第5話ー3 鍛冶屋通り祭開催
「兄ちゃん兄ちゃん、ちょっと武器が欲しいのじゃ!」
という訳で、俺達は鍛冶屋通りに来ていた。
テッカンさんが武器コンテストで優勝して宮廷鍛冶師になったし王都住まいに戻った……かと思えば、工房は同じ鍛冶師の息子に譲ってこちらに住んでいる。
王から直接依頼を受けて剣を打っているらしいが、昔からの工房の方が使い勝手が良いと特別に許可を貰ったらしい。
あの伝説の鍛冶師がいるという宣伝も相まり、鍛冶屋通りは昔のような賑わいを見せている――はずなのだが。
◇◆◇◆◇◆◇
「これは由々しき問題や!」
ここは鍛冶屋通りの対策会議室(酒場)だ。
みんなテーブルにツマミと酒を用意しているが、さすがにドワーフ以外は手を付けず、腕組みして俯いている。
「父ちゃんがコンテストで優勝してくれたのに、なんでお客さんが少ないのか!」
俺の右隣で叫んでいるのはハーフドワーフのルビィ。
白皇剣を打ってくれた鍛冶師テッカンさんの娘で、彼女自身も鍛冶師である。
おかっぱみたいな髪形に、丸いメガネ。ドワーフの血のせいか身長は低い。オーバーオールを着ているのでより幼く見えるが、こう見えて年齢は俺(31歳)より年上(32歳)である。
ちなみに左隣ではハナコが当たり前のように飯を食っているが、ルビィからのツッコミは特に無かった。
それくらい会議に白熱してるのだろう。
「まぁ昔からの店も閉めている所、多いから……」
「ドワーフならいいけど、武器防具屋以外だと酒屋と酒場しか無いしなぁ」
「ここはお客さんが来やすい雰囲気作りが必要ッ!」
「オートロ兄さんの言う通り! これでは折角のマイン素材も泣いているッ!」
筋肉兄弟が暑苦しいポーズを取っているが、それはその通り。
いくら良い素材があって職人が居ても、コンテストで優勝している事をもっと周知しなくては――。
「それはもちろんやっとるんやけど、やっぱこの通りの雰囲気がなー……ちょっと寂れてんねん」
中央広場まで真っ直ぐの通りで見通しも良いせいで、尚更寂れている感が強調されてしまっている。
折角参加しているのだし、俺は元居た日本の事を思い出しつつ、案を出してみる。
「……だったら、何か屋台的なのが欲しいな。みんな店に篭ってるから、もっと視覚的に賑わってる感出したいし」
俺がそう提案すると、早速ルビィが乗って来た。
「屋台って、市場通りにあるやつ?」
「そうそう。でも売るのは武器とかじゃなくて――とかどうだろ」
「ほぉ……なるほど」
「さらに――とかやってさ」
「むむっ。ヨーイチ殿、それは良いアイディアですな!」
「ジュートロよ。これはやるしかないであるなッ」
「俺を挟んでポーズ取るなよ!」
暑苦しい兄弟はさておき、それらの案をひとまず羊皮紙に書いていく。
「定着するまで毎日は厳しいだろうし、週末限定でやってみるとか」
「……よし、鉄は熱い内に打てや! みんな聞いとったな!」
「「「おお!」」」
「この酒飲んだら、行動開始や!」
「「「おおー!」」」
「あとヨーイチ君!」
「ん?」
「ちょっと裏でこの子のこと、聞いても構わへんかな?」
ハナコの事を指差す、ルビィの笑顔が怖かった。
◇◆◇◆◇◆◇
そして週末。祭り開催日――。
「パパー、今日はどこに遊びに行く?」
「そうだな……」
俺の名前はゲラルド=オーキド。どこにでもいる普通の青銅3級冒険者だ。
元々は商人ギルドの会社で倉庫番をしていたのだが、ある日冒険者に憧れ民間ギルドに加入して早10年。
今では妻と、息子と娘に囲まれる毎日だ。
「さすがにまた郊外の空き地でボール遊びは……ん?」
空に何かが浮かんでいる……ここからではまだ読めないが、なんだ?
「はーいお兄さん、よろしかったらコレどうぞ♡」
「は、はい」
気付けば目の前に、黒髪のエルフ美女が立っていた。
露出は少ないが、ボディラインがしっかりと出た服は夜の仕事の格好に見えなくもないが――。
その美女が持っているチラシには、
「……鍛冶屋通り祭?」
「そうなんです。毎週末、料理の屋台を出したり、子供向けのショーをやったりするんです」
「はーい、君達にはこの特製フーセンあげちゃう」
「わーい」
「ありがとー」
見た目には12かそこらのメガネを掛けた少女はしゃがんで子供達に、宙にふわふわと浮く謎の緑のボールのようなものを手渡した。
「こら、お代を貰わず……」
「あら。これは無料ですよ。もちろん鍛冶屋通りに足を運ばないからって回収したりしませんので」
「む、無料……」
どんなモノかは分からないが危険性はない、と思う。
よく見たらフーセンには『鍛冶屋通り祭開催中』の文字が入っている。
「でもぉ、このチラシを屋台に持っていけば、料理も安くなるんですよ」
チラシと一緒に俺の手を握ってくるエルフ美女……し、仕方がない。
「よし、ちょっとだけ鍛冶屋通りに行ってみるか。武器も見てみたいし」
「うん!」
「早く行こう!」
◇◆◇
「おぉ、結構屋台も人も多いな」
確か前に1人で来た時にはほとんど人も居らず、酒場からドワーフの笑い声が聞こえるだけだった
「あいよー。マイン饅頭2人前ね!」
「今なら焼きそば、出来たてだよー」
「午後の鐘が鳴り終わったら、特設ステージでショー始まりますよー」
「マッスル兄弟の搾りたてジュースはこちらでーす」
通りには屋台が並び、自分と同じようにチラシを持った老若男女の人らがたくさん居た。
中には子供連れも多く、みんなフーセンとやらを持って歩いている。
「あ、さっきのはコレか」
地面に突き刺した長い棒の先に一際大きなフーセンと、『鍛冶屋通り祭開催中』と書かれた垂れ幕が吊るしてあった。
「パパ! あのフーセン釣りやってみたい!」
「わたしも!」
「分かったから引っ張らないでくれ」
そこの屋台も賑わっていた。
大きい水を張った桶の中に、小さなフーセンが浮いている……その先に紐が付いている。
「はい、1回銅3枚だよー」
「すいません子供2人分で」
「あいよー。はい、この釣り竿で釣ってね。上手く釣れたら景品もあるからね」
「「はーい」」
「……ところで、このフーセンって何で出来てるんです? 見た事あるような無いような」
「それは秘密ですが……自然由来の安全な素材なので、お子さんが間違って食べても全然問題ないですよ」
「はぁ……」
何かの食材か何か使ってるのかな。
「パパー、上手く釣れなーい」
「わたしは釣れたよ!」
「しょうがないな……パパに貸してごらん」
◇◆◇◆◇◆◇
「ふっふっふっ、初回やけど上々やな。特にあのスライムを薄く延ばしてなめしたフーセンは良いアイデアや」
「そうだろそうだろ」
「ふふん。アタシの美貌のおかげじゃな。後で屋台の食べ物、ちゃんと食べさせるのじゃよ」
「分かってるって」
一瞬の間。
「「で、その格好は何?」」
俺はいつもの鎧姿ではなかった。
頭の付近は茶色と薄茶色のまだら模様に、身体は薄茶色。ゆるーい表情の顔つき、小さな目と半開きの大きな口。短い手足と太い尻尾。
そう――あの
中に入っているのが俺である関係上、ちょっと
「これは俺の考案したゆるキャラ、マイン君だ」
「ゆる、キャラ?」
「やっぱり町興しみたいなもんだし、こういうマスコットキャラは必要だと思うんだよ」
「マスコット、キャラ?」
「あー。象徴……看板的な? 親しみやすい見た目で子供達にアピール出来れば、次も来てくれるだろ?」
「なるほどな……」
「よーしちょっと行ってくる」
俺は意気揚々と通りに出て、早速子供達に見つかり――。
「なんだこの魔物!」
「オレが退治してやるー!」
「お母さん、怖いよー」
めっちゃ子供達に殴られたり、登られたり、怖がられたりしてしまった……何故だ。こんなにも可愛いのに。
「デカいからやな」
「あと口もデカイから食べられそうじゃ……」
今回の祭りは概ね成功と言ってもいいだろう。
すぐは無理でも、いずれは鍛冶の仕事も増える事に繋がればいいんだけど。
『ね、姉さん! これショーだから、演劇だから……本気で女の子誘拐しようとした訳じゃ――ぐはッ!?』
『悪は、滅びた――』
どうやら特設ステージも盛り上がっているようだ……ゆるキャラのデザイン、いいと思うんだけどなぁ。
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