落ちこぼれとして家を追い出された現代の陰陽師は突如出来たダンジョンに潜って最強となる共に最近流行の配信で天下を取って、陰陽師たちを見返すらしいですよ?

リヒト

第一章 始まり

婚約者

 一条有馬。

 その起源を遡れば縄文の時となり、平安時代に確固たる制度として確立された倭国の陰陽師。

 この世界の裏に巣喰ろう怪魔どもと己が持つ呪力でもって戦う陰陽師たちの中でも平安の時より続く名家中の名家である一条家。

 その三男坊として生まれた一条の有馬は、生まれながらに一切の呪力を持たぬ落ちこぼれであった。


 ───その、彼こそが私のターゲットだ。


 今年で十七とは思えないほどに小さな背丈の童のような少年。

 そして、その相貌も幼く、童のよう。

 だが、それでもその相貌はゾッとするほどに美しく、整っており、神が作り出したと言われても信じられるほどである。

 幼く見えるはず、だが、甘い蜜のような艶美さを携えている。


「はわわ……」


 一条有馬のスパイ。

 落ちこぼれとして追放された有馬の監視として一条家の命令で潜入しているスパイとして動いている私がちょっと惚れちゃいそうなくらいには彼がカッコいい。


「ただいま」


 そんなことを私が考えている間に、玄関の扉が開かれて有馬が帰ってくる。


「お帰りっ!ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・し?」


 スパイとしての潜入任務。

 私は堂々と彼の婚約者として懐に潜り込んでいた。


「それ、毎回やるの?」


 玄関から廊下を通ってリビングへとやってきた有馬の元へと駆け寄って告げた私の言葉に対して、彼は少しばかり呆れながら言葉を告げる。

 私の言葉を聞いた有馬が一切の動揺も、性欲も見せていない……おかしい。あの言葉は私の見解から察するにすべての男に効く最高の言葉のはずなのに。

 全然『私』と答えて自分へと手を出してくれない。

 任務のためにももっと私は彼と親密にならなければならないのに。


「お腹空いたからご飯にするよ」


「はーい……それにしても、お仕事ってどこに行っているの?まだ高校生だよね?」


 一条有馬。

 現役の高校生であり、実際に平日は高校へと通っている彼であるが、土日などや放課後など時折仕事として何処かに向かっているのである。

 私は彼がその期間に何をしているのか探りたいわけであるが……。


「秘密」


 有馬は取り付く島もなくただそれだけを答えてくる。


「むぅ……私は、もっと婚約者である君のことを知りたいのに」


「仲良くなってからね?まだ、君と知り合ってから一週間しか経っていないし」


「なら、もっと積極的に私に話しかけてくれてもよくない?たとえ、互いのお家の事情からの婚約者とはいえ、これから私たちは永遠と暮らしていくことになるのに」


「……うーん?」


 私の言葉に対して、有馬は特に強い反応せずに受け流されてしまう……どうしよう。有馬が何を考えているのかわからない。

 落ちこぼれ、って聞いていたのに守備が固いよぉー。


「でも、ほら」


 そんな風に不満を思っていた私の前で有馬は一切態度を変えぬまま口を開き。


「君ってばスパイじゃん?」


「……ッ!?」


 とんでもない言葉をさらりと告げる。


「……はっ?えっ?」


 有馬の口から告げられた言葉に驚愕し、完全に固まってしまった私の前で。


「ふふっ……その様子だと何も知らなかったみたいだね。僕の元にスパイが来たのは君で三人目だよ。一人目としては僕のお隣さんとして。二人目は僕の学校の教師として。そして、三人目の君は婚約者だ。まぁ、婚約者はあまりにも間柄として近すぎて逆にスパイではないのかと思ったが、しっかりとスパイだったね」


 有馬は淡々と自分の知らなかったことを説明していく。


「……な、なんで」


 そんな説明を聞く私の口からはありとあらゆることに対する『何で』という疑問が出てくる。

 

「ん?いや、何でと聞かれてもだいぶわかりやすかったよ?君。少しは上との連絡を隠そうよ。バレバレだったって」


「……っ」


 わ、私が連絡していたのが、バレていた?そ、そんな……一体、何処から?


「……何で、とは色々と難しい日本語だな。よくよく考えてみれば君は何も知らない状態であるわけで。『何で』の一言で聞きたい答えが色々とあるね。ねぇ、何が聞きたい?」


「……えっ、あっ……う」


 言葉が出てこない。

 驚愕と恐怖で、私は何も出来なかった。


「えー。なら、何を話そう。君の先任二人についてでも話してみる?とは言っても、僕が相手を始末しただけなんだけど。しかも、相手は自分がスパイであるとバレていないと思い込んでいる状態で死ぬときでさえもそのままだったからね。奇襲気味で処理しているから」


 殺された。

 私の、先任が───なら、私も。


「……ぁ」


 ようやく、ようやくすぐ後ろで佇む死を認知した私は少しばかり戻っていた冷静さを再び手放す。


「はっ……はっ、はっ……ど、ど」


 怖い。死の恐怖。

 過呼吸になってしまうような中で。


「な、なんで……私にはスパイであることがバレている、と?」


 私は先任二人と自分の扱いの差について疑問の声を上げる。

 

「えー、そんなの決まっているじゃん。君が今までの相手の中で断トツに無能だったからだよっ♪」


 それは、それは……つまり、ど、どういうこと?

 ……ハッ、もしかして、無能な私が相手ならどうやっても排除できるから、ということ?そ、それで私を、私をどうしろ、と……。


「いい加減面倒でさ。スパイをポンポン送られて、普通にフラストレーションが溜まってくるよね」


「は、はぅわぁ」


 た、たまったフラストレーションを、まさか私を残虐な方法で処刑することによってそれを解消しようと───っ!?


「あ、あわわ……ご慈悲をぉ」


「……んぅ?」


 体が震える。

 そんな私の視界に映ったのはこちらを興味深そうに見ている有馬の視線。

 その視線はまるで哀れなモルモットを見ているかのようでぇ……。


「きゅぅ……」


 有馬の視線に心臓が締め付けられるかのような思いに支配されていた私にとうとう限界が訪れ、そのまま意識を暗転させてしまうのだった。




「あー、気絶しちゃった……まぁ、ちょうど良いか。今のうちに彼女の中にある接続を───」



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