夏休み。ふと

恐ろしいほどに鮮やかな白黒の世界

夏休み。ふと

 夏、猛暑日の続く、とある日。

 「………夏休み、………。」

 

 朝から快晴で、気温が高い日の夕方、一人の青少年がため息を付きながら数学Bの教科書を閉じ、大きな窓の外を眺める。

 おもむろに立ち上がり、砂浜へと向かう。

 砂浜に着くと、砂を軽く盛り腰を下ろして海の方に顔を向ける。

 橙色で塗られた綺麗な海と茜色が染み込んだ空、その境を強調するような熱を孕んだ陽光。

 彼の目に映える。

 「………綺麗だ、………。」

 一番星が輝き始めた頃、彼はゆったりと家に戻った。

 手には、砂色と茜色の波模様がある二枚貝。

 

 

 ふわりとした雲がいくつか漂う日のお昼過ぎ、先程の青少年が、木々が描かれた本を閉じる。

 準備を行い、駅へと向かう。

 ほのかに揺れる電車から降り、山へと足を進める。

 2時間程度登ったところで、大きな岩から流れる、清水が作る透き通る池に着く。

 彼は屈み、片手で水を掬い、飲む。

 「………美味しい、………。」

 体のほとぼりが冷めた頃、彼はゆったりと帰路を歩み始めた。

 かばんには、艷やかに咲いた松ぼっくり。

 

 

 モワモワとした雲が立ち上がる日のおやつの時間、先程の青少年が、生物の教科書を閉じる。

 流れるような動きで水族館に向かう。

 悠々と動く影を落とされ、また彼も水槽の前をゆらりと進む。

 彼は河豚がいる水槽の前で立ち止まる。

 「………可愛い、………。」

 最後まで回ったあと、彼はのっそりと家に帰った。

 財布には毛糸でできた丸っこい河豚のストラップ。

 

 

 眩しい太陽を雲が覆う日のお昼前、先程の青少年がTVを消す。

 はっきりと家族に呼ばれ、食べ歩きスポットに車で向かう。

 家族でご飯を食べたあとに、妹とのらり人混みを避けながらありく。

 二人で花の看板が掛かっている、いい匂いがする店に立ち寄る。

 ドライフラワーの香袋を手に取り、鼻を鳴らす。

 「………いい匂い、………。」

 家族と決めた集合場所に行き、車で帰路に着いた。

 抱える紙袋にはよもぎとハーブの香袋。

 

 

 薄黒い雲が雨を降らす日の、気温が下がり始める頃、先程の青少年がペンを置く。

 一人きりの教室を出て自販機へと向かう。

 サイダーを飲んでいるとスマホが震える。

 メールには友達から例年通り家で遊ぶ許可を求める文がある。

 『OK。』

 鼻歌を歌いながら、再び教室に入った。

 スマホには喜びを示す沢山のスタンプ。

 

 

 曇りのち晴れ、そこまで暑くない日の夕方、先程の青少年は友達を家に迎える。

 彼の部屋で、買ってきた屋台の料理を囲み、友達とわちゃわちゃしている。

 外からアナウンスが聞こえ、全員の意識が、開け放たれた窓の外に向かう。

 騒がしい外から、夜空と海を照らす花火が上がる。

 遅れて、腹に響く音。

 更に遅れてゆるりと一層騒ぎ出す友達。

 「あぁ………、楽しいな。」

 それは、感情が籠もった涼やかな声だった。

 声に反応して群がる友達と彼は、晴れやかな笑みを浮かべる。

 心からは包みこむような、温もり。

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夏休み。ふと 恐ろしいほどに鮮やかな白黒の世界 @Nyutaro

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