黒百合女学園ドカ食い気絶部へようこそ!

山外大河

1 お嬢様校の闇の料理部

「……え?」


 見学先の第二料理部部室で人が床に倒れていた。

 長い黒髪が特徴の、おしとやかそうなお嬢様がだ。


「……ッ!?」


 その衝撃的な光景から逃避するように、自然と此処に至るまでの事がフラッシュバックしてくる。




 私、白木彩香しらきあやかは必死こいて頑張った受験勉強の末に、由緒正しいお嬢様方が多く在籍する有名女子校、黒百合女学園への外部入学を果たした。

 別にこの学園に入学できたからといって、私がお嬢様方のようになれるという訳では決してないとは思うけども、それでも憧れの学校に入学できたのは普通にテンション爆上がりだ。

 制服も可愛いし。


 そんな高揚感と共に迎えた学園生活。

 そして学園生活といえば部活動だ。


 中学の時はソフトテニスをやっていた私だけど、高校からは運動部に入るつもりはあんまりなくて、趣味でお菓子とか作ってたから高校からは料理部とかそういうのに入ろうかなって考えていた訳だけど……少々引っかかる事があった。


「……第二料理部?」


 配られたプリントに記載された部活動一覧には確かに料理部の文字が見つかった。

 だけど二つ。

 料理部と第二料理部。

 ……なんで二つあるんだろ。


「ん? 白木さん料理部入るの?」


 首を傾げる私に声を掛けたのは、隣の席の田中さんだ。

 ちなみに内部進学組。

 気品に満ちている。別に特別な言動をしている訳じゃないけど凄く気品気品している。気品気品ってなんだよ。


 とにかくそんな田中さんの問いに答える。


「うん、そうしようかなって」


「だったら第二料理部は止めた方が良いよ」


「止めた方が良い……なんで? というかなんで料理部二つに分かれてるの?」


「いや、あんまり詳しい事は知らないんだけどさ……なんかヤバイって噂なんだ。まともな料理部とヤバい第二料理部。光と闇だよ」


 ……それはつまりたまに話に聞く、大学で真面目にスポーツやってる部活と実質お酒ばっかり飲みに行ってるサークルの二つあったりする奴みたいな感じだろうか。

 とはいえ治安悪そうな学校ならともかく、このお嬢様学校でそんな類いのヤバい部活なんてあるとは思わないし……。


 …………じゃあお嬢様学校のヤバい部活ってなんだろう。


 俄然興味が湧いた。

 何せ騒ぎが有ったら見に行っちゃうタイプだからね私は。

 なんかこう……湧くよ、知的好奇心が。


「アドバイスありがとう田中さん! とりあえずちゃんと見学してから決めるよ!」


「目ぇキラキラさせてる……あれ? これ私背中押してない? 大丈夫?」




 とまあそんなやり取りもありつつ放課後、部活動の見学の為に第二料理部の部室へとやってきて……今に至る。


「ちょ、これ、先生呼んでこないと……」


 部活がヤバイとか以前に状況が滅茶苦茶ヤバイ。

 もしかしたら一刻を争うかもしれないし、とにかく人を呼ばないと!


 そう思って踵を返そうとしたその時だった。


「あら、見学の新入生かしら」


 凛とした声が耳に届いて振り返ると、そこには金髪縦ロールのお嬢様お嬢様した感じのお嬢様が立っていた。うん、これは間違いなくお嬢様だ!

 いや流石にそんな事より!


「あ、あの! 人が! 人が倒れてて!」


「ん? ああ。これはどうやら授業をサボってドカってましたわね」


「ドカ……え?」


 妙な落ち着きと良く分からない単語に困惑する私に、金髪縦ロールお嬢様は言う。


「とりあえず素人のあなたに言っておきますと、あの方は大丈夫ですわ。ただ頂に辿り着いただけ。御覧なさい」


 そう言ってお嬢様は部室の中に入ってテーブルを指さす。

 私も歩み寄って覗き込み視界に映ったのは、いくつかの皿と、中華あんのようなものが掛かった僅かにお米と残ったお米が入ったバカでかいお椀。


 ……倒れる前に食事をしていた?


 そして近付いたからか聞こえて来る……微かな寝息。


「こ、この人寝ているだけ?」


 それだけじゃない。


「なんか凄い幸せそう……」


「そう、これ程幸せかつ合法的な意識の飛ばし方はありませんわ。きっと認知度が低いだけで、世界中に広がれば違法薬物なんてすぐに消えてしまうでしょう」


 そんな意味深な言動を……なんか明らかにヤバそうな言動をしながら私の肩に手を置いたお嬢様は言う。


「これがわたくし達の活動内容です。ようこそ、第二料理部……いや、黒百合女学園ドカ食い気絶部へ」


 うん、この部活ヤバいな。

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