第12話 いつも見る夢

「振り向かないで!」



自分の声に驚いて目を覚ました。

また、あの夢だった。


いつの間にか眠っていたらしく、自分の部屋のソファの上で横になっていた。見ていたはずのテレビはいつの間にか終わっていて、天気予報が流れている。

頬を伝った涙が耳を濡らしていた。長い髪の毛が涙で濡れた頬に張り付いている。

何度も見る夢は、あれから何年も経つのに、いつもしばらくの間涙がとまらなくなる。

それでも、この1年くらいはぼんやりとした断片しか夢に出てこなかった。

だから、少し前に進んでも許されるんじゃないかって勝手に思ったりしていた。

でも、夢から覚めると思い知らされる。やっぱり忘れることなんか許されない。


自分のしたことを忘れないように伸ばしている髪は、あの頃と同じ長さ。

スマホのアドレス帳に登録してある、決してかけることのない番号。


何もかも、ずっと覚えておくためのもの。



夢から覚めきれないで、ぼんやりとしているところに、スマホへメッセージが届いたことを知らせる着信音が鳴った。

かっちゃんからだった。


<シイタケの栽培キットをもらい、育てていたのですが>


そのメッセージの後に送られてきた画像に思わず笑ってしまった。

大きさはわからなかったけれど、テーブルに置かれた原木に、大量のシイタケが重なるように生えている。


<怖いくらいできました>

<大量ですね>

<今日から毎日シイタケです>

<よく料理をされてますよね>

<一人が長いですから 得意ではないですけれど シイタケはお好きですか?>

<実は苦手です 以前いただいたシイタケをバター焼きにして食べようとしたら 軸の中から虫が出て来て ダメになりました>

<栽培キットのシイタケならきっと大丈夫ですよ ぜひ試してください>

<遠慮します!>


数時間後、大量のシイタケ料理の画像が送られてきた。


さっきまで泣いていたはずなのに、沈んでいた気持ちが、大量のシイタケの画像でどこかにいってしまった。シイタケ栽培キットを買う気にまではならなかったけれど。


料理の画像に『美味しそうですね』と返信した。

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