偽のサスティナビリテイの罠
天主 光司
偽のサスティナビリテイの罠
天気の良い、四月の朝。
日本の都内某所にある、某テレビ局の本社ビル、テレビ番組を収録するスタジオの裏側。
とても神秘的な美人とちょっと冴えない感じのおっさんが、テレビスタッフを介して紹介されていた。
神秘的な美人は、ストレートロングの黒髪で白のブラウスにカーキ色のジャケット、カーキ色のロングスカートを着て、頭にはティアラを付けて、ティアラから極細のチェーンでぶら下がり額の辺りに星の形の飾りのある衣装を付けていた。そして、おっさんの方は、身長百八十センチメートル弱で細身で、所謂ビジネスカジュアルの服装をしていた。
「こちらは、
おっさんは、美人、水科の紹介を受けて破顔する。
「こちらが、天主光司さんですよ」
「知ってます」
水科は真剣な表情のまま言った。
天主は、水科の様子にただならぬ雰囲気を感じ取ったが、何か喋らなければと焦る。
「こんな美人に知られているなんて光栄です」
天主は、ニヤケながら言った。とは言え、先生と紹介されたが、姿形からは教師とは、到底思えなかった。
「それで、水科先生は何を教えられているんですか?」
天主が聞くと、テレビスタッフは慌てる。
「水科先生は学校の先生じゃないですよ。占い師の先生です」
天主は、ちょっと驚いた顔をする。
「これはすみません。僕はそう言う方面には詳しくなくて……」
「知ってます」
水科は、真剣な表情のままだ。
「あ、そうだ。こんど占ってくださいよ」
「もう占っています」
天主は戸惑う。
「あなたに死相が出ています」
天主の額から一粒の汗が流れる。
「え、えーと。ぼく結構不健康で病院には通っているけど、死ぬほどの大病は患っていないけど」
天主は面食らっていたが、落ち着いて対応した。
「違います。天主さん。あなたは暗殺されます」
天主は吹き出す。
「えーーーーと。僕は木っ端小説家ですよ。ま、テレビ番組のコメンテーターとして呼ばれることはありますけどね。けど、政治家でもないし、官僚でもないし、誰が僕を暗殺するんです?」
「それは分かりません。でも、あなたの暗殺を食い止めないと、あなたの死後十年後ぐらいに、日本は破綻します」
天主は、吹き出す。
「もし、僕が死んでも、いきなり日本が破綻するなんて、ないない。それに権力を持たない僕を殺して得する奴なんているのかい?」
「いるから暗殺されるんですよ」
天主は、当惑し、苦笑いする。
「わかった。気を付けるよ」
他のテレビスタッフが水科を呼びに来る。水科の出番は、天主より前だからだ。水科は腕を引っ張られるように連れていかれる。
「すみません。先生。あの人、美人なんですけど、見ての通り、奇行が多くて。テレビ的には美味しい訳ですが」
そう言うと、テレビスタッフは苦笑する。
水科麗美の占コーナーが始まる。
「真のサスティナビリティの巨星が墜ち、偽のサスティナビリティが蔓延る時、日本の富は、赤い鬼、黄色い鬼、白い鬼、黒い鬼に奪われ、大地は蹂躙される。外国からのウソの富を運び入れると、日本は致命的に破綻するだろう」
いつもの明るいノリの嘘臭い適当な占を予想していたスタッフは驚く。
放送をCMに切り替えた。
「どうしたんですか、ノストラダムスみたいなことを言い出すなんて、困るじゃないですか。朝のニュースの占は遊びなんですよ。遊び。いい加減にしてくださいよ」
「遊びなんて言っている場合じゃないんです。天主さんが危ないんだから」
テレビスタッフは呆れる。
「天主さんは次の番組に出演予定で、すでに収録が始まっています」
「この番組生じゃないんですか? なぜ収録なんです?」
「何故って……」
収録スタジオ
「子育て支援なんて、国債発行すれば良いんですよ」
天主が、言った。
「国債発行で賄っていたら財政が持続不可能になるでしょう。消費税で財源確保しないといけないに決ってる」
有名大学の経済名誉教授が言った。
「はぁ。何ウソ言ってんの。
この不景気で、国民が困っているのに、不景気の時の予算拡大の為に、国債発行しても問題起きるわけないでしょ。
こんな状態で消費増税なんてやったら、子供を生める収入の少ない若い世代を貧困化させて、余計に子供が生めなくって、国民経済を破壊する。国民経済を破壊した方が、結果的に税収が減って財政を悪化させるでしょ。
そんなことも分からないで大学で何を教えているんだ!」
編集室
「また、天主が余計な反論しているよ。有名大学の経済名誉教授を嘘吐き呼ばわりするんじゃないよ」
編集スタッフが愚痴る。
天主のセリフ「はぁ。~大学で何を教えているんだ!」までの動画がカットされる。
実際に論破しているのは天主なのに、視聴者には天主が、論破されたように見える。
収録スタジオ
「社会保障なんて、当面は国債発行すれば良いんだよ。保障に必要な物やサービスを国内から調達していれば、むしろおつりがでるはずだ」
天主が熱く語っている。
「国の借金を、子や孫の世代にツケ回しをするようなことが許されるわけない」
カリスマ経済学者で海外大学の准教授が言った。
「何ウソを言っているんだ!
国債を税金で返済している国なんて日本だけだ。普通の国はやってない。それを未来世代の借金とウソを吐くことの方が許されるわけないだろう!
国債発行は、通貨発行と同じだから、減らしてはいけない。国民経済で必要としている通貨量を供給するためにも、国債発行は増やす必要がある。
償還期間になった国債は、新たに発行した国債で返済する。それは世界中すべての国でやっていることで、それで破綻した国はない」
編集室
「ちぇ。またカリスマ経済学者を論破しやがってよ。お前が論破するとテレビ視聴者が怒るんだよ」
編集スタッフが愚痴る。
天主のセリフ「何ウソを言っているんだ!~それで破綻した国はない」までの動画がカットされる。
実際に論破しているのは天主なのに、視聴者には天主が、論破されたように見える。
収録スタジオ
「サスティナビリティの為にも、消費増税をして、財政再建が必要だ」
経済を研究している団体の理事をしている学者が言った。
「何、デタラメ言っているんだ。
景気が悪い時に消費増税なんてやったら弱い中小企業が倒産するだろ。倒産したら、多くの失業者が出て、社会保障費が増大する。税金の払い手が減って使い手が増える。
それだけじゃない。多くの中小企業が倒産すると、国内の供給能力を低下して、必要な物資が国内で調達出来なくなる。そして、海外から調達しなければならなくなって、海外のお金が必要になって、海外に借金をすることになる。そして、返せないほど借金が多くなったら、それこそ、本当の財政破綻の危機だろ」
編集室
「ちぇ。小説家が経済学者を論破するんじゃないよ。生意気なんだよ」
編集スタッフが愚痴る。
天主のセリフ「何、デタラメ言っているんだ。~本当の財政破綻の危機だろ」までの動画がカットされる。
天主の考えが優勢なのに、視聴者には天主が、ダメダメに見えた。
撮影スタジオと実際に放送された映像を水科は両方を見て驚く。この討論番組は時差再生されて放送されており、天主が経済学者を論破する部分をすべてカットしていた。
「これ、まったく現実と違う放送になっていませんか?」
水科が、なじみのテレビスタッフに聞いた。
「局の外でバラさないでくださいね。今煩いんですよ。情報漏洩って」
「でも、経済学者の方の話より、天主さんの説明の方が分かりやすいような気がします。恐らく天主さんの方が経済のことを詳しく分かっているから、素人にとって分かり難い部分まで掘り下げて説明してくれているように感じるのですが」
水科は、感じたことをそのまま言った。
「だから、困るんですよ。みんな天主の方が経済の事を詳しく感じてしまう。でも考えてくださいよ。経済学者より、小説家が経済に詳しい訳ないでしょ」
「でも、私の予言は絶対です。天主さんは近いうちに暗殺されるし、彼が暗殺されたら日本は十年後ぐらいに財政破綻します。それを防ぐには、暗殺を防がないとなりません」
テレビスタッフは呆れた顔をする。水科は、本来は占い師と言うより、予言者であり、こういう予言をする方が得意で占はあまり得意ではなかった。しかし、水科の容姿と、このような予言を虚言癖だと決めつけて、テレビ局の人間が人気占い師にしてしまったのだ。
彼女の予言が本当に良く当たることを知っているスタッフは、もうテレビ局には残っていなかったから、彼女の本当の予言を見逃してしまっていた。
討論コーナーが終わった天主に、水科が近づく。
「こんにちは。水科さん」
天主は、ニッコリ微笑む。
「絶対に一人にならないでください。暗殺の危険が去るまで」
水科は、真剣な面持で言った。
「わかりました。気を付けますよ」
天主は、手を振りながら、去ってしまう。
天主は、討論コーナーに出演したギャラが振込まれる書類と帰りのタクシーチケットをもらうとそそくさとテレビ局を後にしようと、出演者の入退場するエントランスへ急き、エレベーターに乗る。
「一人になるなと言われてもね。早速一人になってしまったよ」
天主は独り言を言って苦笑する。
エレベーターを下りて、エントランスを出る。もうすでに、エントランスからして、いつもと様子が違っていたが、天主はこの時点で気付いて居なかった。
いつもなら、受付に受付嬢がおり、ゲートには、不審者が入れないようにチェックしているガードマンなどがいるが、今は誰一人としていない。
それでも天主は、様子がおかしい事に気付かず、そのままタクシー乗り場へ行く。
いつもなら多くのタクシーが待っているのに、今は一台もいない。それどころか、車や人を整理する警備員すらいなかった。
「なんか、妙だな」
やっと天主が異変に気が付くと、一人の男が側にいた。
「お前。天主光司だな」
「そうだけど」
そう言うと、男は天主の腹に刃物を突き刺す。
天主は驚く。
そして、腹から血が吹き出す。
男は、更に二回突き刺す。ドクドク赤い血が辺りに流れる。
天主は、自分の腹から出る血で染まった自分の左手を見る。
「なんじゃこりゃ」
そう言うと、天主は倒れた。
「天主さん。忘れものです」
忘れ物を届けようとテレビスタッフが遅れてやってきた。
「な。なに!」
男は、忘れ物を届けに来たスタッフに気付き一目散に逃げる。
「あ、天主さん」
テレビスタッフは、携帯電話を取出し、すぐに救急車を呼んだ。本来なら五分程で到着するはずなのに、何故か十分も掛った。そして救急スタッフは、救命処置をすぐに始める。止血とAEDをやったが、やっぱり無駄だった。
救急車に遅れる事、五分ぐらいで、パトカーも来た。
そして、現場検証を始めた。
テレビ局は、この後すぐに天主が刺殺されたことを報道した。
犯人は、天主光司を狙ったのではなく、本当の標的と誤って天主が殺されたと報道した。
しかし、テレビ局の内部告発と思われる、SNSアカウントでは、天主の刺殺はかなり計画的であり、テレビ局にも手引きした者がいるはずだと、暴露していた。
しかし、その暴露も数日で何者かによって削除された。
天主が暗殺された数日後、暗殺者が警察に出頭した。本人は、偽の経済理論を振りかざし、日本を財政破綻させようとしている悪党、天主を誅殺したと、告白していた。
しかし、警察も、テレビ局と同じように、犯人は別人と誤って天主を殺したと発表した。
このウソもまた、誰かによって、SNSで、上層部の圧力により、警察もウソの発表をしたと暴露していた。
しかし、その暴露も数日で何者かによって削除される。
この出来事の後、水科麗美は、十年後に日本は財政破綻すると予言を残し、日本から外国へ脱出すると宣言した。その宣言後、日本から姿を消した。
積極財政を訴えていた論者の間に衝撃が走る。多くの人間が、天主が暗殺された事件を調査した。そして、かなりきな臭いことを知った。
そうしているうちに、調査している者の中に不審死をする人が現れたり、天主と同様な主張をしている者たちの中に不審死する人が現れる。
そして、正しい経済を知っている者たちは、自分たちも暗殺される可能性を恐れ、水科同様海外へ脱出して行った。
天主が、暗殺されてから三ヶ月後、消費増税法案が、誰にも邪魔されることなく可決した。
消費増税法案が可決した翌年四月、消費税が増税された。それから一ヶ月経った頃、中小企業の二割が、廃業、または、自主廃業し、多くの失業者が生まれた。
廃業した企業の中には、高い技術力を独占的に持っていた会社もあったが、その技術はどこにも継承されることなく消滅した。
税金を納める企業および労働者が減り、社会保障費を必要とする人間が増えた。
消費税が増税されて一年後。
さらに多くの企業が倒産した。一つの企業が倒産すると、連鎖的に他の企業も巻き込んで倒産する。そんな感じで、倒産する企業がどんどん増えていった。そして、一年で中小企業は半数にまで減った。
企業だけでなく、農業や漁業などの産業にも廃業する人たちが増えていった。農機具や、漁業用器具などが調達出来なくなった。値段が異常に高くなったり、そもそも製造されなくなったりした。その為、高齢化した人たちには仕事が出来なくなったからだ。
日本政府は、財政悪化を理由にさらに消費増税法案をさらに可決する。
このような状況に絶望した中間層でかつ、余力のある人々の海外への脱出が始まった。その為、人手不足がさらに加速し、廃業する企業が増えていった。
それだけでなく、まだ、体力がある間に、最低限の人材と施設のみを日本に残し、会社本体を海外に移転する企業も現れた。
日本人が海外へ出て行く一方で、逆に外国人がどんどん移民してくるようになった。
政府は、薄情な日本人より、頼りになる外国人として歓迎した。しかし、彼らは、日本の富を二束三文で買い漁り、それを海外へ持ち出し、高値で売ってボロ儲けするだけで、富を日本に持ち込まなかった。彼らは自分の懐を温める事しか考えず、古き良き日本を維持しようなどと考えるはずもなかった。そもそも彼らは、日本がどうなろうが、どうでも良かったのだ。元から彼らは、日本を買い漁って、日本を食い物にすることしか考えていなかったのだ。
外国人の移民を受け入れることによって、さらに日本は貧困化した。
日本は、生活に必要な物を日本国内だけでは、調達出来ない国になってしまった。
日本で生きていくためには、生活物資も海外から輸入する必要のある国になってしまった。
日本円の不足は、日本政府は単純に日本円を発行すれば不足を補うことができる。しかし、海外から輸入するのにお金が不足したら、外貨をなんとか調達しなければならない。日本政府は日本円を発行できるが、外貨は発行できないからだ。
その為、日本政府はとうとう外貨建て、ドル建ての国債発行に踏み切った。
最初は十年満期の国債が発行されたが、そのウチ売れなくなった。
次に五年満期の国債が発行されるようになった。
最初のウチはなんとか返済出来ていたが、とうとう返済出来なくなってデフォルトした。デフォルトした額、たったの二十億ドルだった。
それは、天主暗殺の十年後の出来事であった。
元日本人の作家、
そんな愛蒔の元へ日本の雑誌記者がインタビューに来た。
「日本はかつては一千兆円も借金をしていたのに、たった二十億ドル。約三千億円で財政破綻してしまったのは何故でしょうか?」
雑誌記者が愛蒔に尋ねた。
「いまさらな質問ですね」
愛蒔は、目を瞑り、思い出に浸る。
「我が友、天主光司の死後十年と言う節目なので、思い出しました。彼は良くこう言っていたよ。『日本政府は、無限大円の借金をしても
愛蒔は、柔らかい物腰であったが、言っている内容はキツイ物だった。
「いえ。私、十年前は、社会人じゃなかったので……」
「日本政府は、通貨発行権を持っているから、いつでも日本円は無限に発行できる。それに対して、米ドルは一ドルたりとも発行できない。だから、米ドルを調達出来ないと債務不履行になる」
雑誌記者は、愛蒔の話を聞いて絶句する。
「それじゃあ、米ドルで借金したから日本は財政破綻したという事ですか?」
雑誌記者は、なんとか声を絞りだして聞いた。
「直接的な原因はそう。だけど、根本的な原因は別にある」
「根本的な原因とは何ですか?」
「消費増税だよ」
雑誌記者は、想定外の回答に驚く。
「消費増税が足りなかったと言う事ですね」
愛蒔は、不愉快そうな顔をする。
「逆だよ。やってはいいけない消費増税を繰り返しやり続けたから財政破綻したんだよ」
雑誌記者は、非常に驚く。
「そんなばかな。なんで消費増税が財政破綻の原因になるんですか!」
愛蒔は、深く息を吐く。
「君は経済記者じゃないのかね? マクロ経済の知識が不足過ぎだろ」
愛蒔の不快感を隠さない様子に、雑誌記者はたじろぐ。
「す、すみません」
愛蒔は、消費増税を繰り返すと、日本が
①消費増税する。
②国民が貧困化して、中小企業などか倒産する。
③働き手が減り、社会保障費を必要とする人が増える。
④財政が悪化する。
⑤さらに消費増税をする。
⑥さらに国民が貧困化し、多くの企業が倒産する。
⑦多くの働き手が減り、社会保障費を必要とする人が増える。
⑧日本全体の供給能力が不足し、必要物資が国内で調達できなくなる。
⑨必要な物資を海外からの輸入に頼るようになる。
⑩必要な外貨が増加し、不足するようになる。
⑪外貨で借金をして、外貨の借金が増えていく。
⑫外貨の借金を返済できなくなる。
⑬財政破綻する。
愛蒔の説明を聞いても、まだ雑誌記者の表情は、曇ったままだった。
「君は、消費増税すると財政破綻委近づく理由の肝は理解出来たかね?」
愛蒔は、雑誌記者が殆ど理解出来ていないのではないかと疑った。
「え、ええ。なんとか」
「では、消費増税すると、なんで財政破綻するのか理由を説明したまえ」
雑誌記者は固まる。
「私の娘は十年前、当時小学生だったと思うが、即答して正解したぞ」
雑誌記者は、苦笑いを浮かべる。
「わからないなら、わからなかったと言いなさい。君は記事を書かないといけないのだろ?」
「すみません」
「消費増税すると、国民経済を毀損する。国民経済が毀損されたら何が起こる? 僕はさっき話したはずだよ」
雑誌記者は、先ほどの話を思い出す。
「企業が倒産するんですね」
「その通りだよ。それで倒産した企業が作っていた物を日本中のどの企業も作って無かったらどうする?」
「海外から輸入するんですね」
雑誌記者は前のめりで答える。
「それで海外の売り手は日本円が必要かな?」
「ほとんどの場合、不要ですね」
「つまり、外貨が必要になるけど、外貨はどうやって調達するの?」
雑誌記者は、「わかりません」と即答した。
「少しは自分の頭で考えろ」
「すみません」
「外貨を必要になったのは、外国からモノを買おうとしたからだろ。だったら、自分が欲しい外貨を持っている相手に、どうしたらその外貨を入手できる」
「外貨を持っている相手にモノを売れば良いんですね」
雑誌記者は嬉しそうに言った。
「十年前の日本は、売れるものがいっぱいあったから、外貨を調達出来た。だが、今の日本はどうなんだい? 自分たちが生活するのに必要な物資すら揃えられない状況だ。売れるモノなど準備できなくなってしまった。それが財政破綻した本当の理由だ」
雑誌記者は、本当の財政破綻の原因を理解し、ショックを受ける。
「国民経済を毀損することは、国が貧しくなる事なんだよ。消費増税を繰り返しおこない、国民経済にダメージを負わせ続けた。財政破綻するのは当然の帰結だ」
雑誌記者は、しばらく何も言えず、黙り込んでしまう。
「日本経済を復活させるには、どうしたら良いでしょう?」
雑誌記者が何とか声を出して聞くと、愛蒔は、目を閉じ天を仰ぐ。
「難しいでしょうね。やらないといけなことが多過ぎて、何処から手を付けたら良いのやらだ」
ゼロ回答に、雑誌記者は、慌てる。『消費税増税したから財政破綻した』だけでは記事にならない。
「まずは、消費税の廃止から手を付けたら良いんじゃないですか」
愛蒔は、ボソリと言った。
日本・東京のとある場所にある高層ビルの最上階。
そこにすべての黒幕はいた。ブラインドが開いているが、外も暗くなりかけており、明りが点いていないため、顔も真っ黒に見える。
「日本人も、粗方滅亡したな」
黒幕が言った。
「ええ。本当にチョロかったですね」
黒幕の秘書が言った。
「財政健全化しないと経済のサスティナビリティが維持できないとウソを吹き込んだだけなのに、勝手に消費増税をして自滅してくれた。バカな奴らだ」
そう言うと、黒幕は高笑いする。
「アステカ文明を滅ぼしたスペイン人も、恐らく今の我々と同じような気分だったでしょうね」
スペイン人は、アステカ人の少女を使って、自分たちが神だと吹聴し、信心深いアステカ人を滅ぼした。黒幕は、愚かな政治家や官僚、マスコミを使って、財政再建が必須だと吹聴し、愚かな日本人を滅ぼしたのだ。
「お前、本当に良い事言うな」
黒幕がそう言うと、二人は一緒に高笑いをした。
「で、これから日本をどうするつもりですか?」
秘書が黒幕に聞いた。
「そうだな。絞れるだけ絞り取ったら、アメリカの五十一番目の州にしてもよし、中国の新しい省にしてもよし。高く買う方に売り払うよ」
消費増税に賛成したり、消費減税に反対したりする者たちは、日本人を滅ぼそうとしている黒幕の手先かもしれない。
また、財政健全化しないと経済のサスティナビリティが維持できないと言う者は、日本人を滅ぼそうとしている黒幕かもしれない。
偽のサスティナビリテイの罠 天主 光司 @AmanusiKouji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます