八
「んっ…」
口の中に何か流れ込んでくる。
(ワイン…!)
耕輔の頬を両手で押さえつけ、ワインを飲み下すのを待って、廣田は唇を離した。
「…ぷはっ…」
「ふふ、もう帰れないね」
廣田が微笑む。
「飲酒運転」
「…!」
口の端からつっとワインが垂れ、自分で拭うより先に、ペロリと舐め取られる。再び唇が重ねられ、顔を掴んでいた手は耕輔の首に廻された。熱い舌が唇を割り広げて侵入してくる。その舌に応えそうになり、なんとか思いとどまって、廣田の肩を掴んだ。廣田が耕輔の頬を撫でる。
「良い表情になったね…。気づいてた?居酒屋の店員とか客の視線…」
「え?」
廣田の手が、頬 首、肩、背中と伝っていく。
「冬彦も、触りすぎ」
廣田が、耕輔の肩に顔を埋める。ゾクゾクと耕輔の体を何かが駆け上がってくる。
「あ、あの」
廣田の手のひらが耕輔の広い背中をなでる。
「嫉妬したんだよ。冬彦にも、店の客たちにも。それで気付く僕も、鈍いけど…」
廣田が顔を上げ、耕輔をじっと見つめてくる。
「ひ、廣田さん…?」
耕輔は、廣田の襟元から覗く鎖骨にゾクっとする。目をそらそうとするが、顔を掴まれていて動けない。
「でも、伊川くんも、僕のこと好きでしょ?」
「なっ?!」
「だから、これが気になるんでしょ?」
問いかけながら、廣田は耕輔の前に左手を見せつける。それから楽しそうに笑い、チュッチュッと唇を啄んだ。質問をしておきながら答えさせる気はないようだった。聞かなくても分かるからだろう。
「廣…ん!」
時々ペロッと、唇が舐められ、隙間から舌が入ってくる。
体に熱が集まっているのは、さっき口移しされたワインのせいだけではない。
「ちょ、もう、これ以じょ…って、ちょっと?!」
廣田は、耕輔のネクタイを緩める。その手を止めようと手首を掴むが、ほっそりした手首は思ったより力強い。
「…酔ってますね?!」
「少しだけね」
(酔ってるなら…この流れはまずい…)
そんな耕輔の思いはお構いなしに、廣田は、チュッと耕輔にキスをし、それを頬や顎、首筋にも落としていく。それが耕輔の理性を削っていく。
「酔った勢いとかは、いやだ…」
ぴたっと、廣田の動きが止まる。
「真面目だなぁ…君は」
廣田は、慈しむように耕輔の顔を両手で包み込むと、ちゅっと触れるだけのキスをする。
「…酔わないよ。せっかく、二人なのに。そりゃ少し、勢いは付けたけど」
柔和な笑みを浮かべたまま、でも、どこかいつもと違う廣田の表情に、耕輔の心臓が大きく跳ねる。
「けど、ごめん。僕くらいの年になるとね、ちょっと勢いつけないと、前に進めないんだ。…好きだよ。伊川くん。どんどん洗練されていくのに、ずっと素直なままの君が可愛い」
「…!」
(なんか、ずるい…)
耕輔は廣田を抱き締め、自分から口づけた。先程自分がされたのと同じように、唇の隙間に舌を捩じ込んで、角度を変えながら深く入り込んでいく。廣田の舌がそれに応え、絡み付いてくる。
「…は…はっ…」
「…好きですよ、俺だって。あなたの言葉、嬉しかったから…『力みすぎ』『そんなに畏まらなくていい』って…」
「…偉そうだね、僕。恥ずかしいな…」
耕輔は首を横に振る。
「…救われたんです…。大袈裟じゃなく…、廣田さんいなかったから、俺…。…好きです」
深く深く口づける。
「…っ…。ね、伊川くん…あっちに行こう」
廣田が膝から降りて、耕輔の手を引く。
リビングから続くドアを開けると、そこはベッドと本棚、デスクが置かれた、プライベートルームだった。
どちらからともなく抱き合い、二人でベッドに倒れ込む。
「抱いてよ。伊…耕輔くん…」
急に名前を呼ばれ、耕輔は完全に理性を手放した。
(だから、ずるいって…)
「…っん…!」
噛みつくような口づけと、性急にTシャツを捲りあげる手に、廣田の顔からは余裕が消え、代わりに興奮の色が増していく。
華奢だと思っていた廣田の体には、しなやかな筋肉がつき、胸板は予想していたよりもふっくらと豊かで、淡い色の乳首も、うっすらと割れた腹筋も、引き締まったウェストもなまめかしい。
「…綺麗…孝明さん」
耕輔も、廣田…孝明に倣って名前を呼ぶ。
「すごく、エロい」
「そんなこと言うんだ…?…んっ…」
胸板から腹部に掌を這わせ、脇腹を通ってまた胸へと戻る。ピクピクと、孝明が反応する。
「ほら、エロい…」
胸板を撫でると指先が乳首に触れ、すでに尖っているそこをくりくりと捏ねる。乳輪に沿ってくるりと円を描き、それを繰り返す度に孝明はまた、ぴくりぴくりと体を震わせた。
「ん…んんっ…!っは…」
首筋、鎖骨、胸板、と滑らかな肌に唇と舌を這わせる。もう一方の乳首を、舌先で押し潰し、乳輪ごと吸い上げる。
「…っ…っぅ……はぅ…っ」
全身を紅潮させ、喘ぎを吐息に変えながらその快感に耐えている孝明に、耕輔はぞくぞくとした。
「…ここ、好きなんだ」
唇を吸い、左右の乳首を摘まんで、先端をかりかりと引っ掻く。
「あ…。んんっ…ん…!」
孝明は、手の甲を口に当てた。
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