第10話
結婚式が無事に終わり披露宴がはじまるというときにふと海に目をやるとあの男の子が浜辺に座り西の空に沈む夕日をぼんやりと眺めているのが見えた。前に会ったときよりその姿が薄くなっていた。このまま消えて二度と会えないような気がして、私はウェディングドレスを着たまま慌てて外に飛び出した。
「寧音さん、待って。そんなに急いだら転ぶよ」
航大さんがすぐに追い掛けてきた。
「海人……なんだよね?」
恐る恐る近付くと男の子が驚いたように振り返った。
「寂しい思いをさせてごめんね。海人はずっとママのことを待っていてくれたのに、ママは海人のことを思い出すことが出来なかった。本当にごめんね」
男の子が首をぶんぶんと横に振った。
「ママはわるくない。だからごめんねしなくていいよ。かいくんね、ママとあーちゃんにずっとあいたかったんだ」
すっと静かに立ち上がると私のお腹を白い手で撫でてくれた。
「よかった。ママにもあーちゃんにもあえた。かいくんね、やっとね、おそらのむこうにいける」
「待って海人」
海人の小さな体を抱き締めようとしたら、指からすり抜けていった。
「もういかなきゃ。かいくんはふたりいちゃだめだもの。おじちゃん、ママとあーちゃんをおねがいね。ゆびきりげんまんだよ。これをずっといいたかったんだ」
「分かった。指切りげんまんする」
航大さんにも海人の姿が見えていた。
「ママ、おじちゃん、バイバイ、またね」
海人が笑顔で手を振ると海に向かって歩き出した。日が沈んだ海が一瞬だけ七色に輝き、海人はその光のなかへ吸い込まれるように静かに消えていった。
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