最高の執筆環境(略)~和風邸宅編とバラバラ殺人編~
さて前回、最高の執筆環境~南国のプライベートビーチに執事のジェームズの手作りジュースを添えて~を考えた。
しかしまあ、万が一にもこれが実現しないという可能性も考えて。
別のパターンも考えていきたい。常にパターンBを用意しておく、それがワタシだ。
前回は南国のコテージだったので、次は思い切って純和風にしたいと思う。
ワタシは普段キーボードでカタカタと小説を打っているのだが、ちょっとここだけは万年筆で書いているという体にしたい。したいったらするの!
で、純和風の屋敷である。
こう、あの……大黒柱と障子がこうほら、なんか……いい感じの屋敷だ。
庭は苔庭がいい。苔庭にこう、岩がこう……なんかあって、ケンケンパできる石が敷いてある奴。
そんな純和風の屋敷の片隅、庭がよく見える部屋がワタシの執筆部屋だ。
やはりこういう執筆環境がいい。落ち着いている。ししおどしも設置しよう。めっちゃいい。こういう環境音が、執筆を捗らせるというものだ。
私自身も、ゆったりと着流しでも着ようか。こんな純和風の屋敷でセーターとジーンズも違うと思うので、まあ若干くたびれた着流しとしておこう。
部屋の三方は本棚があり、そこにワタシが読みあさってきた本がぎっしりとしまってある。
座卓には原稿用紙、万年筆とインク瓶だ。え、めっちゃいい。めっちゃいい!
理想だ。
あまりにも理想の執筆環境ができてしまった。
よし、犬も飼おう。
「え、こういうのは猫じゃないの?」
と思われた方には申し訳ない。当方、筋金入りの犬派である。
だが、もふもふの白い犬のダニエルはちょっと南国のジェームズに預けたままにしておく。頼むよジェームズ。
このような和風邸宅である為、やはり柴犬である。
名前は梅太郎にしておこう。カワイイ。尻尾がくるりんしている。よしよしよしよーし。
そんな梅太郎を愛でながら、ワタシは執筆を続けていく。ホラー小説である。そりゃもう和風邸宅で書くんだからホラーだ。
時々、裏の竹林から鳥の囀りが聞こえる。通り抜ける風からは、竹の葉のさざめきも聞こえるのだろう。そして時折、鹿威し。素晴らしい。
部屋には、ワタシが万年筆をカリカリと走らせる音だけが響いている。
こんな執筆環境、原稿がうまく行く未来しか無い。
執筆に疲れた時には、梅太郎の散歩に赴くのだ。素晴らしい。
そして帰ってくると――
「よぅ、邪魔してるよ」
と、腐れ縁の刑事の早乙女が、勝手に部屋に上がり込んで茶を飲んでいる。ジェームズ……じゃなかった、書生の滝山くん(身長170cm、丸眼鏡、色白、比較的新人声優)、何故勝手に茶など出すんだ。
「だって先生、刑事さんを放っておくワケにはいかないじゃないですか」
全く君って奴は。
私は梅太郎(余談だが梅太郎のCVは主演の声優さんが兼役でやってる)の足を拭いてやってから、刑事くんの前にどっかり座る。
「それで、なんなんだい」
「いやあ、助けてほしいんですよ。事件が迷宮入りしそうでねぇ」
「勘弁してくれよ、ほら見てご覧」
私は座卓の上の原稿用紙を手で示す。
「カクヨムコンの締め切りが迫っているんだ。愛する読者が待っているんだよ」
「そこをなんとか、ね? 話を聞くだけでいいですから」
「厭だね」
「そっかそうかあ。じゃあ仕方ないなあ」
早乙女刑事はそう言って、書生の滝山くんに「お茶、ありがとね」とへらへら笑って立ち上がる。そして、不健康そうな首をコキコキと鳴らしながら言うのだ。
「あの植物園の令嬢バラバラ殺人、先生なら解けると思ったんだけどなあ」
そこで私はにわかに顔をあげる。
「な、なんだって? バラバラ?」
「先日あの大女優サンがプロデュースしたとかいう植物園で、なんとバラバラ殺人が起きたんですよ。しかも、ご丁寧に死体は展示室に綺麗に展示してあった。さらに恐ろしいことには……」
「な、なんだい。続きを言いたまえよ」
「いや、これ以上はやめときましょう。先生の手を煩わせるわけには」
「いいから言いたまえ」
「実はね、死体を調べた結果――」
あれ、執筆進んでなくない?
と、思われるかも知れない。
だが案ずるな。この「百合園バラバラ殺人事件~毒の花束と百年の復讐~」事件が無事に解決した後、エピローグにて、
「なおこの事件が、私の新作に多大な影響を与えたことは言うまでもない」
と述べられるのだ。つまり、なんやかんやあって事件を解決しながらも書き上げられるということである。すごいタフだな私。
おっと、梅太郎が庭から呼んでいる。
ではここで筆を置くとしよう。
次の更新予定
創作する者のエッセイ ~近所のコンビニからの帰り道が一番ネタ浮かぶよね~ 二八 鯉市(にはち りいち) @mentanpin-ippatutsumo
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