第10話 社内不倫
「営業一課の細野さん、って知ってる?」
お昼に食堂で会ったマキちゃんの第一声がそれだった。
同期入社だったマキちゃんは、結婚して苗字が「蒔田香織」から「福治香織」に変わっていたけれど、今も「マキちゃん」と呼んでいた。
「派遣の子と不倫してたらしいよ。結婚してること隠して」
「マキちゃん何で知ってるの?」
メールで不倫のことは知っていたけれど、その以上は知らない。それを総務部のマキちゃんは知っていた。
「営業の派遣の子が人事の派遣の子に言って、それを総務の派遣の子が聞いて、わたしに教えてくれた」
「そうなんだ……」
「相手の子は昨日付で辞めてて、この件で人事に派遣会社の人が来て、重い雰囲気だったって。その子、契約途中で田舎に帰ったらしい。すっごい真面目な子だったらしいのに」
「細野さんのこと、真剣だったんだ……」
隣の席に生姜焼き定食ののったトレイが置かれた。
見上げると上椙さんだった。
「座っていい?」
「どうぞぉ」
マキちゃんの返事で上椙さんがわたしの隣に座った。
マキちゃんの旦那さんと上椙さんは大学時代の友人らしく、上椙さんがこの会社に入る前から、2人は知り合いだった。
だから、初めて社内で顔を合わせた時、マキちゃんはかなり驚いたと言っていた。
「細野さんの不倫の話?」
「上椙くんも知ってるの?」
「朝、営業部にPC設置しに行った時、雰囲気変だったから、仲良いやつに何かあったのか聞いたら教えてくれた。午前中だけで噂広まりまくってるから、細野さん、もうここにはいられないんじゃないかって」
「でもさ、女の子の方も付き合ってて気がつかなかったのかなぁ? 相手が既婚者かどうかくらい普通気がつくと思わない?」
「僕は、その不倫をしていた2人のことを知らないし、2人の間に何があったのか想像しかできないから、その質問の答えは、わからないとしか言えない」
マキちゃんと上椙さんが話すのをずっと黙って聞いていたけれど、つい言ってしまった。
「奥さんがいるって、知ってても知らなくても、不倫してた事実は変わらないよね」
わたしの言葉に2人がこちらを向いた。
余計なことを言ってしまった……
「まぁ、そうだけどさ。その子の身になったら……」
「ごめん。ちょっと急ぎの仕事が残ってたの思い出したから先に行くね」
「佑香、まだ全然食べてないのに?」
席を立ったわたしにマキちゃんが心配そうに言ってくれたのが聞こえたけれど、振り返らずにそのまま食堂を出た。
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