第二話

光が薄くなり、二人は目を開けると、沢山の人が目に映った。


「おぉ! 成功だ! 成功したぞ!!」


一人の男が喜びの声を上げると、周りの人たちも歓声を上げる。

二人は何が起こっているのかわからず、首を傾げている。

周りを見ると、高そうな服を着ている人が沢山いた。


「まさか、本当に異世界に?」

「だろうな。」


二人がヒソヒソと話していると、一人の男が声をかける。


「赤い髪の男よ、其方は選ばれし勇者なのだ!!」

「俺が、勇者……?」

「おぉ! やったじゃんか!!」


ドラマルが男の言葉に呆けていると、クロが肩を叩き喜ぶ。

男は、ドラマルの方に乗っているクロに、目を向ける。


「む? 反奴は何だ?」

「俺? 俺はクロ! 勇者ドラマルの友達だ!!」


クロが自己紹介をすると、男は目を見開き怒り出す。


「き、貴様! 不幸の黒猫だな!?」

「え?」

「予言の書に書いてあったぞ!! 『赤髪の勇者現れし時、不幸の黒猫が世界を混乱に陥れる。』と!!」


クロは呆然としていると、ドラマルが声を荒げる。


「待てよ!! こいつは俺の友達だ!! 不幸なんてただの嘘っぱちだ!!」

「勇者よ、召喚されたばかりで混乱しているのだろう、兵士よ、この黒猫を殺すのだ!!」


男の声に反応した兵士が、クロとドラマルを囲む。

ドラマルは何とかしようとすると、クロがそれを止める。


「ドラマル、ここでお別れだな。」

「クロ!? 何言って……!!」

「お前は勇者だ、それに、俺は嫌われ慣れているし!!」


クロはドラマルにお別れを言うと、兵士の隙間を縫うように逃げ出した。

男は、クロを追うように兵士に命令する。



「キャー!! 不幸の黒猫よ!!」

「誰か!! 兵士を呼べ!!」

「殺せ!! 絶対に生かすな!!」


城はクロが逃げたせいで、大混乱になっていた。

メイドや執事、兵士などが声を荒げる。

襲い掛かる攻撃をクロは、難なく避けていく。


「だりゃあああああああああああ!!!!」


城の城壁から、クロは飛び降りた。

猫の能力からか、高い所から飛び降りても平気だった。


「へっ!! あばよ!!」


クロは城から逃げ出すことに成功した。

そのまま街に逃げ込み、姿を隠すことにした。


「どこに行った!?」

「探せ!! 絶対に見つけ出せ!!」


兵士の追跡をクロは姿を隠して、やり過ごした。

兵士はクロを探すが見当たらず、別の場所へと探しに行った。


「ふぃ~、危なかった~。」


クロは姿を現し、ため息をつく。


「しかし、異世界でも黒猫は嫌われてるんだな~。」


これからどうしようと考えていると、目の前に門が現れる。

その前には、兵士がいた、外に逃がさないようにだろう。


「さてと、どうしようかな……。」


悩んでいると、女神からもらったリングに目がいった。


「そうだ!! こいつを使えば!!」


クロは変身リングに手を触れる。

すると、姿が猫から人間へと変わっていく。

黒髪のポニーテールに黒色の服と茶色のズボンの人間の姿になった。

これなら、兵士を誤魔化せるだろう。

クロは、意を決して兵士の前に出る。


「そこの者、止まれ!!」

「は、はい!!」

「貴様名は?」

「く、クロです……。」


クロは思わず自分の名を出してしまった。

しかし、兵士は気にすることがなかった。


「そうか、通るがいい。」

「ど、どうも~……。」


名前が通っていなかったのか、クロはすんなり国の外へ出ることができた。

門が閉まるのを確認すると、そのまま走り出した。


「急げ―!! あいつらが追いかけてくる前にー!!」


そのままはしりだして、森の中へと入って行った。


「ここまでなら、来ないだろう……。」


クロは息を切らしながら、その場へと座り込んだ。

すると、目の前にゴブリンが現れる。


「ゴブ!!」

「おっと、ここが異世界だって言うことを忘れてたぜ。」


クロは、戦闘態勢をとる。

ゴブリンも、クロの姿に構えをとる。


「喰らえ!! イオ○ズン!!」


クロはまさかの魔法を放つが、何も起こらなかった。

ゴブリンも、クロの姿を見て嘲笑っている。


「あれー!? なんで出ないんだ!?」


困惑する黒の前に、一つのウィンドウが出る


『そんな魔法は使えません』


「はぁ!? イオ○ズンは男のロマンだろう!?」


『オリジナルの魔法を使ってください』


ウィンドウの言葉にクロは、うーんと首を傾げる。

そして、何かを思いついたように片手を前に出す。


「ファイヤー!!」


体に、何かが流れる感覚を感じたクロ。

片手から魔法陣が出て、炎の球が発射された。

炎の球はゴブリンに直撃し、ゴブリンは倒れた。


「おぉー! 本当に出せたよ!!」


『おめでとうございます、レベルが上がりました。』


ウィンドウの言葉に、クロはますますうれしさを覚えた。

ゴブリンはそのまま消え、ドロップアイテムを落とした。


「えーと何々、『ゴブリンの角』10ゴールドかぁ。」


ドロップアイテムを手に持ち、クロはあたりを見渡す。

どうやら、他のモンスターはいないようだ。


「こうなったら、俺のいれる場所を作るしかないな。」


目標を作ったクロは、そのまま森の中を進むことにした。

すると、一匹のスライムが目の前に現れた。


「おっと、敵か。」


クロは構えをとるが、スライムは首を傾げるように体を曲げる。

どうやら敵意はないらしい。


『スライムを仲間にしますか?』


ウィンドウが突如出てきて、仲間にするか聞いていた。

クロは仲間にすることを決めた。


『名前を決めてください』


「名前か、じゃあ『スラ吉』ってのはどうだ?」


スライムはクロが着けた名前に、嬉しそうに伸び縮みした。


「よし、スラ吉、俺達が住めるような国を目指すぞー!!」


こうして、クロの異世界生活が始まったのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る