今日は雨なので尻尾が濡れますね

猫崎ルナ

雨の日の階段は危険がいっぱい



雨粒がわたしの体を濡らしてゆく。



…こんな筈じゃなかったのに。


おかしいおかしいおかしいおかしい。



なぜわたしは今



混乱しているわたしの耳に水溜りを踏み歩く音が聞こえた。



こんな場面を見られたらまずい!本能がそう叫んでいるが一切動くことはできない。


わたしは何もない宙にうつ伏せの状態で浮いているのだが、思考ができるだけでまつ毛を震えさせることすらできない。


あと数センチで届く筈だったアスファルトを閉じる事ができない瞼のせいで延々と見続ける事になっている状態だ。



どうすればこの状況から抜け出せるのかと思考をフル回転させても名案は思いつかない。


そりゃそうだろう。



『雨で足を滑らせ転落し、アスファルトとぶつかる寸前で宙に浮かんだまま動けなくなった』



こんな説明をされても困るだろうし、言う方も辛い。


いや、そもそも声が出るのか?…出ないな。


待てよ?このまま宙に浮いてたら説明は要らないんじゃないか?


いやいやいやいや!待て待て待て!危ないぞこの状況は!



「路地裏に宙に浮いたまま生きてるか死んでるかわからない女性がいる』



こんな雨が降ってて薄暗い中こんな状況のわたしを見たら相手は気絶するかもしれないぞ?


変な研究員とか呼ばれて実験されたらどうする?警察に『とりあえず発砲しとく?』とか言われたらどうする!?


…いや、それはないにしてもだ。とりあえずこの状況をどうにかした方がいい。



わたしが延々と意味のわからないことを思考してる間に気づけば足音は聞こえなくなっていた。



よかったのか悪かったのかが分からないまま、心の中で深いため息を吐く。


ため息を吐く自分を脳内で想像していると、わたしの左耳の後ろ側で男の人の声が聞こえた。




「ねぇ、君さぁ…その命要らないなら、僕のために死んでくんない?」








これがわたし…志鶴(しずる)が平凡な女子高生じゃなくなった日であり、わたしの人生の分岐点だ。

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