼女いない地獄で頑張れるように。じゃあ、やり残したことは何だと聞かれればたくさんある。同棲して一緒の家に住みたいし、きれいな結婚指輪を素敵な夜景の見える場所で、きざな事を言いながら渡してみたい。結婚式ではウエディング姿の彼女をお姫様抱っこするのだ、そして親戚、友人一堂に冷やかされながら誓いのキスをする。入場曲はもちろんキスマイの「君のいる世界」だ。これだけじゃない、彼女とやりたいことなんて数え切れないほどある。それなのに、後一年で死ぬというのに、君の幸せのために云々なんてとてもじゃないが言ってられない。
君にどんな言葉をかけるか?決まっている、僕が死んだら君も死んでくれ。きっとそういう。一人は退屈なので早く一緒になろう、きっとこういう。つくづく自己中心、利己の塊である。間違っても、僕は君の幸せを願っている、だから僕が死んだら君を幸せにしてくれる男の人を探すんだよなんて言わない。彼女を幸せにする権利をほかの男に譲れるわけがない。
余命1年 翠 颯太 @azukiba-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。余命1年の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
誰だってメンヘラ彼女/翠 颯太
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
君思/翠 颯太
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
幸/翠 颯太
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
愚言/翠 颯太
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
信/翠 颯太
★1 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
衣替え/翠 颯太
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます