第3話 蓮の花と白い魂と信仰

 あの仏像が宙に飛ぶギリギリのタイミングで宗次は〈真相世界しんそうせかい〉へ入ることができた。

 あたり一面が蓮の花に囲まれた静かな空間だった。

 中心には白くぼんやりと浮かぶ仏像、覚醒者の魂がある。そして、それに縋りつくように魂を優しくなでている僧侶がいた。

 僧侶は緋色の袈裟に身を包んだ、彫りの深い顔立ちをしていた。透き通るような真っ白な肌は魂の白さと同化しているようだった。

 宗次は瞬時に分かった。


 彼こそが行曹だ。


 宗次が初めて〈真相世界〉に来た時、荒哉が本来の姿をしていたように行曹も〈真相世界〉ゆえに本来の姿でいるのだろう。

 つまり、あの姿は行曹の本当の姿であるといえる。そして、この仏像、覚醒者には咲守の時同様、行曹一人の強い想いしか存在していない、と宗次はは察していた。

 白くぼんやりと浮かぶ仏像、覚醒者の魂をなでていた行曹が宗次に気づく。

 ぎょろっと、行曹は目玉だけを宗次に向けて言った。


「来たのか、罰当たり……」

「行曹! 今度こそお前を倒してやる」


 宗次は地面に膝をつき、左手をぺたりと地面につけた。

 青い炎が出現し、バチバチと音を立てて行曹へ向かう。蓮の花が焼かれる音とともに行曹にも青い炎が届いた。

 行曹が青い炎に包まれて焼かれ、跡形もなく消えた。

 これで全てが終わった、わけではない。

 仏像、覚醒者の魂に白い紐のような細長いものが集まり始めている。

 荒哉はこれを信仰と呼び、この信仰がたくさん集まり魂が満杯になった時、仏像、覚醒者は圧倒的な力を振るうと言っていた。

 だから宗次はこの仏像、覚醒者の魂を破壊しなければならない。それでやっと、全てが終わるのだ。

 燃え盛る青い炎でそのまま仏像、覚醒者の魂を焼こうとした時、宗次の足元が大きく揺れた。

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