アリス・ピロウ男爵令嬢の困惑

その日の学園。

アリス・ピロウは普段通り登校したが、いつもと違う状況に戸惑っていた。

自分の周囲に居た友人が誰も居ないのだ。


「あれぇ……?」


可愛らしく首を傾げてみても、いないものはいない。

すぐさま可愛いなぁと褒めてくれる男達が、誰も自分の傍にいないのである。


「何処に居るんだろぅ……」


騎士科の修練場に、図書館に、生徒会室。

授業が始まるまで探し回っていたが、誰もいない。


「皆学校休んでるのかなぁ?何でぇ?」


昨日までは皆で楽しく過ごしていた。

この一年ずっと、人数は増えても減る事は無かったのだ。

仕方なく授業を受けるために教室へと向かう。

教室に入っても、話しかけてくる人は誰も居ない。

それどころか、近くにも寄ってこない。


「ねぇ、ねぇ、今日、一緒にお昼ご飯食べませんかぁ?」


教室の中でも身分の高い、見栄えもいい男子を見つけてアリスは声をかけた。

可愛い自分に微笑んで誘われたら断らないだろう、と思って。

だが、その生徒は首を横に振った。


「婚約者と先約があるので」

「ぇえ~……私と食べた方が、きっと楽しいよ?」


唇を尖らせて、上目遣いに見るけれど、男子生徒は見向きもせずに、もう一度言った。


「婚約者と先約があるので、お断りする」

「ひどぉい。何で冷たくするのぉ……」


じわり、と大きな目に涙を浮かべるが、呆れたような声が背後から聞こえた。


「冷たいも何も、先に約束が入ってるんだろ」

「何で自分を優先させようとしてるんだよ。厚かましい」


その声の方を見るが、誰が言ったのかは分からない。

だが、確実なのはアリスが泣けば守ってくれる「友人」が今は居ないという事だ。


「じゃぁいいもん。他の人誘うから。……ね、一緒にお昼ご飯…」


次は身分よりも顔で選んだのか、美形で人気が高い男子生徒に声をかけるが、誘っている途中で断られる。


「無理」


「えっ?」


思わず聞き返すが、赤い髪の美形男子は、フンと鼻で笑った。


「未来の王太子妃とは恐れ多くてご一緒できません、と言えば分かるか?」

「え、えぇと……それって、記念になるんじゃない?」


一瞬真顔になった男子生徒は、呆れたように続けた。


「王太子に不貞だと言われたら、処刑されるぞ」

「えぇ~?レンダー様は優しいからそんな事しないよぉ」


「駄目だ話が通じねぇ」


辺りでクスクスと忍び笑いが聞こえるが、アリスはそう言われても一人で食事をしたくなかった。


「ねぇ、いいでしょう?」

「話が通じねぇから無理」


面倒臭そうに言うと、男子生徒は立ち上がって教室を出て行ってしまった。

追いかけようか迷ったが、入れ違いに先生が入ってきてしまったので、アリスは仕方なく席に着く。

結局その日、アリスは一人で食事をする羽目になってしまった。

女生徒と食事はしたくないし、見栄えの悪い男子はもっと嫌だったのだ。


「オリゼー様のせい、なのかなぁ……」


昨日中庭であった出来事を、ぼんやりとアリスは思い出していた。

レンダーはよく、オリゼーが悪いと言っていたのだ。

アリスがクラスで浮いてるのも、苛められるのも。

けれど、オリゼーはアリスを褒めてくれたし、レンダーの正式な妃になるように応援してくれたのだ。


「オリゼー様はいい人だよねぇ?じゃぁ誰が悪いんだろぅ…」


悪いのは誰か気づかないまま、アリスは溜息を吐くのだった。

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