陽だまりの勇者

リュート

第1話 勇者ユウキの壮絶な終わりと高校生勇輝の1日の始まり

「これで終わりだ! 邪神ギグル!」


勇者ユウキの声が、邪神の棲家である虚塔バベルに響き渡る。

雲にまで届きそうな高さを持つバベルだが、その声は地上で待つ味方にも届くほどだった。


「人間風情が調子に乗るなよ……! 例え聖剣を使っても我は死なぬ!けして滅びぬ!」


剣と魔法の世界、ノクティア。そのノクティアを三千年に渡り力で支配してきた邪神ギグルは、ユウキを睨みつけながらそう吐き捨てた。


闇を祓う聖剣、エクスカリバーはギグルの胸に深々と突き刺さり、中から聖なる光で闇の集合体であるギグルの体を焼き続けている。さらにこれまでの戦いでギグルは、巨大な二本の角を砕かれ、六本あった腕の半分を失い、木よりも太い脚はズタズタに切り裂かれている。


それでもなお、ギグルはユウキに抗えるほどの力を残していた。


ギグルの想像以上の抵抗に、ユウキの顔が強張る。

この攻撃を失敗してしまえば次はない。それは人間だけでなく、ノクティアに住む全ての種族の未来が消えることと同義である。


この状況下、悩みに悩んだユウキは一つの決断を下す。


「心よ奪え、体よ喰らえ。かのものに終わりを、混沌へと沈む始まりを!」


ユウキが唱えたのは、自分の魂に相手を封印するというとても強力な魔法の呪文だった。


ただし、強力がゆえに代償も大きく……この魔法を使ったものは命を失ってしまう。


「きさま……命が惜しくないのか!」

「惜しかったらこんなところに来ていない!」


全て災厄の元凶であるギグルを、自身の中に取り込んでいく。


死ぬ覚悟でここまで来た、そのことに嘘はない。

死への恐怖もない。


それでも、彼の心には小さな未練が残っていた。


「……陽だまりってやつを見てみたかったな」


勇者ユウキの人生は、ここで幕を閉じた。


***


彼が起床後最初に確認するのは天気である。

ベッドから体を起こすよりも先に、目を開けたら窓の向こうを見るのが日課だ。


今日の天気は曇り。

分厚い雲を睨みながら、勇輝は心底残念そうにため息をついた。


「青空じゃないのか……」


この少年の名前は一ノいちのせ勇輝ゆうき


黒髪黒目で、身長は同い年の男子平均より少し高い。

都内にある真白高校に昨日入学したばかりの普通の高校生。


普通じゃない点をあげるとすれば──かつて邪神から世界を救った勇者、ユウキの生まれ変わりなことくらいである。

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