第2話 知らない約束

目を覚ますと自分の部屋のベッドにいた。

サイドテーブルに置かれた時計を見ると、10時を過ぎている。


どうやって今の、この状況に至ったのか断片的な記憶はある。

誰かにタクシーに押し込まれた。

家の鍵は自分で開けた。

鍵穴に鍵がなかなか入らなくて、時間がかかったせいか、玄関のドアを開けると同時に一度座り込んでしまったことを覚えている。


確かYUKIというお店で話を聞いてもらってて……飲みすぎてしまった。

お酒は好きで、弱い方でもないから、こんなことは初めてで自分でも驚いた。

今日が休みで良かった。違う。今日が休みだと思ったから、少し油断してしまったんだ。



ベッドから出て、床に転がっていたカバンからスマホを出すと、メッセージが届いていた。


<4時に天王駅前の噴水のところで会いましょう>


誰?


メッセージは、「かっちゃん」というアカウント名から送られたものだった。


知らない名前。


わたしが唯一使っているSNSはこのメッセージアプリしかない。そして、わたしがこれを使っていることは、ごくごく限られた人しかいない。

アカウントが登録されてるってことは、自分でスマホのロックを解除してIDを交換したことになる。


メッセージはもう一通あった。


<昨日YUKIで連絡先を交換しました>


昨日……


タクシーに乗る前の記憶がない。

誰かに何か言われたような気もするけれど……



スマホにはタクシー代の支払い履歴だけが残っていた。

財布の中やカバンの中をひっくり返したけれど、それ以外のレシートの類は見つからない。


YUKIでの支払いはどうしたんだろう?

初めて行ったお店だったから、ツケがきくとも思えない。


YUKIというお店

ママのユキちゃん


その名前だけは覚えていたので、スマホで検索してみたものの、それらしいお店は1件も見つからなかった。

お店に入った時は既に酔っていたのか、場所も定かではない。

26歳にもなって、飲んで記憶を失くすなんて思ってもみなかった。


もしかしたら、この「かっちゃん」という人がYUKIの支払いを代わりにしてくれたのかもしれない。もしそうだとしたら、会ってお金を返さないと……


酔った勢いとはいえ、IDを交換するくらい意気投合したってことは、きっとその時会う約束もしてしまったんだ……

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