第6話 お嬢様として纏うドレス
屋敷に着くと、メイドに案内され、客間へと通された。
そしてしばらく待つと、扉が開き一人の男が入ってきた。
男は白髪交じりの黒髪を後ろに流しており、どこか神経質そうな印象を受ける。
そして、その顔には深いしわが刻まれており、年配であることを示していた。
「……我が娘よ」
スフィアさんの父親――この体の父親でもあるのだが――は威厳のある声で言う。
「して、アルティお前は――記憶喪失になったのだな? そうか」
「……はい」
「ふん。面倒なことになりおって」
「申し訳ありません……」
「記憶喪失の人間に何を言っても無駄だろう。手を煩わせやおって。生きているのが確認できたならそれでいい。明日には王都に帰る。お前も部屋に戻りなさい。……おい!」
「はっ! こちらへどうぞ」
***
執事に連れられて、屋敷の中を歩く。そしてある部屋の前で止まった。
「ここが、お嬢さまの部屋です」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
俺は部屋に入る。すると中にはメイドさんがいた。
「疲れたことでしょう。お召し物を変えますのでこちらへ」
「……えっ」
近くには、白い純白のドレスが用意されていた。……まさか着替えさせられるのか!?
しかし抵抗するわけにもいかないため、おとなしく従うことにした。
メイドさんのされるがままに服を脱ぐ。
「それでは失礼しますね~」
メイドさんが手際よく着付けていく。そして最後にリボンを結び終わった。
「はい完成ですよ」
鏡を見るとそこにはかわいい少女の姿があった。長い金色の髪がふわりと揺れている。
「うう……。これが自分なのか?」
思わずつぶやく。
メイドさんはそんな俺を見て微笑んだ。
「お似合いですよ。まるで天使様みたいですね」
「そ、それは言い過ぎじゃ……」
照れてしまう。かわいいと言われて悪い気は……いやいや。何言ってるんだ俺は。
「さて、では私は仕事があるのでこれで失礼いたしますね」
「あっはい」
「何かあったらいつでも呼んでください」
そう言うと彼女は部屋から出て行った。……ふう。ようやく一人になれた。
ベッドの上に座るとどっと疲労感に襲われた。
「つかれた……」
今までにないほど緊張した一日だった。
自分の服を見る。……うう、恥ずかしい。まるで女装をしているかのようだ。いや今の俺は女なんだけれども。
スカートの辺りがすーすーして……むず痒いな……。
ドレスを引っ張る。
……なんか、変な感じだ。
しかし、本当にこんな服を着ることになるとは思わなかった。
服からドレスの匂いを感じる。まるで女の子に囲まれているかのようで、全く平常心ではいられなかった。
ふと、くるりと回る。スカートがふわりと広がる。
かわいい。
そして、なんだかむずがゆい。
そりゃ戸惑うだろう。今までずっと男として生きてきたのに、急に女の子になってしまったのだから。
もう一度、鏡を見る。金髪の美少女がいる。そして、何もかもが違う。
まず、背が低くなっている。そのせいでいつもより目線が低めになっている。
それに、体が全体的に細くなってしまっていると感じた。胸もついてるし。
俺は、ぺたぺたとその膨らみに触れる。
「柔らかいな」
触り心地がいい。というか、俺に胸があるの事が不思議だ。
俺は女の体になったことを改めて実感する。
……しかし、この体で冒険者を続けることは出来ないだろう。
力が出ない。それは女だからとかそういう訳ではなく、重いものを持った経験がないことによる非力さだ。
そもそも武器を持てないんじゃどうしようもない。
俺は、これからどうやって生きていこうか考える。
このまま、ルヴァン家でお世話になって、記憶喪失のまま令嬢として生きて……
その先にあるのは、結婚?
男と?
いやいやいやいや、ないないないないない。
嫌とか嫌じゃない以前に、男と結婚なんて想像もつかない。
頭を振る。髪の毛もつられて揺れ、視界を隠す。
髪を目線から髪どかして、もう一度鏡を見る。そこにはずっと女の子がいる。
なんだか、少しずつその光景にも、慣れてき始めている気がした。
少女としての生き方を拒否するとなると……家を出て……冒険者? いや、力がなさ過ぎて元の強さを手に入れるには時間がかかるだろう。
商人? いや、それも無理だ。だって俺には商才が無いし。
冒険者をやってた頃は、ダンジョンに潜ることしか頭になかったし。
……やっぱり、冒険者が良いな。それ以外の生き方を俺は知らない。
体を鍛えて剣を触れるようになるか、魔法を頑張るか。それで、逃げ出して、冒険者になる。とかそんなんで……
どっちにせよ、魔法は勉強したい。前の体ではできなかったことだし。それに、魔法が使えれば逃げるときにも役に立つかもしれないし。
あと、魔法の勉強をするなら学校に行きたいな。
魔法学園みたいなところで、魔法について学びたい。
……そういえば、アルティとやらは学園から逃げたと言っていたな。なんでそんなことをしたのやら。
学園。勉強か。勉強をすることにもあこがれていたしな。いい機会だろう。
旅をするなかで、知りたいと思うことはいくらでもあった。それについて調べたい。
そう思いながら、椅子に座る。
スカートが広がって、座りにくかった。
足を広げると、一層すーすーする。
でも、そっちの方が楽になる気がした。
と、その時。扉が開く。
「アルちゃんげんき―? あー! 脚広げてる! はしたないんだ!」
そういって駆け寄ると、足を閉じようと抑えてくる。
「はいっ!?」
「だめだよ、お嬢様なんだから! 脚広げたらそう……あれが、見えちゃうでしょ!」
「あれって……」
「いいからとじなさーい!」
スフィアさんに無理やり足を閉じさせられ、スカートを整えさせられる。
「はい、足をそろえて。背筋をピンとして」
「……はい」
「うん、これで立派なお嬢様だねっ!」
鏡を運んできて、そこに自分の姿が映る。
小さな、お人形さんの様な、お姫様のような、純白のドレスをまとったお嬢様がそこにはいる。
これが……俺、なのか?
「うん、とってもかわいいよ!」
かわ、いい?
たしかに、そこにはかわいらしい少女がいるけれども。
それが、自分自身だとは到底信じられなかった。
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