第四章 オープニング回収① 495話 

【王子視点】


 姉のおかげで指輪は手に入れた。王家としては見栄えはよくないということだが正式な婚約ではない。仮約束ならこれでいいみたいだ。


 後に正式な指輪を贈ればいいそうだ。


 姉は自分が贈った魔石の自慢を始めた。知ってるよ。レイシアのおかげで手に入った魔石の事だろう? あ~もう、人の惚気ってどうでもいい。うざったいよ。

 指輪のお礼として聞いているけど、いつまで続くんだ、まったく。



 卒業式が終わってもう五日たった。レイシアが帰ってしまう前に話しだけでも聞いてもらわないと。

 朝早く学園に入った。さすがにまだレイシアは来ていない。お馬様のお世話がされているかチェックに行く所でアリアに出会った。こんなに早くから何でいるんだ?


「アリア」

「あ、会長。おはようございます」


「おはよう。こんなはやくから何をしているんだ? 生徒会活動は昨日でもう終わりだが。自領には帰らないのか?」

「え? あ、その……。図書館、まだ使えますよね。あと二日は寮にいることができるので、ぎりぎりまで準備……、いえ勉強しようかとおもっていまして」


 真面目だな。一年生で主席を取るだけはある。ん?


「その大きな荷物は? ずいぶん重そうだが」

「え? な、なんでもないです」


「何でもないって。どこに行くんだ? 持とうか?」

「いえいえいえ、大丈夫です。本当に大丈夫ですから!」


 持とうとしたら拒絶された。中身は沢山のイモや干し肉?


「私、一度更衣室に行きますので。図書館が開くまでまだ時間がありますから更衣室で勉強しないと。はは」


 更衣室に芋を持っていくのか?


「あ、ええ、これはその……。教会の孤児院に寄付をするためのものですわ。ほほほ」


 孤児院に寄付を? アリア、君はなんて素晴らしいことを。


「ではこれで」

「アリア!」

「は、はい!」


 俺の緊張が移ったのか、アリアの体と声が強張っている。


「今日の夕食、一緒に食べてくれないか。言いたいことがあるんだ」

「夕食ですか。はい。分かりました」


「では4時半に。図書館で会おう」

「分かりました」


 しばらく会えなくなる。その前にアリアにも話をしておかないと。さすがに一日で指輪二つも送るなんて真似はできないけど。誠意だけは伝えておきたい。


「それでは夕方に」、とアリアは自分の更衣室に向かって去っていった。


 自室にいても落ち着かなかったので早く学園に来たのだが、落ち着かないのは同じみたいだ。こういう時は体を動かすに限る。何も考えず、お馬様の世話をしよう。その後乗馬をしようか。


 お馬様でも神様でも、とにかく俺に力をください!


 そわそわと、もやもやと、どきどきとする俺の体と心を何とかしてくれ!!!



【アリア視点】


 下町の朝市で、年末年始を過ごすための食材を仕込んできた。

 最初に朝市に行ったときは、制服を着ていったせいかだいぶ引かれていたね。


「制服の」「制服が来た」「あのお嬢様か」ってざわざわといわれたんだよね。


 どうやら、制服を着て貴族としての権威を振り回したようなご令嬢がいたらしい。

 あたしはそんなことはしないよ。下町の流儀に則って行動するし、口調も慣れ親しんだ下町言葉で話そう。そう思って玉ねぎを売っているおじさんに声を掛けんだ。こんな感じでね。


「玉ねぎか。ん? 保存悪くないか? おいおい、これだけ保存悪いのに、ぼり過ぎじゃねえか?」


 するとあたしの制服を見て、大慌てでかってにまけ始めたの。


「ひ、ひい! 半額! 半値でいい。おまけに二個付けてやる。これでいいよな。って、別人⁈ お、お前、ヤツの妹か何かか!」


 あの時は壮大な人違いで大騒動になったよ。制服の悪魔のお嬢様と言われているたまに来る学園生がいるみたいでその値切り方が尋常じゃないらしい。学園にそんな人がいるんだと驚いたけど、まだ出会ったことはない。


「あんたはヤツと違って常識範囲で買い物してくれるからありがたいよ。負けてやるからいつでも買いにおいで」


 イモ売りのおばさんに気に入られてここでの買い物もしやすくなった。

 あたしは学園での冬ごもりのために、保存のきくイモや干し肉を持てるだけ買い込んだ。


 って、なんでこんな朝っぱらから会長がいるの⁉ そうだった。この人馬小屋の掃除が趣味だったね。


 え? 荷物持ってくれる? いやいいです、お断りします。あ、中身バレた! ええと、そう、孤児院に寄付するための食料ですよ。金だと着服されるからね。そういうことにしておこう!


 夕食? はいはい。おごりならいつでもお供しますよ。寮は開いているけど食事は出ないですから。


 とにかく、冬休み中、学園の更衣室で寝泊まりしていることはバレちゃいけない。追い出されたら行くところないしね。年末年始は学園も完全に閉まるから四日間は学園から出ることができなくなるみたい。生き延びるために今準備中なのよ! 夏の時と違って毎日少しずつ準備していたんだからね。バレませんように。


 年が明けたらパーティーシーズン。先輩たちから光魔法のバイト先を紹介してもらえる。頑張って稼ぐためにも、ここで寝泊まりできるようにしないと! ばれないように引きこもろう!



【王子視点】


 ドキドキが止まらない! チャンスは一度。レイシアがゼミの教室に入って、ポマール先輩が来るまでの30分間。そろそろ来るはずだ。落ち着かないと。


 来た! 扉が開く。


「あれ? アルフレッド様、おはようございます。何しているんですか?」

「あ、ああ、レイシア。いい天気だね」


「そうですね。レポートでもまとめるのですか? じゃあ私は隅の方で勝手にやっていますから、ご自由にどうぞ」


 そっけないな。まあ、忙しいのは分かっていて来たんだけど。


「相談がある!」

「相談ですか。はあ。ポマール先輩が来るまででしたらいいですけど。何ですか? 私忙しいんですよ」


「あ、ああ。あのな。俺の結婚についてなんだけど」

「結婚? 俺の? ああ、姉のですか。キャロライナ様急に決まりましたからね。準備も大変ですよね」


「そうじゃない。俺のだ!」

「アルフレッド様の、ですか? お相手いるんですか? ああ、何でしたっけ、アリアさん? 生徒会の一年生」


「アリアか。ああ、アリアはとても頑張っているいい子だ。責任感も強いし生徒会の仕事も真面目に行っている。ああ見えてしんがつよいところもあってね。それでさぁ本当に……」


 って、なんで俺レイシアの前でアリアのこと褒めちぎっているんだ? 緊張で本筋と違う話しちまっているよ。おかしい。でも何か話さないと、というプレッシャーが! ああ、レイシアが惚気話なんか聞きたくない、って顔をしている。分かるよ。昨日姉から惚気話聞かされてたからな。知り合いの惚気話ほど聞いていて反応に困るんだよな。あああああ、レイシアの受け答えが貴族風の嫌味な返答になってしまっているよ。ずいぶん貴族らしい言い回し身に着けたなレイシア。って違う! そうじゃない!


「ヘェーーソウナンダー」

「興味なさそうだね」

「王家の結婚なんてはなから興味ないわ」


 そうだろうね。でもごめん、巻き込ませてもらうよ。


「で、アリアと結婚するには、自由恋愛で関係者に認められて、いろんな縁談が来る前に……」

「無理!その条件だと今のアリアさんじゃ無理。いくら愛し合ったとしても王妃としては認めて貰えないでしょう」


 そうなんだよね。っていうかよく分かっているじゃないか。


「そうなんだよ。5年位掛けて教育した後なら人間的には可能だろうけど今すぐには時間がないし」

「平民上がりだし、やっぱり側室でいいんじゃない? 1人なら持てるしね、側室」


 そう。側室なら何とかなる。だから正妃が必要。


 俺は、本当に酷い男なのかもしれない。父の血を引いているからなのか?

 アリアとレイシア。君達はどこか似ていて全く違う女性だ。


 そしてこの国の貴族は、一夫一婦制ではないんだ。


 俺は好きな女を幸せにしたい。レイシア、姉の庇護下も姉が結婚して臣籍降下してしまったら薄れてしまう。病気がちな母の庇護下だけでは心許ないんだ。


 俺が君を守りたい。それは心からの願いだ。だから。




「だから、僕と結婚しよう。レイシア・ターナー嬢」




 ジュエリーケースを開けレイシアに差し出すと、その意味を理解したのか彼女はそのまま机に伏せた。


「現実逃避するな、レイシア!」


 変な動きで呼吸をしているレイシア。おかしくなったのか?


「今のはなんのお戯れでしょうか。王子様」


 口調が他人行儀になってる!

 しかし、ここで引けない!


「結婚しよう。レイシア・ターナー嬢」

「本気ですの。好きなのはアリア様ですよね。意味が分からないのですが」


 ああそうだろうね。分からないよね。なんでこうなってしまったのか俺だって分からないよ! でも、君の事も好きなのは本当なんだ。それに俺だけの話じゃない。帝国と王国の未来もかかっているんだ。


 あ~、上手く伝えられない。そして時間が足りない!

 いろいろ説明したいけど、国家機密並みにヤバそうな状況を簡単に説明することなんてできない!


 とにかく今はこの指輪だけでも受け取ってくれ。


「本気だ。この国を守るためには、帝国に出し抜かれる前に然るべきタイミングで僕は婚約発表をしなければならないんだ。さっきも言ったが、ここから先は国家機密。守秘義務が発生する。僕の為に巻き込まれてくれ。愛なんてなくていい。一緒に幸せを探そう」


 早口で状況を説明した。一応理解してもらえたようだ。30歳の性格の悪い帝国のおばさんがこの国の王妃として好き勝手に振舞ったらどうなると思う? 俺もそんな相手と結婚するのは嫌だが、個人的な感情だけじゃないんだ。この国の将来の話だ。おまけに、第一皇女は第二皇子派。第二皇子が皇帝になれば軍拡が進む。戦乱の世になりかねないんだ。


 他の高位貴族のお嬢さんはいないの? といわれてもだな。いいか、こんな話に巻き込んで、矢面に立たせて大丈夫なメンタル持てるようなお嬢さんがいると思うか? 緊急事態じゃなかったら、俺もこんなことしていないんだ。


 契約結婚でもいい。三年たったら子供ができなかったということで別れて自由になってもいいから!


 この国のために、仮初でもいいから俺と婚約してくれ。無茶苦茶なのは分かっているが、この件が落ち着くまでお前の力を貸してくれ。その前に落ち着いたら婚約破棄したっていい。言ってることは無茶苦茶に聞こえるだろうが、ほかに方法がないんだよ。

 もちろん俺は君を大切にすると誓う。君さえよければ本当に正妃として一生を過ごそう。どちらでもいい。協力してくれ。頼む!


 レイシアが大きなため息をついて机に伏せてしまった。そろそろポマール先輩が来てしまう。俺、いない方がいいよね。


 ジュエリーケースをレイシアのそばに置くと、そのまま逃げるようにゼミ室から出た。

 いや、逃げているわけじゃない! 気まずくなるのを避けるだけだ!


 伝わったかなあ。俺の本心。伝わらないよな。あああああ~~~~~!!!!


 今度、時間をかけて、ゆっくり話し合わないと。


 俺は気恥ずかしさと、後悔を発散させようとまた馬に乗って駆けた。このままどこかに行ってしまいたいと思いながら。

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