プロローグ2



 「正直、驚いた。まさかこの刀は時代遅れと言われる時代に使うやつがいたなんて」


 その少女は試験が始まり、縛霊が実体化されるとすぐさま距離を詰めた。いくら身体能力が高いとはいえ、あれは縛霊の近接戦闘能力を舐めている。

 懐に入り込むと天は足を狙って刀を振り下ろそうとするが、その前に縛霊が薙ぎ払った。咄嗟に防御はしていたようで、すぐさま体勢を立て直した。


 「やっぱり龍神族とはいえ、縛霊と近接戦はキツイみたいだな」


 その言葉に霧音が反論する。


 「いや、普通ならあの薙ぎ払いに反応できやんとそのまま試験終了してたと思うけど?」


 「そうなのか?」


 カグツチ以外の三人がため息を吐いた。豪塚が少し声を小さくしてカグツチに話しかける。


 「恐れながらカグツチ殿、その感覚でいらっしゃると誰も採用できないかと...」


 天はもう一度縛霊の足を狙うつもりのようだ。そして縛霊もさっきと同じように振り払うつもりで片腕を横に広げている。その腕に力を入れて天めがけてスイングすると、足を狙っていた動作をすぐさまやめてその攻撃を刀で受け流した。


 「あれは、誰かから習ったとかそういうのじゃないな」

 「そうなん?ウチは剣術とかそういうのかじってすらないし、カグツチさんから見てあの子の剣術はどう見えてんの?」


 「俺はかなり長生きしてるから、黎界に存在する剣術なら大体知ってる。けどあれはどれにも当てはまらない。あえて分類するなら、”身体能力とセンスに頼り切った剣術と呼ぶにはおこがましい何か”だ」


 その言葉に納得したのか冷華は


 「確かに、天には剣術なんて誰も教えてないし、もしかしてあの子の父親の剣術を見様見真似でやってるのかもしれないですね」


 と言った。縛霊の攻撃を受け流した後、その伸びた腕を切り落とした。


 「おお、あの子保安隊にも欲しいな!」

 「そうですね、隊長。最初の攻防で分かった相手の行動パターンに対してフェイントをかけて対応した。素晴らしいです」


 「おい、最初に目付けたの俺だぞ?」


 「そんなん関係ないって」

 「そうよ、そもそもあなたたちに娘を預ける気はありません」


 大人同士の醜い新人の取り合いが始まった。その様子を見てマガツヒが口を挟む。


 「私たちはその生徒の配属先の候補の一つとして提示できるだけで、後は本人の意思次第ですよ」


 天は攻撃を受け流した後、氷の魂能で縛霊の足を凍らせて、動けなくしてからその首を刎ねた。それを見てカグツチは少し笑った。


 「なぁ冷華さん、悪いがあいつは俺がもらう」


 「え?あなたみたいなクズには嫁にやれません」

 「そういう意味じゃねぇよ! ...地味に今俺の事クズって言った?」


 天は試験が終わると、水色の髪をした子と楽しそうに喋っている。


 「天、もう友達出来たのね。よかった」

 「ねぇクズって言ったよな?」


 「しつこい男は嫌われますよ、カグツチさん」

 「人の悪口言う女も嫌われるから!」


 「お二人とも、そろそろ次の子の試験が始まりますよ」


 学園長になだめられた二人は会話をやめ、モニターに再び視線を戻した。次はさっき天と話していた水色の髪の子のようだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 時間は少し前、天の試験開始前まで戻る。


 試験の順番は決まっておらず、先生曰く「自信のあるやつからやれ」とのこと。一番最初に手を挙げたのは勇気ある男子生徒A。

 最近の戦い方は遠距離ちくちく戦法らしく、武器は銃剣を選んでいた。が、あえなく接近され倒されてしまった。


 「よし、試験終了だ。次にやりたい奴は手を挙げろ」


 クラスメイト達は前の生徒が負けてしまったからか手を挙げる者はいない。やるなら今しかない、と思った。今ならあの縛霊に負けても{まあ仕方ないか}と、みんなも思ってくれるだろう。私は誰も手を挙げていないか確認してから名乗り出た。


 「やります!」

 「わかった。雪羅、まずは武器を選んでくれ」


 先生の隣には大きな台と、その上に様々な武器が並べられていた。今更だけど、私ってどの武器も使ったことなくね?うーん、先生は使ったことがあるか、一番使えそうな武器を使えって言ってたっけ。

 それなら刀になるのかなぁ。私がまだ幼かったころ、病床から庭で剣術の修練をしている父の姿を今でもはっきりと覚えている。この負けても仕方ない空気が流れている今、刀に挑戦できる絶好のチャンスでは?

 1分程迷った末に、私は刀を選んだ。


 「雪羅、本当にそれでいいのか?」

 「はい」


 この先生が心配するほど、対縛霊戦においては不利なのだろう。でも脳裏に焼き付いたあの父の姿に今でも私はあこがれている。せっかくのチャンスなのにやらないという選択肢はない。

 前に進んで縛霊が実体化される。


 「制限時間は5分だ、それでははじめ!」


 掛け声とともに縛霊が動き出した。その瞬間、スゥっと頭の熱が吸収されたかと錯覚するほどに冷たくなり、思考が研ぎ澄まされるような感覚に陥った。だが大した違和感は感じなかったので気にせず続けることにした。近接戦闘能力が高い、という情報しか私は知らない。小手調べ、ワンチャンスを狙うという意味でもまずは足を狙うことにした。相手がどのくらい速いのかわからない今、できるだけ速く攻撃する。

 まず最初に私は反応される前に懐へ入りこんだ。刀の柄を握りしめ足を切りつけようとした瞬間、視界の隅に縛霊の腕が見えた。想定外の攻撃速度に対して、咄嗟に刀を攻撃方向の腕の側面に刀身を添わせて防御した。


 結果として防御はできたが、踏ん張りが足りていなかったのか吹き飛ばされた。私は翼を広げて勢いを殺し、そのまま体勢を立て直した。思ってたよりも強い!ところで、この再現された縛霊にはどのくらい知性があるんだろう?

 本物の縛霊を知ってるわけじゃないから本物は賢いなんて思ってはいないが、私がどういう動きをしているかとか、分析できるのだろうか。


 私はもう一度接近してさっきと同じ動きをした。たださっきと違うのは切る為に構えている刀や腕に力が入っていないことだ。また同じ対応をするなら受け流す、フェイントだと見破られたら力を入れて切る。

 縛霊が取った行動は、前者であった。刀身をななめに構えて薙ぎ払いを受け流し、その伸びきった腕を切り落とした。再現されている物だからなのか痛みや恐怖を感じている様子はない。縛霊というのはもともとああいうものなんだろうか。


 近接での攻撃手段である腕を片方なくしてやったので、少し距離を取った。間髪入れずに私は氷の魂能を地面に這わせるように展開し、縛霊の足を封じた。私の魂能特性は、”無形”。何かをかたどらせようとしても無形であるがゆえにすぐ崩れてしまう。しかしなにかを形作れない分、そのままの出力は同レベルのものと比べても高くなっている。


 足を封じている氷にひびが入った。私は拘束を解かれる前に全速力で接近し、振りかざしてきた腕をかわして縛霊の首を刎ねた。


 「試験終了だ。次」


 深呼吸をして、荒れた息を整える。最初はどうなることかと思ったけど、うまく出来てよかった~。時雨さんが駆け寄ってきて、「お疲れ様」と声をかけてくれた。


 「あれ?雪羅さんなんか目が...」

 「え?」

 「ううん、なんでもない。気のせいだったかも」


 私の目がどうしたんだろう?私は何も感じてないけど... まぁいいか。


 「時雨さんもがんばってね!」


 「うん!雪羅さんのお陰で何だか私も勇気が出てきたよ」


 まだ誰も私の後に手を挙げた者はおらず、時雨さんが手を挙げて試験が開始された。




 「では、始め!」


 先生の掛け声と同時にタイマーが動き出す。彼女が選んだ武器は、1人目と同じ銃剣だった。初動は彼女が縛霊との距離を一定に保ちつつ、隙を見て撃つ。それを繰り返していた。


 だが縛霊も黙ってやられる気は無いようで、大きく飛び上がり時雨さんに襲いかかった。その瞬間、どこからか青透明で四足歩行の動物が姿を現し、彼女を背に乗せて縛霊から距離をとった。

 時雨雫の魂能は水、その特性は"動物の再現"。本人が知りうる動物全てを水で再現し、操れる。同時に再現し操れるのは1体のみ。


 距離を十分話した後、時雨さんは背から飛び降りて銃剣を構える。再現された四足歩行の動物は縛霊の方へと反転し、足に噛みついた。そしてその隙にしぐれさんが銃剣で攻撃している。


 時雨さんがあんなに強いのにも驚いたけど、あの四足歩行の動物は何だろう?さっき彼女を背に乗せて走っていた時かなり早かったので、チーターとかだろうか?


 縛霊がそのチーターに向かって拳を振り下ろし、胴体を潰した。普通ならその拘束が解けて今すぐにでも彼女との距離を縮められる。だか、そのチーターは生憎と体が水で出来ていた。

 その体は再生し、その場から縛霊を動かそうとしない。ただ動けないだけでなく、止まっている今は時雨さんの格好の餌食である。何度も銃弾を受けた縛霊の防御が段々と剥がれていく。


 遂にその銃弾は脳天を打ち抜き、それは倒れて消えた。


 「試験終了だ」


 正直、私よりも時雨さんの方が強い気がする。彼女が選んだ武器を元の場所に戻し、私の方へやってきた。


 「どうだった!?うまく出来てた?」


 「うん。時雨さん、あれだけ動けててしかも倒せるんだから将来安泰だね!」


 試しに褒めてみると「いやぁ、褒めすぎだよぉ」と頭を掻きながら恥ずかしそうにしていた。

 嘘は言っていない。私も時雨さんも縛霊を倒しているが、私は刀でほとんどゴリ押しの様なもの、時雨さんは魂能を最大限活用した遠距離戦術。

 どちらの方が評価が高いのかは明確だ。どんな観点で見られてるかは知らないけど、私が評価する立場だったら刀を魂能でごり押した私よりも時雨さんを評価する。


 「それでは試験開始だ」


 時雨さんと話しているあいだに次の人の試験が始まった。その後も順調に試験が終了し、結果はクラスの半分ほどが縛霊を倒すことに成功していた。

 その後私たちは教室に戻され、陽目先生から配布物をもらい、明日の連絡事項を言い渡されて本日の予定はすべて終了した。


 「では、今日はこれで終わりだ。各自帰宅して明日からの授業に備えるように」


 先生が教室を出ると、みんな帰る準備をし始めた。私も無事に終われてほっとしたのか今朝からあった不安がなくなった。これからもなんとかやっていけそうだ。


 「雪羅さん、いきなりだけど一緒に帰らない?」

 「う、うん。いいよ」


 本当にいきなりで少し動揺してしまった。でもせっかく仲良くなったのに断る理由もないし、断る気もない。

 

 時雨さんはもう帰る準備が終わっていたので、急いで荷物をカバンに詰めた。配布物で行きより少し重くなったカバンを背負い、時雨さんと一緒に教室を出た。


 時雨さんと私の帰り道は偶然にも途中まで一緒だった。道中でいろんな話をした。


 そこで聞いた話によると時雨さんの実家はパン屋を営んでいて、彼女も親の跡を継いでパン屋になるつもりだったらしい。だがある日突然市街地に縛霊が出現してそのパン屋があった建物は倒壊。突然の大赤字に貯金まで無くなってしまい、遂には借金を負ってしまった。


 この黎界で1番稼げる仕事は管理局員。時雨さんは管理局員になろうと決めたが、それになるにはまず学園に入らなければならなかった。

 もちろん学園も誰でも無料で入れる訳ではないが、入学試験の時に十分な学力を示せば奨学金が、才能を、示せば無償で学園に通う事ができた。


 時雨さんは奇跡的に魂能を扱う才能があり、その基準をクリアして通うことが出来るようになったらしい。

 

 「雪羅さんはどうしてこの学園に通うことにしたの?」


 「あー、それはね...」


 私は時雨さんに学園へ通うことになった経緯を設営した。経緯って言ってもある日幽仁さんに「天ちゃん、学園行こっか」と言われ気づいたら学園に通うことになっていたんだよね。


 「え、雪羅さん試験受けてないの?」

 

 「うん、一回学園に行ったけど、試験は受けてないよ」

 「絶対裏口入学じゃん」


 「あー、やっぱりそう思う?」

 「うん」


 ですよね~、私の家、というか幽仁さんそんなに権力持ってたんだ...


 「雪羅さんってお嬢様だったんだね!」

 「そ、そうなのかな...」


 以外だ。てっきり時雨さんは苦労して入って、私は裏口入学したから嫌われると思ってた。私が思っているほど世の中悪い人だらけではないらしい。

 そんな調子で楽しく会話していると突然時雨さんの足が止まった。


 「私、こっちの道だ..」


 時雨さんは左、私は右の道だ。もうちょっと話していたかったけど、今日はここでお別れかな。


 「じゃあ、また明日」

 「うん、バイバイ!」


 時雨さんに背を向けて私は家路を辿った。そこから龍神族の屋敷はそれほど遠くなく、歩いて5分程の距離だった。


 帰宅するとタマさんが晩御飯の準備をしていた。


 「天ちゃん、学園どうだった?」

 「これから楽しくやれそうです!」


 「そう、それならよかったわ」


 それからは幽仁さんやタマさんに今日あったことを話した。友達ができたことも話すととても喜んでくれた。

 晩御飯を済ませた後、疲れが足寄せてきたのでベッドに入った。体が病弱だったあの頃よりも、うんと楽しくなりそうだ。明日からは本格的な授業が始まる。それに時雨さん以外にもたくさん友達作りたいし。

 ああ、早く明日にならないかなぁ______




ーーーーーーーー


 「親分、どうすんだよ!このままじゃ俺らの評判ダダ下がりだよ!」

 「うっせぇ黙ってろ!」


 クソッ、なんでこんなことに__ 親分こと火山は誰もいない裏路地で壁に頭を打ち付けていた。

 ほんのちょっと油断していただけなんだ。1-2は完全に俺がカーストの最上位に立つことができた。この勢いで隣のクラスも支配下に置いてやろうと思った。そいつらもほとんど負かしてもう俺の物だと思っていたのに、あいつが現れた。俺も魂能さえ使うことができていたならあんな奴に負ける事なんてなかったのに!


 どうすれば俺の地位を、威厳を取り戻せる?あいつを倒すのはもう無理だ。あいつは自分のクラスを完全に味方に付けている。もし俺らが戦いを挑んだらあいつらはクラス一体となって抵抗するだろう。そうなればさすがの俺も勝てなくなってしまう。

 どうすればいい?わからない。どうすればいい?わからない。どうすればいい?わからない。どうすればいい?わからない。どうすればいい?わからない。どうすればいい?わからない。どうすればいい?わからない。どうすればいい?わからない。


 自問自答を繰り返しているとある案が思い浮かんだ。


 「おい、あいつが一人きりになるのはいつだ?」


 「え、そうですね....帰り道とか?」

 「だめだ、それは人目に付く」


 「それでは一か月後のクラス合同演習なんてどうです?」

 「そう、それだ!」


 必ず一人になる瞬間があるはずだ。そこであいつを、”殺してやる”。そう思った瞬間、なんだか体か軽くなり、感覚も研ぎ澄まされたような感覚に陥った。不思議と気分もよくなった。


 「お、親分、目が__」

 「目がどうした?」


 裏路地にあった水たまりを見つめるとそこに映ったのは、眼球すべてが真っ黒に染まった自分の姿だった。




ーーーーーーーーーー





 日々は本当に楽しくあっという間に時間が過ぎ去って行き、気が付けばあれから1か月が経過していた。




 「おはよう、”天”」


 「うん、おはよう。”雫”」


 私たちは毎朝一緒に登校している。あの試験から今日でちょうど1か月。特に何もなかった。覚えていることといえば、あの親分たちがあの日以来学園に来ていないことだろうか。まぁどうでもいいか。


 そういえば、この1か月で分かったことがある。雫は”危険”だ。教室でふと雫の方を見ると何やら男子の方を見てニヤニヤしている。それだけなら危険というのは大げさだが、それが妥当たる理由もある。

 入学式の日、更衣室で男子更衣室の方に穴を空けようとしていたが、それは2週間ほど続いた。ある日、誰かの密告によって、その犯人しずくは先生に連れていかれた。容疑者しずくの供述は意味の分からないものだったという。極秘ルートで仕入れた議事録のようなものがある。何故こんなことをしたのかという質問に対し、


 「先生、いつか必ず大きな壁にぶつかる時がやってきます。そのとてつもない大きさの壁を、打ち破ってこその人生じゃないですか」

 「よし、じゃあ私がその壁をおまえの頭ごと粉砕してやるとしよう」

 「いや、待って!先生、誤解だって!必ず分かり合えr___」


 ここで記録が途切れている。...さて、気を取り直して。この1か月、授業が始まったこと以外は特に大きなイベントもなかった。学園生活になれるための順応期間のようなものだろう。

 ただ、2週間ほど経過したころ告知があった。1週間後から学園に通いながら管理局員として働いてもらうと。今日がその日である。 


 先生によると、今日あの試験の結果に基づいたおすすめの配属先が書かれた紙が配られて、その中から一つ選び一度バイトのような形で配属される。

 それからは午前に学園で授業、午後からは管理局で仕事。という超絶ハードスケジュールになる。ちなみにちゃんと給料は出るらしいのでただ働きとわけではない。よかった。


 教室に入るとクラスメイト達の話声が聞こえた。


 「わぁ、今日も雪羅さん綺麗ね」

 「そうね、あの人と一緒のクラスになれてよかったわ」


 そう、私は入学式に日以降、誰一人として友達ができていない。あの日親分一味を撃退したせいで仲良くなるどころか神聖視されていた。完全に呪われている!そのせいで話しかけても相手がかしこまった態度を取って一向に距離が縮まない。

 それに加えて私の事を陰で綺麗だとかかわいいだとか言われ始めた。さっきの会話もそうだけど全部聞こえてるから!言われてる側はめちゃくちゃ恥ずかしいんだから!


 .....結局、時雨さん以外友達はできなかった。これも全部あの親分とやらのせいだ!


 「よし、全員集まったな」


 教室に陽目先生が教室に入って来て、教卓へと足を運んだ。

 

 「全員席に着け、これからお前らの試験結果に基づいた配属先が書かれた紙を配布する」


 配られたその紙を見ると縛霊との模擬戦闘で評価されたポイント、そして複数の配属候補が書かれていた。どうやら私は今の主流の戦い方じゃなかったけど、近接戦闘で縛霊に勝ったこと、魂能の使い方が主に評価ポイントになっていた。

 そして私の配属候補は....


 からくり課・中枢管理課・保安隊・特命課の4つだった。うん、どこがどういう事をしてる部署なのか名前から察することはできるけど、改めて考えると何をしてるのか本当に知らないな。


 「よし、全員目は通したか?そこに書かれている部署がお前らの配属候補だ。逆に言えばその部署以外に入ることはできない」


 つまり私はこの4つの内から選べるって事か。


 「おそらく、今それらの部署についてお前らは何も知らないだろう。今から各部署の仕事を説明し、その後管理局へ赴いて自分の希望の部署へ行って、その後はその担当者の指示に従え。ちなみに配属先は今週中に決めてもらう。よって、今日の授業は無しだ」


 この中から一つ選んでそこに行き、体験のような物をする。それを通して入る部署を決める。話を要約するとこんな感じかな。


 「では今から各部署の仕事内容について説明する」


 先生は懇切丁寧に説明してくれた。

 からくり課・管理局のあらゆる機械やシステム、さらには新しい薬などの研究開発なども行っている。

 中枢管理課・管理局にある部署のまとめ役のようなもの。予算の振り分けや政治的な対応などの雑務をこなす部署。

 保安隊・特殊な空間に発生する縛霊という謎の怪物を狩り、黎界の治安維持を行っている。非常時には軍隊として機能する。管理局の中で一番人数が多い。

 特命課・最近発足した新しい部署。管理局員を取り締まる内部警察のようなもの。現在2人で仕事を回している。


 「まぁこんな感じか。詳しい説明はそこに行けば聞けるはずだ。どこに行くかはお前らに任せる。私からはとやかく言うつもりはない。では、各自決めた者から管理局へ行くように、以上だ」


 そういうと先生は足早にこの場を去った。会議がある日はいつもああいう感じなんだよね。それはそうと、私もどこに行くか決めないと。

 からくり課は、別に機械いじりとか研究とか興味ないしなぁ。中枢管理課は...お母さんがいるんだよなぁ。シンプルに一緒に働きたくない。となると消去法で保安隊か特命課かな。


 「ねぇねぇ、天はどうするか決めた?」


 雫が肩を叩いて話しかけてきた。


 「まだだよ。保安隊にするか特命課にするか迷ってるんだよね」

 「そうなんだ、私は保安隊にするよ!あの忌々しい縛霊ぶっ殺したいし」

 「へ、へぇー」


 目がマジである。ちょっと怖い。まぁ店壊されてるし、仕方ないか。雫が保安隊に行くなら私も一緒に行こうかな?誰か知り合いがいた方がいいと思うし。


 「天、迷ってるなら特命課の方に先行けば?」

 「え、どうして?」


 「だって期限は今週末だよ?私が保安隊に行くから後からでも教えてあげられるし」


 確かに、1日目から行かなくても雫がいるから前日にやった内容教えてもらえるのか。すぐ決めるんじゃなくて、他のところを見てから考える方がいいもんね。


 「じゃあそうしようかな」


 雫のアドバイスに従って、まずは特命課から行くことにした。管理局の入口までは一緒なので、雫と一緒に向かう。

 


 入口に着くと、そこには局内マップと書かれた地図が置いてあった。建物は地下2階から5階まであり、その3階が管理局と黎界の各地をつなぐ列車の駅になっている。

 保安隊は4階と5階、特命課は3階にあるようだ。


 「ここまでみたいだね。じゃあ天、頑張ってね!」

 「うん、雫もね」


 中へ入り雫と別れた。管理局の中は非常に人が多く、大半の人は1階にある中枢管理課に用があるようで、受付窓口と書かれている所に行ったり、その前の椅子に座ったりしていた。まるで大都会の病院のそれで、違うのはみんな健康であることだ。3階に行く方法を探していると、エレベーターを発見した。その横には大きな文字で2階と書かれている。この建物に会談は無く、それぞれの階に専用のエレベーターが付いているようだ。私はその隣の3階と書かれたエレベーターのボタンを押してその前で待機した。


 このエレベーターは他のものと違い、あまり、というか全く人が並んだりしていない。そういえば先生が特命課は最近発足して、二人しかいないんだっけ?

 チーンとありきたりな音を立ててエレベーターの扉が開く。それに乗り込むと自動で閉まり、あまり揺れを感じないまま、階数表示の数字だけが上がっていった。


 扉が開くとそこは大きなフロアだったが、気持ち悪いくらい人がいなかった。というか私以外この階に人がいるか怪しいレベルだった。すると足元に奇妙な気配がしたのでそこを見ると、機械の体をしたクモがいた。


 「うわぁ!!!」


 びっくりして閉じたエレベーターの扉まで下がった。


 『あなたが雪羅天?』

 「うわ、喋った...」


 なんかもうびっくりを通り越して若干それを受け入れていなった。クモが機械で、しかもそれが喋って、ん?どういうことだ?誰でも目の前にクモ型の機械が現れて、それに話しかけられたら誰だって混乱するだろう。

 

 「あの、あなたは誰ですか?」

 『私?私はハル。特命課だよ。あなたを迎えに来た。私についてきて』


 この人?このクモ?が特命課なんだ....とりあえず従っておこう。小さな機械音を立てながら移動し始めた。


 『あなたがここにいるってことは特命課に入るって事?』

 「いえ、まだ決めては無いです。とりあえず説明を聞いてから考えようかなと」

 『そう』


 なんか淡泊だなぁ。さっきこの階に私以外の人がいるか怪しいって思ってたけど、本当に誰もいい無い。1階はあれだけいたのに人っ子一人にも合わない。

 それの動きが止まって、その多い足の内一本を使ってドアを指差した。


 『ここだよ、中で私の上司が待ってる』

 「あ、ありがとうございます」


 一度深呼吸してから扉を開ける。まあまあの広さをした部屋、壁にはいくつか扉が見える。ここ以外にもいくつか部屋があるのだろう。そしてその中央にはデスクがあり、そこに赤髪の男が座っていた。


 「来たか」

 「雪羅 天です。よ、よろしくお願いします」


 相手がだれであれ、第一印象は大事だ。


 「俺はカグツチ。この特命課の課長をやらせてもらっている」


 カグツチさんは何やらデスクの引き出しを漁り始めた。何をしてるんだろう?漁り終えると、一枚の紙を渡された。


 「この部署の説明は聞いているか?」

 「はい、先生からある程度は」


 その紙には部署の説明が書いてあったが、それは先生がしてくれた説明とほとんど同じ内容だった。


 「まぁざっくり説明するとだな、ここは特殊命令遂行課、略して特命課だ。中枢管理課からきた依頼をこなしたり、局内の治安維持を行っている。俺から行える説明は以上だ」

 「え?どういう事ですか?」


 「う~ん、簡単に言うと、俺たちの任務が特殊すぎて部外者にはあまり教えられないんだ。つまりこれ以上は入ってもらわないと説明できない」


 なにそれ、まぁ新設する位だからよほど重要なことをしているんだろう。


 「ただ、待遇は最高のものを用意するぞ。給料も弾むし、俺は鍛冶師だからお前に専用の武器を作って渡すこともできる。というか今人手不足過ぎて入ってくんないと俺らが過労死する」


 そう言う男の目は、死んでいた。私はどうするべきなのか思考を巡らせた。そして私が導き出した結論は



 「お断りします」 


 

 

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