第3話ー3 探せ、最高の素材

 

「えっ、もしかして5000枚借りて商人が飛んじゃったとか!?」

「いや。風の噂で、商人は確かにオークションで牙の方を落札したのじゃが――素材を発送する前に、国家反逆の罪に問われて捕まってしまってな……」

 

 なんか最近そんな話を聞いた事があったような。

 

「当然特別な素材もなく、金も儂の名義で限界借りているから追加で借りることもできない――」

「で、それが母ちゃんにバレてまぁそりゃ凄かったんよ。父ちゃんがあんなに投げ飛ばされてるの初めてみたわ。そんでもって愛想が尽きたとか言って弟と一緒に家を出てって――あんま恥ずかしいからこっち戻って来たんよ」

 

 なんというか壮絶な話である。

 額が大きすぎてピンと来ないが、金貨1枚でこの街の高級宿のスィートルームに泊まれるくらいの価値だ。

 

「もうコンテストも絶望的で……儂は逃げて来たんじゃ。どうするかのぉ……」

 

 これまでの話を聞いて、ふと思い当たる人物がいる。

 

「その商人ってもしかしてド――」

「おっと手が派手に滑ったぁぁ」

 

 ステラが鞘を、さながら野球のバットのようにフルスイングさせ俺の頭を打つ。

 

「お、おぉ、おあああああ」

 

 視界がぐるんぐるんと回り、やがてドアから外へと飛び出した。

 そしてステラが俺の身体を担ぎ、ダッシュで外へと運んだ。

 

「いいかヨーイチ。ドルドの事は喋るな、いいな」

「やっぱあの商人って……」

「私達の行動に恥ずべき点は無かったが、まさかこんな事になるとは思わなかった……」

「どしたん2人して。あ。連れション?」

 

「「なんでやねん」」

 

 とりあえず部屋へ戻り、席に着いた所でステラが開口一番に言った。

 

「親父さん。どれだけ力になれるか分からないが、私に出来る事があればなんでも言ってくれ」

「俺も手伝います!」

 

 もしこのまま借金が返せず、一家で首を吊るとかになれば夢見が悪いどころの話ではない。

 なんだかんだ俺達も関わってるし、ステラの知人でもある。手伝うしかないだろう。

 

「お前ら……ぐすっ」

「ありがとなー2人共。ほら父ちゃんも、これにチーンして」

「チーン」

「それで具体的にはどうしますか」


 4人とも腕を組み、うーんと唸る。


「魔炎鋼竜に対抗してウチらも伝説の竜狩るとか? 金級冒険者のステラなら余裕ちゃうん?」

「……まず伝説の八竜は、伝説故にその所在が掴めない。少なくとも人里から遠く離れた山か、あるいはダンジョンの中か――発見を報告するだけで多額の報奨金が出るほどだ。それ以上に討伐には金以上の冒険者が100人くらい必要だ……ちなみに期限は?」

「大体2週間後だ」

「となれば……」

「……こんな時に済まねーが、ちょっとそこの兄ちゃんの鎧見せてくれないか?」

「ほんまに突然やな」

「別にいいですけど……」

 

 テッカンさんは俺の目の前まで来て兜、鎧や腕を触りだした。ちょっとくすぐったい気がする。

 

「こ、こりゃあ……で、伝説のアルマステンじゃねーか!!」

「アルマステン?」

 

『説明しましょう。アルマステンとはかつて――』 

「かつて古代錬金と呼ばれる技術で作られた最高峰のマテリアル鋼だよ」

 

『……マテリアル鋼とは』

「マテリアル鋼ってのは錬金術で造られた金属の事だ。鉄や鋼よりも魔力によく馴染み、それでいてあらゆる攻撃魔法や属性攻撃、毒などに強い耐性がある」

 

『…………』

「アルマステンはその中でも最高峰の金属だが、現代の技術だと再現が難しいらしい。なので遺跡からたまに見つかると、それはもうエライ騒ぎになる」

「なるほどなー。つまり、このヨーイチ君が着てる鎧を剣に打ち直せばいいって事やな!」


 名案っとばかりのルビィの発言に、俺の中で最大級の警報が鳴り響く。

 

『断固拒否します。断固拒否します。拒否拒否拒否拒否拒否――』

 

(分かったから! というかそれ、俺ごと剣になるじゃんそれ!)

 

「バカ野郎! 誰が造ったかは知らねーが、これは相当腕の良い職人の仕事だ。他人の仕事にそんな無礼な事、鎧にも失礼だろうが!」

「分かっとるって、そんな耳元で叫ばんといて!」

「……お前さん、武器は何を使ってるんだ?」

「いや、それが……カクカクシカジカでして」

「カクカクシカジカか――」

 

 ここに来るまでの経緯を簡単に説明する。

 

「ちょっと見せてみろ」

 

 言われるがままに魔力を込める。さっきの店の人達は眼鏡の魔道具を使っていたのに、テッカンは裸眼のままだ。

 

「父ちゃんほどの職人になれば、解析眼鏡マジックアナライズなんて無くても調べられるんよ」

「へぇー」

「……こりゃ驚いた。兄ちゃんの魔力は相当複雑だ。まるで2人分の波長を混ぜ合わしたような複雑さだ」

 

(ぎくっ)

 

「さらに驚くのはこの鎧だ。反発現象が起きないよう、自然に使用者の波長を合わすような仕組みになっている。まさに人鎧一体と言った所か」

 

(鎧しか居ません)

 

「――もし兄ちゃんの鎧のように、ただ現代の技術――もしかしたら、いや……」

 

 突然ブツブツ独り言を言い出したテッカンさん。

 

「だがこれは、ふむ、ほうほう。よし、分かった」

「なに勝手に納得してんねん!」

「兄ちゃん!!」

「は、はい!?」

「無茶を承知で頼む! その鎧の破片、欠片でいいんだ! 儂にくれないか!」

「え、ええ!?」

「おまっ、さっき人の仕事に無礼な事したくないゆーとったろ!」

「その鎧の金属を調べさせてくれ! ただの興味本位じゃねぇ。コンテストもそうだが兄ちゃんの剣を造る時のヒントにもなるはずなんだ」

「……ええっと」

 

『鎧の装甲は内部魔力により復元可能です』

 

(ダメじゃないの?)

 

『私は私の所有者ではありません』

 

「――分かりました。でも、本当に少しですよ」

「有り難い! 後は素材だな……」

「とりあえず俺は図書館で素材にいいの無いか探してくるよ」

「あっ、ウチもいきたーい」

「おう。しばらく帰って来なくていいぞ」

「夕飯までには帰るわ」


 少し思い詰めたような表情で、ステラは立ち上がった。 

 

「……ヨーイチ、悪いが私は別行動を取らせて貰う」

「いいけど……」

「素材にも少し心当たりがあるから、そちらを当たってみる。2日後には戻る」

 

 そう言い残すと、ステラはどこかへ行ってしまった。

 

「さて、俺らも探してみるか――」



  ◇◆◇◆◇◆◇


 

「分かんねぇ」

 

 冒険者協会の図書館へとやってきた俺達は、片っ端から剣の素材になりそうな情報を集めていた。

 

「ダイヤローズの花弁、グレートビーストの牙、パープルロードのローブ、ゴブリンキングの骨……強い武器や防具に使われる事が多い素材だって言うけど、どれも近場には居なさそうだ」

「ウチもマテリアル鋼の作り方と鍛え方勉強せんとなぁ」

「テッカンさんはマテリアル鋼も作れるの? 錬金術で作れるらしいけど」

「錬金術って言っても魔力で細工する知識と技術やからなー。錬金鍛冶師っていうのが父ちゃんの肩書きやな。それにドワーフ族に伝わる秘伝の技があれば、そりゃもう剣なんてちょちょいのちょいや」

「ふーん……ルビィって、テッカンさんの事が大好きなんだなぁ」

「……ウチもまだ見習いだし、職人として尊敬しとるんよ。家族に黙って借金作るとか、人の親としては最低やけどな」

「ま、まぁ、な……」

 

 そこには何も言えず、ひとまず素材探しを再開するのであった。


 

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