第3話 放課後の生徒会室


「それでは今回の会議はここまでです」

「「お疲れ様でした」」

6人の生徒会役員が声を揃える。

いつもの見慣れた生徒会室の光景。時間も遅くなり役員以外の生徒は帰る時間だ。

書記、会計、広報の3人は残っている生徒がいないか見回りに行く。

 

生徒会メンバーは全生徒の憧れの的。奇跡の6人が揃ったと生徒たちは口を揃えて言う。ファンクラブまであり、噂によると他校の生徒まで加入しているらしい。

 

生徒会長  正義感の強い男、北条司

女子副会長 天使の生まれ変わり、久瀬美波

男子副会長 みんなの兄、藤浪拓実

書記    クールな仕事人、中園海斗

会計    頼りになる完璧女子、宮野千尋

広報    優しい姉さん、石山花音

 

そんな通称があるほど生徒会メンバーは尊敬され崇拝されている。

「副会長、今日の延長届けは出してあるか」

「はい、事前に提出済みです」

久瀬がにこやかに答える。一般男子ならこの笑顔を見ただけで心を奪われてしまうだろう。

「会議報告書も確認済みです」

藤浪が淡々と言った。

「仕事が早いな、二人ともありがとう。では3人が見回りから帰ってきたら––––」

「生徒会の仕事、は終わりですね」

久瀬が答えた。

 

「見回り終わりました。サッカー部がまだ残っていたので帰らせました。以前も時間を過ぎていたので一度正式に注意したほうがいいかと」

宮野が言った。

「わかった。俺から顧問の先生に伝えておく」

北条が言った。

「では生徒は帰ったようなので––––」

その言葉を遮るように、優しい姉さんこと広報の石山がどかっと椅子に座った。

「マジでサッカー部の奴らありえねぇ。これで何回目だよ。注意してもヘラヘラしやがって。一発かまさねえとわかんねえのかよ」

乱暴に机を叩く。言葉を遮られた正義感が強い会長こと北条は気にすることもなくぶ厚い本を眺めている。

「花音ちゃんそんなことしちゃだめだよ」

天使の生まれ変わり、女子副会長久瀬が荒ぶる石山を嗜める。

「直接行くんじゃなくてバレないようにちょっとずつ部費を減らすんだよ。きっとバレないよ馬鹿だから」

ニコニコしながら久瀬が言った。

「お茶持ってきました」

頼りになる完璧女子の宮野がトレーに6人分のお茶を乗せて運ぶ。机に置こうとしたらなぜか手を滑らせ床にお茶がこぼれ落ちる。トレーを置いて床を拭こうとするがお茶を置いた机に勢いよく頭をぶつけ残りのお茶も全てひっくり返った。

「……こっちは拭いておくから宮野は新しいお茶持ってきて。急がなくていいから慎重にね」

久瀬が溜息混じりに言った。石山もロッカーから雑巾を何枚か持ってくる。

「宮野一人で行かせて大丈夫かな」

みんなの兄こと男子副会長藤浪がお茶拭き掃除に加わる。

「もし外でまた転んだりしたら……。誰かに見られてたら……。誰かついて行ったほうがいいかな」

「自分で行けば」

石山が目もくれず冷たくいった。

「生徒が帰ったこと自分で確認したんでしょ。それに宮野もここ以外じゃヘマしないでしょ。ここはうちらで拭くから藤浪は中園の相手しててよ」

「……はい」

藤浪が項垂れる。

「ちょっとちょっと、藤浪。突然いなくなるからびっくりしたよ」

クールな仕事人こと書記の中園が駆け寄ってくる。

久瀬と石山は露骨に嫌そうにする。

「それでさっきの話の続きなんだけど、そこで会ったおじいさんが犬を撫でてて––––」

女子二人の嫌そうな顔を見ても中園は止まらない。

「藤浪」と久瀬は目であっちに行けと合図をする。

苦笑いをしながら藤浪は喋り続ける中園を連れて行く。

「中園、普段は仕事もできてめっちゃいいやつなのにね」

石原が呟いた。

 

宮野が戻ってきて慎重にコップを置いた。

 

ホットした瞬間に机の角にぶつかる宮野。

生徒会室の隅で喋り続ける中園と苦笑いで聞く藤浪。

ブラックな会話で盛り上がる久瀬と石山。

何が起きても本から一切顔を上げない北条。

 

彼ら彼女らにとって放課後の生徒会室が唯一気を抜いていられる場所なのかもしれない。

 

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