創作訓練―ゴッホ/明るい話編―

谷 亜里砂

ひまわり(1888-1890)

「だいすきなのは ひまわりのたね」


 ある年の夏休み、この歌を小学六年生のAが聞いたとき、もう次にやることといったら決まっていた。


 Aはさっそく近くのひまわり畑にでかけ、種を手に入れようと思ったのだ。


 彼は一匹のゴールデンハムスターを飼っている。


 名前はGちゃんという大柄な子で、白地に黒の点々があるまだら模様を背中に背負っている。


 酷い話だが、Aの家族は豆大福を買ってきては、

「Gの豆大福バージョンを買ってきたぞ」

 と嬉しそうにおやつにすることもある。


 そんな不憫なGのため、Aはひまわりの種がたくさん欲しかったのだ。


 顔ほどの大きさのひまわりが立ち並ぶ、その畑にAは入っていって、手折って持っていこうとした。


 しかし、なかなか頑固な繊維質はドサリと頭を倒すだけ、なかなか切れない。


 Aは家に飛んで帰ると、学習用のハサミをひっつかみ、今度こそパチンと、ひまわりの花を手に入れた。


 一本のひまわりを手につかんでしげしげとよく眺めてみるが、どこに種がついているのか分からない。


 仕方がないので家に置いておくと、両親が帰ってきて花瓶に生けてくれた。

 

 ひまわりはしょんぼりと下を向いて、まるでひとりぼっちなのを悲しんでいるみたいだ、とAは少し後悔した。


 それで次の日、Aはひまわりをバチンバチンと収穫し、胸に抱えて家にすっとんでいった。


「坊主!お前!」


 隣の偏屈じいさん、Dの怒号が追ってきたが、Aはぴょんぴょんと跳ねるように玄関ドアを開け、するりと隠れてしまった。


 Aは急いでひまわりを生けると、にぎやかになった花瓶を見て、今度は満足した。


 偏屈じいさん、Dが玄関のチャイムをリンリン鳴らしているし、肝心のひまわりの種は手に入れられずじまいだが、Aはニコニコ、まるで良いことをした余韻に浸っているのだった。

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