第2話

誰かに名前を呼ばれたような気がして振り返ると高校生くらいの男の子が血相を変えて防波堤の階段を一気に駆け下り私のほうに向かって走ってくるのが見えた。

「良かったねおうちの人が迎えに来たよ」

男の子のほうを見るとついさっきまでいたのに。忽然と消えていた。目を凝らしあたりを見回したけれどどこにもいなかった。

「やっと見つけた」

高校生くらいの男の子が肩で息を切らしながら私の前で立ち止まるとはにかんだような笑顔を見せた。彼は私のことを知っているみたいだったけど、私にとってははじめて会う人だった。

「あのすみません、どちら様ですか?」

渡貫わたぬきうみさん、すぐには信じてもらえないと思いますが、記憶を失くす前の、あなたの本当の名前は木幡こわた寧音ねねです。僕は半谷はんがい海人かいと、高校二年生です。18年前に北泉海岸で遺体となって発見されたあなたの息子・海人くんの生まれ変わりです」

にわかには信じられないことを告げられ驚いて声も出なかった。

「海人くんは予定日より1カ月早く2002年4月20日、午後10時半に市内の鳥崎総合病院で誕生しました。父は同病院の医師、大金おおがね隼士はやと。母は寧音さんあなたです。産まれたときの体重は2670グラム。身長は47センチ。これはあなたの知人の方から預かってきました」

男性が写真を見せてくれた。生まれたばかりの赤ちゃんを笑顔で抱っこしているのは間違いなく私だった。隣には眼鏡を掛けた真面目そうな男性が緊張した面持ちで立っていた

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