ただの村人のオルエスがなんやかんやで冒険していくうちに世界を救い幼馴染の美少女を嫁にするお話

グレンディ

第一部

第1話~オルエス旅立つ~

いつだって事件は突然起こるものである。


ウライン村の少年オルエスの牧歌的な生活はパルスター帝国の騎兵部隊によって

音を立てて崩れ去る。


村を取り囲む騎士たちの鋭い目が、オルエスを冷たく見つめている。

彼の心臓は激しく鼓動し、焦りが全身に駆け巡る。


オルエスはすぐに村の中心へと向かった。そこには、彼が知る限り最も信頼できる村長、アルマンが騎士団の隊長デルミアと対峙していた。デルミアの声が冷たく響く。


「この辺りに魔女がいるとの報告があった。調査のために来た!アルマンといったな、この村に住む人間をすべて広場に集めよ!」


「は、はい。少々お待ちくださいませ」


そう答えるとアルマンはすぐさま周囲の人々に声をかけて言った。帝国の魔女探しは有名なものだった。魔女は人知を超えた力を持つもので帝国の存亡にかかわる危険な存在だということを知らないものは、いくら田舎のウライン村の住人ですら知らない者はいなかった。


アルマンは魔女なんてこの村には関係ないと思っていた。しかし、騎士たちの登場に慌て、すぐに村役場に行った。「ウライン村に魔女がいるらしい。騎士様たちが村人全員を広場に集めろと命じられた」と伝えると、その話は瞬く間に村中に広まり、村人全員が広場に集まった。


「この村に魔女が住んでいるという情報がつい届けられた。魔女の存在は危険であることは存じているだろう。魔女を見たというものは、この場で報告せよ!後々、魔女がいることが判明した場合はどうなるか分かっているだろうな!」


帝国の魔女探しの苛烈さは有名であった。ウライン村があるヴァルナ地区の隣にあるラクシュ地区では、魔女を隠した事が発覚した地域の住民が全員生き埋めにされたこともつい最近のことだ。それを思い出しアルマンはある人物を思い浮かべた。アルマンには以前からレミアという一人の少女の言動に対して気になっていた。幼いころならばいざ知らず16歳になっても時々、生い茂った草むらをのぞき込んで誰かと会話をしているような独りごとを話している様子を度々見ていた。デルミアの言葉にアルマンが声を振り絞る。


「騎士様、あそこにおりますレミアという娘、精霊と会話ができるとかどうとかよく言っております。魔女の可能性が高いのかと」


アルマンは少し迷いを見せた後、震える指でレミアを指差した。彼の視線の先には、茶色のセミロングの髪を持ち、透き通るような肌をした美しい少女が立っていた。唐突に指を差されたレミアは、村長の言っていることが理解できず、驚いた表情でアルマンを見つめ、思わず手を胸に当てた。


「村長、何を言ってるんですか?私が魔女?そんなわけないじゃないですか?意味が全く分かりません!」


突如、アルマンに魔女の疑惑を受けたレミアは強い口調で村長に反論し睨みつける。


「でも時々姿が見えないときがあったわね」


「それってコッソリ魔法の練習をしていたってこと」


「もしかして海岸で流れ着いたのもどこからか逃げてきたのかしら」


村人たちが次々とレミアを噂話をし始める。


「ちょっと待ってよ、みんな。時々姿が見えないって言われても誰だって一人になりたい時くらいあるじゃない」


レミアは急に態度が変わった村人たちに戸惑う。

そこにオルエスが割って入る。オルエスは手を挙げて村人たちを落ち着かせようとした。


「みんな、落ち着け。レミアが魔女なわけないだろ。今まで普通に一緒に過ごしてきたじゃないか。なんで急にそんな風に…」


オルエスは、レミアがいわれのない非難を受けるのを黙って見ていることができなかった。彼とレミアには、不思議な絆があったのだ。二人は共にレーソト海岸で幼い頃に捨てられ、偶然同じ村に拾われた過去を持っている。オルエスが4歳、レミアが2歳の時のことだった。二人がなぜ海岸に捨てられたのか、その理由はわからないし、彼ら自身も記憶していない。しかし、その過去が二人を深く結びつけていた。


村人たちが次々とレミアを非難する声を上げる中、デルミアはその様子を静かに見守っていた。


「とりあえず、その女を捕まえろ、そして魔女のいた痕跡を確実に消すのだ」


デルミアの命令で騎士は村の家に次々と火をつける。あたり一面があっという間に火が回りこみ村人は右往左往と逃げ回る。その混乱の中、

騎士の一人がレミアをつかもうとするより早くオルエスがレミアを腕をつかみ、その場から連れ去る。


「オルエス、どうして私を」

「レミアは何も悪いことをしていない。そうだろう?」

「そうだけど、このままだとあなた殺されるわ」

「そんなヘマしないよ、ここは俺の庭だ。逃げ切って見せる」


オルエスとレミアは村の近くにある森に逃げ込んだ。二人は息をひそめて騎士が通り過ぎるのを待ち、いなくなったら移動を繰り返す。オルエスはレミアの手をぎゅっと強く握り続ける。レミアはふと昔を思い出した。海岸に捨てられて泣いていた自分をオルエスが慰めてくれた時のことを。その時もオルエスはレミアの手を今みたいに強く握ってくれた。


レミアがオルエスも海岸で捨てられていたことを知ったのはだいぶ後のことだった。

いつもそうだ。草むらで二人で転がって思わずオルエスがレミアの上に覆いかぶさって唇を重ねたときも手をぎゅっと握ってくれた。レミアは走馬灯のように思い出していく。


「くそ、どこに逃げたあのガキども」


騎士たちがオルエスたちを追うが中々見つからない。しかし多勢に無勢。

オルエスたちは徐々に追い詰められていく。


「見~つけた、おとなしくその女をこちらに渡せ、クソガキ」


複数の兵士がオルエスたちを取り囲む。オルエスは剣を抜き、騎士に立ち向かう。彼の目は炎のように赤く、決意に満ちていた。


「来るなら来い!」


オルエスは挑発するように叫び、最初の騎士に突進した。彼の剣は魔物たちとの戦いで磨かれたもので、一撃で騎士の防具を切り裂いた。しかし、次から次へと騎士たちが襲いかかってくる。

オルエスは左右に身をかわしながら、次々と騎士たちを打ち倒していく。しかし、彼の動きは徐々に鈍くなり、疲れが見え始めた。


「ガキが手こずらせやがって」

一人の騎士が冷笑しながらオルエスに迫る。その騎士の剣がオルエスの肩に深く突き刺さる。オルエスは痛みに顔を歪めながらも、最後の力を振り絞り、その騎士の足元を掬った。

しかし、その瞬間、別の騎士の剣がオルエスの背中に突き刺さり、彼は吹っ飛ばされ、そのまま崖から落ちていく。


「ガキが手こずらせやがって」


剣と剣がぶつかった拍子にオルエスは吹っ飛ばされ、そのまま崖から落ちていく。


「オルエスーーーー!!!」


レミアの叫びが虚しくあたりに響き渡る。

レミアは騎士をにらみつけて腕にかみつくが、ポンメルで腹を殴られ気を失ってしまう。


「たわいのないガキだな。本当にこんなのが魔女なのか。まあいい、連れて行くぞ」


騎士はそう言って気を失ったレミアを抱えてその場から立ち去った。聖王歴1500年5月1日の出来事である。

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