娘のカクヨムを見つけた母
明鏡止水
第1話 母の日。「自殺しろ」
母の日だった。
2024/05/12。日曜日。
誰も家事を手伝ってくれないし、私は平日をパートで時に夜の9時まで残業し。
土日はまた別のアルバイトで早朝4時起きで1週間まさに「フルタイム」で働いていた。
どうしてそんな生活リズムになったのか、って?
旦那がちょこちょこ仕事を辞める人だったし、新築の家に篭っても居心地は良くなかった。
くつろぐことはできるけど、どうしてもたまに休んだ日でさえ書類の整理で終わってしまう。
お金も旦那のお給料だけじゃ足りない。
一生懸命やってくれてはいるけれど、はっきり言って頑張った月はパートとアルバイトの掛け持ちの私の方が稼げる時もある。
そうなるとそれそれで問題が出てくる。
うちには結婚もせず、何かのグッズや通販にハマった、怠け者の長女がいた。
もともと引っ込み思案で前に出るタイプではなかった。
なんというか、人生を生きるコツというか、真髄をわかっていない。
「ちゃんと将来を考えてるの?」
そう口を出すと、長女はなぜかうつ病になり、それまできちんと貯めていた貯金を、ある日使い切り、遠出もするようになった。
かつては自立も兼ねて一度家から出たのだが、貯金が趣味なのと派遣の契約が切れただので戻ってきた。もともと実家に近いのも影響していた。
それでも、今までを思えば可哀想だったと思う。
いい加減な旦那のせいで次女も学生の身で車2台分の支払いを課せらせて苦しんだこともあった。
長男は障害があり、旦那と2人で住んでる地域だけではなく、その子が幼い頃から色んな検査やテストに他県に赴いた。
私は短大出身で、旦那は高卒だった。
「大学に行きたいなら自分でなんとかしなさい。高校も私立には行かせられないからね」
私は事実を言うのが、得意な駄目な母親だった。
長女は死に物狂いで勉強して、第一志望より確実に受かる第二志望の高校へ合格した。
携帯電話も新しくしてあげたし、新しい自転車も電車の定期券の準備も万全だった。
受験勉強中も深夜3時まで頑張る長女に
「あまり根詰めすぎないでね」
と声をかけた。
……お金が無かった。
はっきり言って公立に無事受かってくれて、初めての子供の受験も乗り越えて安心していた。
しかし、連日深夜の勉強で長女は自律神経の乱れから毎日吐き気を訴えて、たった1日で不登校になった。
「おねがいっ、頑張って! ね?!お願いだから!!」
私は長女にすがりついた。
入学金は60万だった。
あれから数年。なんとか高卒認定試験で高卒の資格を得た娘はずっとうつ病で働かず、障害年金を受け取っていた。
お金は取らなかった。長男のお金は旦那が失業中に少し手をつけてしまったけれど。病気の本人たちに支給されるものだと、市役所での手続きや今までの病院での医師のやり取りで理解している。
そんな時だ。
やっと職に就いた一人暮らしを始めた長女が、缶詰と冷凍食品ばかりでアパートで料理をしないのだ。
本人はいずれ戻るのだから台所を使う理由が無い、と言う。
私たちとしてはしばらく一人暮らしをして自立して生活するものだとばっかり思っていたが、持病がありいつ自殺してもおかしくない長女は派遣の契約が切れた途端、家に帰ってきており、アパートは家賃を払うだけ……。
「一体なんのために外に出たんだ! アパートに帰って料理をしろ!」
旦那が叫ぶ。そして。
「オレだって楽しみたいから新しく車と軽トラとバイク買うからな! お前も覚悟しておけよ!」
旦那は車に関しては見境がなく、家族に金銭的に負担をかける人だった。
どんなに貯金をしても、持病と向き合っても、必ず母である私か旦那と衝突する。長女はまたしても限界ばかり迎える。
泣きながら飛び出して車のシートベルトを壊さんとする勢いで引っ張り続けて仕事に行こうとする長女を。
「こんな状態じゃ行かせられないよ……」
と抱きしめた。
どうして、こんなことになるのか……。
日々なにも考えたくない。
でも、結婚して家を出た次女が子供を産み、私は晴れておばあちゃんになった。まだ40代後半だと言うのに実感が湧かない。
長女は長女で婚活サイトの、資料請求をして頑張ろうとしたようだがあんまりに高いので加入しないわよね? と念を押している。
旦那のこと。長女と長男の病気や症状。お金のこと。おばあちゃんになること。
仕事だ。
仕事をしていればお金が手に入る。
みんな私を褒めはしない。
家事はしっかりこなしているし、長女は洗濯物の一つも手伝わない。一体なにを考えているのか。
旦那は私を金を稼ぐのが好きな仕事大好きなやつ、くらいに思ってはいるが。私だって孫の習い事へのお金や長男の将来、車の支払い、保険の更新、書類やダイレクトメールの取捨選択。
色々ある上に職場でも大変なのだ。
そんな私の楽しみの一つは漫画アプリでテレビのコマーシャルに出てくるような縦読みの新しい読み方の漫画を読むこと。
課金やらコインなんてもっての外。1日たつか、アプリ内の動画を見ておまけの1話を見たりして工夫して読んでいる。
最近それでは物足りなくなってきた。
ふと、そういうば、本を読んでいないな、と思い始めた。かといって小説アプリやオーディブルやkindleというのは全然馴染みがなくて困っていた。
そんな時、娘がNetflixに加入して多めにお金を払う代わりにテレビで動画が見られるようになった。
すっかりハマってしまった。
しかし、それも過去のこと。
今、私は長女との交流を避けてリビングのNetflixを楽しまず、大嫌いな和室の襖を天の岩戸のように閉めて生活している。
長女と決定的なケンカをしたのだ。
旦那からはもう娘になにも言うな、と釘を刺された。
娘をうつ病にしたのは私たち家族か。それとも環境全てか。
ある日の職場で。
同僚に話しかけられた。
趣味で小説を書いているから読んで欲しい、という。
そんな暇は無かった。
「面白いエッセイとかもあるのよう。特にこの、『うちの母は天照の大神』とか」
「アマテラスノオオミカミ……?」
私はお弁当をつつきながら雑談をする。
「なんでもね! 親子喧嘩したら娘がまず引きこもるの、それなのに、次喧嘩したら今度は今まで一歩も引かなかった母が和室に引きこもるのよ! 家事はいつも通りやるけれど」
「……へえ」
「どう、カクヨム。ちなみに私の趣味は残酷描写や性的とか暴力描写のある作品の注意喚起ね。ここだけの話、中高生が読んでも問題ない話しか載せちゃ駄目だから、過激な作品はパトロールするのが快感なの」
「?」
よくわからない話だった。
気が進まない。まあ、まだ休憩は30分もあるので同僚の話を聞く。
「それ、創作なの? ネットのことってどれが本当かわからない」
そう言うと同僚はうーん、と唸り。
「実はね、……」
このエッセイの作者、
あなたの娘さんじゃない?
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