春花
川詩夕
屋上
放課後、校舎の屋上でたむろする男子高校生三人の姿があった。
「お前、先週の金曜日に屋上に来てた?」
「金曜日? 覚えてないよ、なんで?」
一人は屋上の柵に背中を預けながら無表情で煙草を吹かす。
「吹奏楽部のやつが言ってたんだよ」
「なにを?」
「屋上で誰かがセックスしてたって、夕暮れ時に立ちバックしてるシルエットだけが教室から見えてたんだってさ」
「何だよそれ、想像するとすげぇシュールだな」
仰向けのまま夕空を背景にエロ本から顔を覗かせる一人。
「どうして俺なんだよ?」
「お前、モテるだろ? 日替わりで色んな女と遊んでるってよく聞くから」
「別にモテてないよ」
「彼女はいるの?」
「いない」
「そういうお前はどうなんだよ、彼女の一人や二人はいんの?」
「いない……好きな人はいるけど……」
「誰?」
「それは……」
「何だよ、勿体ぶんなよ、俺らしかいねぇんだし」
「
「知らねぇ、何組?」
「B組」
「お前知ってる?」
「知らない」
「陸上部のエースだよ」
「あぁ、色白でショートカットの奴?」
「そうそう」
「陸上部なんだ」
「本当に知らない?」
「知ってる、苗字は知ってたけど里英って名前までは知らなかった」
「細くねぇか?」
「陸上部だから身体が引き締まってるんだよ」
「女はもう少し太めの方が良い。なぁ、そう思うだろ?」
「別にどっちでも良い、おっぱいはきれいだった」
「えっ?」
「お?」
「形の良い美乳だったよ」
「里英とやったの?」
「うん」
「いつ?」
「先週の金曜」
「もしかして……ここで……?」
「そう」
「お前じゃん立ちバックの影」
「みたいだね」
「付き合ってんの?」
「いいや」
「は?」
「告られた」
「まじ?」
「放課後、屋上に来てくれって呼び出された。部活が終わるまで待ってて欲しいって言われて、結構長い時間待たされた」
「それで?」
「どれだけ待たせるんだよつって、空になった煙草の空箱見せたら」
「見せたら……?」
「謝りながら告られた。冗談で俺のここ吸ってくれつったら吸ってくれた」
「ウケる」
「……」
「んで、そのままの流れでやった」
「どうだった?」
「何が?」
「陸上部で引き締まった身体の具合だよ」
「良かったよ、走った後だからか知らないけど全身汗ばんでてさ、髪とかぐっしょり湿ってたんだけどめっちゃ良い匂いがした、たぶん使ってるシャンプーの香りかな」
「だってよ、残念だったな?」
「……」
「落ち込んでんの?」
「小学生の頃から好きだったんだ」
「へぇ、長いな」
「中学校の三年間も好きだった……」
「一途だな、真面目かよ」
「終わった……」
「終わってねぇだろ、だって付き合ってないんだろ?」
「付き合ってないよ」
「ほら、お前が告れば良いじゃん?」
「いや……」
「何だよ、好きなんだろ?」
「でも……やったんだろ……」
「やったけど、それほど好きじゃないよ。それに好きな人は別にいるし」
「モテる男は違うな、正直羨ましい」
「今度紹介しようか?」
「えっ……?」
「里英、だっけ?」
「いや……」
「そう落ち込むなよ、次探せよ次、女なんて世の中にいくらでもいるんだからさ?」
「里英が好きなんだよ……」
「だったら紹介して貰えよ」
「いい……」
「何だよわがままかよ」
「で、お前の本命は誰なんだよ?」
「
「春花? めっちゃギャルじゃん可愛いけど」
「ギャルだね」
「遊んでそうだけどな」
「そう見えるよね? それが全然違うんだよ、見た目はかなり派手だけどシャイで大人しくて優しくてギャップがヤバい」
「すげぇ褒めるな」
「好きだからね」
「おっぱいもでかそう」
「大きいね、実際に見た事はないけど」
「見た事ない? まだやってねぇの?」
「まだそこまでの仲じゃない」
「は? 付き合ってない里英とやってんじゃん」
「それとこれとは違う」
「意味わかんねぇ」
突然、たむろする屋上のすぐ近くから身体が跳ね上がる程の重苦しく鈍い音が響いた。
「何の音だ?」
音のした方を覗き込むと、アスファルトの地面に身体が不自然に曲がりきった学生服を着た姿が見えた。
横たわる身体からどす黒い血がじわじわと染み出している。
「まじかよ?」
「嘘だろ……」
「よう殺人鬼」
「な……なんで……」
「やっちまったもんはしょうがねぇ、自首しろ」
「待て待て、俺は何もしてないだろ?」
「冗談だよ、なに焦ってんだよ? もう帰ろうぜ、ムラムラするし腹へった」
「そ……そうか……」
「お前は良いよな、いつでもセックスできて」
「……」
「無視すんなよ」
「え……」
「頼む、一生のお願いだ、一回で良いから里英とお前と俺とで3Pでやらしてくれ!」
「あぁ……」
「まじで? 約束したからな?」
「考えとく……」
「うっしゃ、生きる希望が湧いてきた」
「……」
「どした、帰るぞ?」
「通報しないと……」
「いいよ面倒臭いし、誰かが通報するだろ。あっ、お前もしかして事情聴取されたいの?」
「いや……されたくない……」
「だったら行くぞ、飛んじまったもんはしょうがねぇよ」
「そう……かな……」
「そうだよ」
落下地点の方から悲鳴が聞こえ、慌ただしい叫び声が周辺を飛び交っていた。
二人はエロ本をその場に放置したまま屋上を後にした。
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