四章の術ッッ!! そこそこシリアス編

第32話 キューリット専門スレと……。


:41

 キューリットとかいう配信者、一切スキルを使わないんだけどなんでだろう


:42

 恥ずかしくなったんだろ? ロリ化とローリングアタックだから……。


:43

 友達とコンビでやり始めてからだよな、伸びてきたの

 あの金髪の子、剣術スキルレベル800なんだろ?


:44

 サユキ以来の3桁レベル


:45

 キューリットちゃん、パパ活してないかなあ。してたら興奮する


:46

 ピユシラは何人?


:47

 あの子が度々イタイこと言おうとするとキューリットが止めに入るよな


:48

 イタイことって?


:49

 騎士だの故郷の世界がどうだの


:50

 ピユシラ、こはるちゃんの知り合いっぽい


:51

 はじめて配信で絡んだとき、こはるちゃん怯えてなかった?


:52

 ていうかピユシラの剣、ダンジョン内で実体化させているやつじゃなくね?

 銃刀法違反だろ


:53

 ピユシラスレになってて草


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※三人称です



 城型ダンジョン『ツクヨミ』にてサユキたちがワイワイしたあと、


「ただいまですわ〜」


 北区赤羽にあるアパートに、キューリットが帰ってきた。

 玄関を開けてすぐ、はぁと大仰にため息をつく。


 ツクヨミでサユキに挑んだものの、一瞬で眠らされて、あっけなく完敗したせいだ。


「暗いですわね。ピユシラ、いますの〜?」


 明かりを点けて、ダイニングに入る。

 不思議な同居人ピユシラは、窓越しに夜空を見上げていた。


 どこか憂いを帯びた、切ない眼差し。

 ピユシラは、時折このような表情をする。


 まるで映画のワンシーンのように、美しい。


「サユキめ〜、いつか絶対に倒してやりますわ」


「また負けたのか。まあ、あいつは強いからな。何故か」


「ところで、なにをしていましたの? 明かりも点けずに」


「LED、というのか? こういう人工的な光りは苦手だ。眩しすぎる」


「そうでしたの? 消しますわ」


「構わない。ここはキューリットの家なんだし」


 キューリットは冷蔵庫を開けると、紙パックのルイボスティーを取り出して、コップに注いだ。

 一度、緑茶やほうじ茶も飲んだことがあるが、口に合わなかった。


「なあ、キューリット」


「なんですの?」


「私の話、信じているか?」


「信じてますわよ。嘘であってほしいですけれど」


 同棲をはじめた日、ピユシラはキューリットに語った。

 己の身の上。

 別の世界でなにがあったのか。

 何故、ダンジョンが出現したのか。


「信じているからこそ、配信でその話をしてほしくないのですわ。みんなビックリして、世界中がパニックになりますもの」


「まあ、この世界の人間は戦いのセンスがないし、知らないまま滅ぶ方が幸福だろう」


 もう一度、ピユシラが夜空を見上げた。


「けど……」


「どうしましたの?」


「虚しいな。私の過去も、私の世界のことも、誰にも語れず、歴史を紡がれることもない。何も残せないなんて……」


「ピユシラ……」


 キューリットはコップをシンクに置き、ピユシラの側のソファーに腰掛けた。


「気持ち、わかりますわ。わたくしの故郷でも魔女の数が減っていて、このままでは絶滅してしまいますもの。魔女は歴史の裏で細々と暮らしていたせいで、歴史的資料なんてぜーんぜんありませんし」


「滅ばないといいな、お前の仲間は」


「……例の災害とやらは、いつ来るんですの?」


「さあな。明日かもしれないし、100年後、1000年後かもしれない。もしかしたら、来ないかもしれない」


「そうだといいのですけど」


 ピユシラもソファーに座る。

 首を傾け、キューリットの肩に預ける。


「ありがとう。私を拾ってくれて」


「え」


「キューリットがいてくれるから、ギリギリ狂わずにいられる」


 知らない世界。

 滅んだ故郷。

 家族も、友人もいない。


 そんな状況にいたら、誰だって狂ってしまう。


「お前に尽くす。その指針がなければ、いまごろ自害していたかもしれない」


「わたくしが物凄く嫌なやつだったらどうしてましたの? あなたにイジワルしたり、悪口を叫んだりするような」


「ふふ、前提が間違っているよ。お前はそんな人間じゃないから、忠誠を誓っているのさ。高飛車で短気だが、面倒見が良くて、優しい。そんなキューリットだから」


 肩に顔を乗せられているせいか、声が近い。

 耳元に囁かれているようだ。


「わたくし、しばらく日本にいるつもりですから、好きなだけここにいていいですわよ」


 手を握り、ピユシラの体温を確かめる。

 不安になるほど冷たい手。


 サユキの次には強いはずなのに、脆く感じる。


「困ったことがあれば遠慮なく言ってくれ。サユキだって、次こそは勝つ」


 いま一番困っているのはピユシラのくせに。


「必ず守る。守らせてくれ。キューリットだけは」


 キューリットの脳内に、邪な欲望が芽生える。


「なら……」


 それ以上口にせずとも、ピユシラには伝わった。

 ソファーから降りて、跪いて、キューリットの手を取り、


「……」


 その甲に唇を重ねた。

 絶対的な忠誠の証。

 おそらく、足を舐めろと命じれば間髪入れずに舐めるだろう。


 キューリットの胸が高鳴る。

 耽美な顔。綺麗な所作。

 自分はいま、絵画の女神のように艶やかな女性を、独占し、好きにできるのだ。


 だが、これ以上を求めるほど、キューリットには度胸がなかった。


 それからふたりは一緒にご飯を食べて、寝た。




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※あとがき


なんか……湿度が高い。

サユキとリリカは明るくポップな百合ですので、こっちのコンビは……ね。


次回、ふたつのコンビが物語の確信に迫る……かもしれなくもない。


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