とある資産家の裕福な家庭で育った自堕落な姉と無口な妹のお話。
「美味しい?」
「薄くない?」
「しっつれいだなあ。千香ちゃんは」
「やめてよ、それ」
向かい合わせで食べている。
千香はほくほくと口の中で綻んでいくじゃがいもに舌鼓を打つ。そのまま肉じゃがを味わってしまいたくなるが、続けてポテトサラダを口に運んでみせると言った。
「まあまあ」
「舌も子供なの? このくらいがちょうどよくない?」
答えに窮す。味のことではない。目の前で上品に箸を運んでいる黒衣の女への態度に窮しているのだ。
困惑していて、混乱している。
一体、どういうテンションでいけばいいのだろう。
実際時間が掛かった。
調理には。わざとそういうメニューを選んだのだろう。それともただ振る舞いたかっただけか。それにしても、それを薄いと言ってしまえる自分は、可愛げがないというより、彼女の言うようにやはりただ子供っぽいだけか。
調理中に、彼女が背を向けながら聞かせてきた話に千香は戸惑うばかりだった。
「言い訳にもならないけれど」
と、前置きし、
「最初に襲われたのは私なの」
と、彼女は言った。
富美はそこそこお金持ちの家庭で育ったらしい。どのくらいお金持ちかというと、夏場は別荘で過ごすのが当たり前。年末年始は必ず海外で過ごす、くらいのお金持ち。千香からしてみれば成る程相当なお金持ちなのだと察せられた。
妹がいた。
一回り以上歳の離れた妹が。
悪戯されたのだという。
昼間ソファで寝ていると、隣に妹がやってきて、なにやら富美の体を触り始めた。
ふくらはぎ、ふともも、それから局部へと幼い小さな手のひらは至り、下着の上からひとしきり局部を擦ったり揉んだりした後、やがて満足したのか姉が起きると判断したか知らないが離れていったのだという。
妹は小学校に入学したばかり。富美は高校生二年の時分であった。
続いた。
友人は多い方ではなく基本家にいた。自堕落で、昼間から家のどこかで必ず寝ていた。本を読み、暫くすれば眠くなり、その睡魔に従って寝る。その度、妹がやってきては姉の身体をまさぐり去っていく。まず戸惑った。妹とはあまり話さなかったからだ。好かれているとも思っていなかった。そんな妹がどうして――という想いと、やはり何より気持ちが悪かった。止めないでいたのは、寝た振り続けていたのは、そのうち飽きて終わるだろうと楽観的に考えていたから。変に行動を変えて、富美が妹の悪戯、行為を把握していると悟られると少年期の繊細であろう人心人格に、何か悪い影響でも与えるんじゃないかと心配になったというのもある。
「やめな」
それでも止めてみせたのは、服の上から擦ったり揉んだりするだけで済まないかもしれないと悟ったからだった。前日に、パンツの隙き間から指を入れてきた。ちょこちょこと指を動かすくらいですぐに去っていったけれど、その日はいつもと違った。
遂に指を入れてきたというのでない。ソファの上からだらりと垂らした姉の手に自分の股をあてがってきたのだ。
膝立ちで、じりじり近付くと、姉の手首にほんの少しだけ触れて、自身のスカートの奥の、その何も付けていない素肌の部分へと手首をあてがう。
前後に動いた。
やがて手首を持ち上げているのとは反対の腕が姉の胸へと伸び――、たところで富美は瞳を開けその手を掴んで止めた。はっきりと瞳を見、告げた。
「やめな」
瞳の奥をじっと覗き込んだ。思えばああして、妹と長く視線を交わしたのははじめてだったかもしれない。歳離れた――当時はかなり愛想が悪かった――姉を、妹は明らかに好いていない様子だったし、実際富美も、妹には愛情を持って接していなかった。
なんというか――いつの間にか家にいた子。くらいにしか思っていなかった。
今思えばかなり酷い話だが。
「やめた」
「やめたんだ」
黙って聞いたいた千香は思わず声をあげた。富美は「うん」と頷くと、自嘲的に笑顔を浮かべその先を話し始める。
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