第3話 俺の体で何をした?
「へっやっとあいつが死んでせいせいしたぜ」
宿で、男が酒を飲んでいる。
魔法使いの女が彼に同調する。
「あいつ前から黙ってても金が入るからっていい気になってやがったもんね」
「全くだよな。あの野郎のおかげで俺達ゃえらい迷惑だったんだ」
「ああいうのを身の程知らずっていうんだよな」
「全く、俺たちのおかげで冒険者やれてたのに調子乗ってさあ」
「でも死んだんでしょ? ざまーみろだわ」
男がげらげらと笑い声を上げる。女も笑う。
その時だった。
扉が、ぎぃっと開いたのは。
「? なんだお前は……!?」
そこにいたのは――黒衣の男だった。
「あなたはまさか――あっ」
弓使いの女の体が、真っ二つに切り裂かれる。
そして、死体となった彼女の肉体が床に落っこちた。
「なっ、ひ、ひい、なんでお前がここに、お前は俺が殺したはず……!」
男は言う。男は言う。
黒衣の男が剣を突き付ける。
「あなたに恨みはないけれども……まあ、人を殺した罰だと思って死んでもらいましょう」
男の悲鳴が響く。
それはまるで地獄の底から響いてくるかのようなおぞましい声だった。
その光景を、魔法使いの女はただ呆然と眺めていた。
やがて、男の絶叫も聞こえなくなった頃、黒衣の男は再び女の方へと視線を向けた。
「……さて、次はあなたの番よ」
そう言って、黒衣の男はゆっくりと女の方に歩み寄る。
「ひっ……」
恐怖と絶望に支配された女にはもう抵抗する気力もなかった。
***
俺は、街を歩いていた。
それにしても、この格好は少し違和感があるな……
今の俺は、その辺にあった男物の服を着ているが、胸の辺りが少しきつい。が、仕方がないだろう。さすがに女の子用の服を着る度胸はまだない。
……とりあえず、ギルドの方へ向かってみることにした。
冒険者ギルド。そこには様々な依頼が舞い込んでくる場所だ。
薬草集めからモンスター討伐まで様々だ。
受付嬢に話しかけてみることにした。
「すみません」
「はい、どうされましたか?」
「アルファス・トーレという人を探しているのですが……」
「ああ、あの凶悪犯罪者の事ね……」
え、と声が漏れる。
受付嬢の人が目線をやった先には、手配書が張られている。
黒衣の怪しい姿をした男。それはまさに昔の俺の姿だった。
「なんでも同じS級冒険者で組んでたパーティの人を殺して逃げたらしいわよ、前々から怪しいと思ってたけど。でもこんな凶悪犯探してどうする気なのかしら?」
「いえ、ちょっと聞きたいことがあるだけです……」
「そう、いろいろ恨みをかってるのかしらね……ええ、何も言わないけど気を付けなさいな。相手は凶悪犯で腐ってもS級冒険者よ」
「あ、ありがとうございます」
色々ごまかしてから、お礼を言いその場を去る。
まさかそんな事になっているとは思わなかった。
俺の評判の悪さはわかっていたが……パーティの奴らを殺した? 逆じゃないか。
俺が殺されたんだ。だが現に俺は生きていて、奴らが死んでいるという話だ。
……まあ、別にあいつらが死んだからと言って、何か同情しようとかそんな思いがあるわけではないが。
ただ、1つ疑問が残る。
なぜ俺は生かされた? 確かに俺は殺されたはずだ。なのにこうして息をして歩いている。
どうしてだろう。……考えても答えなぞ出るわけがない。その答えを知っているとしたら、俺に肉体を渡しただろう彼女だけだ。
ギルドから出て、街の中を歩くことにした。
どこに行けばいいのかわからない以上、適当にぶらつくしかないだろう。
しばらく街を見て回っていると、ふとあるものが目に付いた。
それは大きな剣だ。
その大きさは普通の人の背丈ぐらいはあるだろうか。
「おや、かわいらしいお嬢さん。どうかしたかい?」
武器屋の店員に話しかけられる。
……お嬢さん、か。ちょっとこそばゆい。
「これ、持っていいですか?」
「いいけれども……お嬢さんに持てるかなあ?」
俺は、その剣を手にもつ。……やべえ。めっちゃ重い。
この体があまり鍛えられていないせいか、重いものをまともに持てなくなったようだ。
……このままでは、剣も振れないだろう。……危険な魔物や荷物を狙う賊や理由もなく恨みを持った輩が襲ってきたらどうしよう?
「あー見つけた! アルちゃん」
女の人が声をかけてくる。スフィアさんの声だ。
やべ、見つかった。
「いなくなったから、探してたんだよ! 病人は病室に戻りなさい!」
「別にどこも異常は……ありゃりゃ」
あっという間に持ち上げられる。うう。これも体が変わって体重が軽くなったせいだ。
「ごめんなさいね。この子はいただいていくから。じゃあね~」
「あ、はい」
そういって俺は持ち去られていった。ああ。
軽い体。非力な体。それが今の俺。
俺の体は何もかも変わってしまった。今までと同じ生き方は、果たしてできるのだろうか? いや。難しいだろう。
この非力な体で、どう生きていけばいいのだろうか。
これからこの体で、どのような運命が待っているのだろうか。
戻る手段は果たしてあるのだろうか――
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