スポットライトに照らされて
如月香
1st Album オワリマタハジマリ
1st sg ウィンク
いらないよ 何もかも
過去の光も 笑顔も全部
この雨の中を一人佇む
昔のように
またあの光へ飛び立つことはもうできない
ユアヒロイン『消える私のその先に』より
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
『6月上旬
高校二年生の俺・
正直高校一年の授業は中学の復習の面も多いから、そうなってしまう人がほとんどだと何かの番組で聞いたことがある。
「だからこそ、自分を律して成長していくことが高校生には大切なんだ!」
って黄金に輝く頭のどこかの大学の教授がその番組で言っていた。
全く、余計なお世話だ。自分の人生は自分で決めるってのに。
「なーに一人で変なこと言ってんの? それ以上バカになったら逮捕されちゃうよ?」
そう言うのは僕の幼馴染にして最大のライバルである
成績は俺たちの通う全国でも名門といわれる
優希と幼馴染だと知っている人は男女関係なく皆羨ましがるが、俺としてはもう十数年過ごしてきた仲だから、そんな気持ちは全くない。確かに可愛いのも認めるし、スタイルが良くてあれなのは、まぁ……その認めざるを得ないけど、一人の女の子というよりは一生の親友という感じだ。
「バカじゃねーよ! 俺らの高校偏差値高いわ! つかバカなだけじゃ逮捕されないだろ!」
反射的にツッコんだ。優希といるといつもこうだ。幼い頃から、ずっと。
そのせいで中学の時はみんなから夫婦だ何だと言われたこともあった。
「てかさー! 昨日のユアヒロインの新曲MVみた!? やばくない?!」
『ユアヒロイン』というのはアイドルのグループ名で今を時めくアイドルのことだ。
俺と優希はそのファンという共通点もあり一緒にいるときはほとんどユアヒロインの話をしている。
「見た! マジでかっこよかった。前回が儚い感じだったのに、今回ゴリゴリのヒップホップで低音ボイスやばすぎるし、ラップもうまいし、ダンスもめちゃめちゃ難しいのに全員完璧だし! 特に沙那ちゃんが今回も輝いてた! 早くダンプラ動画でないかなぁって感じだわ」
「ほんとそれなぁ~? てかやばい、もうすぐチャイムなっちゃう! 続きはまた今度ね~!」
俺が返事をする前に優希は走って行ってしまった。
踵を返すと目の前には男子4女子3の割合で集まっていて俺の周りを囲い始めた。
誰が最初に話すのか決めていなかったのか、誰も喋らず、無言の時間が続いた。
「あ~、えっと…………本日はどのようなご用件で?」
コールセンターかのような口調でそう言うと俺の真後ろにいた男・
「お前……毎朝毎朝、櫟木さんと親しげに話しやがって! しかも授業はぐっすり睡眠授業で、帰ったらユアヒロインの動画が待っている。良いご身分だなぁ」
額に血管を浮かせてめちゃくちゃ怒っているようにも見える。けど、俺は知っている。これはこいつの特徴であり、怒っているわけではないということを。去年同じクラスだったから何度も怖がられているのを見てきた。そのたびに荘真は「おれのチャームポイントなんだけどな」と言っていた。
「親しげって……幼馴染なんだからいいだろ。別に彼女じゃないんだから、そんなにあいつと近くにいたいんなら彼女にでもしたらいいのに。俺は止める権利もないんだから。荘真の好きにすればいい」
まぁ、結果は知っているが。荘真は去年から優希に何度も告白をしている。一目惚れしたらしい。その度に断られ、告白をして、を繰り返していた。なんでも優希には好きな人がいるらしく、聞いても俺には教えてくれなかった。
俺は7人の囲いを避けて自分の席に着席した。
チャイムが鳴り、先生が教室に来て朝のホームルームが始まると俺は窓の外を眺める。
俗世間から離れ、自分の時間を築いて流れる雲を見るのが、俺は好きだった。
少し時間が経ち、帰りのホームルームが終わった。
今日は珍しく一日中起きてしっかりと授業を受けていた。どんな気持ちの変化かは分からないが、今日は何かが起きる予感がして自分の本能が寝てはいけないと言っていた。
イスから立ち上がり教室を出ようとしたとき、その「何か」が起こった。
「あ、星衛君。今日当番だからこのノート全員分職員室まで運んでおいてくれるかしら?」
そう言うのは俺の所属する2年B組の担任・
「えっ!? 今日は急ぎの用事が……!」
本当はそんなものないが、ユアヒロインのようつーべチャンネルの動画を早く見たいがためにそんな嘘をついた。
だがしかし、先生にはお見通しのようで…………
「早く家に帰ってユアヒロインの動画を見たいからって、嘘はダメよ? 届けるだけですぐに終わるから、頼むわね?」
そう言ってウィンクをして先生は行ってしまった。
まだ20代とはいえど年上のウィンクを見るのには限界というものがある。
仕方なく俺はノートをもって職員室まで上がった。
職員室は自分たちの教室から一番遠い場所にあり、しかも階段を上らなければならない。重いものを持っている時は本当に辛い。
職員室までノートを届けるとそこには眼鏡をかけた筧先生がいた。普段とは雰囲気が異なって不覚にもドキっとした自分がいたが、本日二度目のウィンクで全て冷めた。
「あ~、早く帰ってようつーべ見たい! 昨日でた新曲のMVもっかい見たいんだよなぁ。沙那ちゃんマジで可愛いよな~、こんな人が彼女だったらいいのに」
その時、後ろから声をかけられた。
「応援ありがと。大好きよ」
そう声をかけたのは
スタイルも抜群に良く、性格も良い。誰もが憧れ崇拝する。彼女はまさに
恐らくこれが本当の今日起きる「何か」の正体だったのだろう。
そして俺にとって本日三度目のウィンクで彼女は去っていった。
これが彼女と俺の初めての出会いだった。
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