アリアと王子 484話

 学園祭もいろいろあったけど何とか終了したよ。

 それにしても会長のお姉さま、王女様だね、が帝国の皇子様から求婚されて帝国に短期留学することになったから、生徒会も会長の周りも慌ただしくなったよ。


 王女様は前生徒会長で、今は相談役みたいなことをしているんだけど、初めての会長職で相談できるお姉様と上級生の生徒会の方々がいなくなってしまった。12月半ばには卒業式とそれに伴うパーティーが行われる。そこに向けての準備は生徒会の役割が大きいらしい。


 頼れる先輩が多く抜けてしまった今、会長はかじ取りに必死だ。すごく頑張っているのをひしひしと感じる。


 生徒会の人たちも先輩が減って自覚が出てきたのか、会長が褒めまくっている。会長に言わせれば、「褒めないと育たないからだ」ということらしいけど、一体感が出てきたし、目標がはっきりしているからお互いに注意や意見を言い合える。


 会長が、生徒会内での学年の壁を取り払ってくれたおかげもある。爵位の壁も。


 最初は先輩たちには抵抗があったけど、仕事が滞るのはなんのせいかと実例を挙げて納得させていったのはさすがだった。


 王子だから上から言えばいいのに、ていねいに教えようとする姿に、生徒会のメンバーはみんな感動したの。


 まあ、私は一番下だから言われた通りにするだけだけどね。

 頼りないんだろうね、いつも会長の隣にいさせられている。信用ないのだろう。


 まあね。私のやる気はお金のためだから。意識高い「学園をよくしよう!」という人たちとは温度差があるよね。その分、冷静に判断しようとしているから……いいよね。


 だって、何だっけ、ノブレスなんちゃら? 貴族としての矜持なんて私にはないしさ。孤児なんて救う気ないじゃない。あんたらの矜持は。


 平民でも貴族街に入れるくらいの金持っている人しか目に入んないんでしょ。

 住む世界が違うよね。食べるものもさ。



 土曜日はいつも会長と夕食を食べに行く。貧乏な私に気を使っているんだろうね。

 ありがたくごちそうになる。だって一日生徒会の仕事はしているし、寮でご飯は出ない日だし。


 でも、王子としてパーティーは出なくていいのかな? ま、私が心配することでもないか。生徒会のメンバーと一緒に食べる時もあるしね。

 きっと土曜日は生徒会の誰かにご飯をおごる日なんだろう。

 私が一番貧乏だから毎回呼ばれるのね。


 ありがとう! 会長! 尊敬します!


 まあ、このくらいほめておけばいいかな?



「卒業パーティーのファーストダンス、一緒に踊ってくれないかな」


 土曜日の夕食を取っている時、会長がいきなりこんなことを言った。何ですか⁈ そのあり得ない話。


「本当は姉と踊るはずだったんだ。婚約者がいないことを明確にするためには兄弟で踊るのが定番なんだよ。だけど姉は……」


 そうですよね。いま帝国でいろいろ話しあっているところですものね。パーティーのダンスは注目の的になりますよね。


「だから姉と踊る訳にはいかなくなったんだ。だから……君なら……」


 あ~! 他の高位貴族の女性と踊ったらいろいろと噂が立つのですね。

 それならば生徒会の役員で一番格下が取りあえず踊りましたって形にすれば無事収まるのですね。

 貧乏な男爵令嬢で一年生、しかも聖女コースがメインの私なら、誰も王子に似合う立場とは思われませんからね。


 生徒会の仕事として完璧にこなして見せましょう。パーティーでは特別に時給が出るみたいですし。


 あ、でもドレスは……。うん、レンタルの最低のでいいですよね。身分差を分からせるにはそれがいいですよね。


 え? ドレスを贈らせて? ダメですよ。そんなもったいないこと! ドレスは婚約者に贈るものです。まあ、私が婚約者になったらありがたく頂戴いたしますから。


 「本当かい?」 そうですね、婚約者になったらいただきますよ。あるわけないでしょうけどね。ドレスは私が用意しますから、会長はそんな事より生徒会の仕事に邁進してくださいね。


 それでも、とドレスを私に贈ろうとする。


「会長、そのドレスを買うお金はどこから出ているのでしょう。この食事代もです。会長が使っているお金は全てが王国の国民からの税ではないのですか? 国民はこのような使い方をされるために税金を納めていると思ってはいないのです。もちろんどのように使おうが私達下々の者が口を出すいわれはないのかもしれません。贅沢なさるのも国を支える王子様の勝手でございます。ですが……、私がそのお金で買ったドレスを身にまとうのは誰が喜ぶのでしょうか。この国の王子として考えてみて下さい。会長の使うお金は学園を、国をよくするために使うべきものなのです。婚約者でもない私のドレスをあつらえるために散財するものではないのですよ」


 本当に! だんだん腹が立ってきた!


「このような食事会ももうやめませんか? 一食にどれだけ支払っているのでしょうか。会長の好意に甘えておりましたが私からすれば一食が数週間の食費を超えるほどの贅沢なのです。身の程をわきまえず申し訳ありませんでした」


 まあ、美味しかったけどね。おごってもらえるのはありがたかったし、なくなるのは残念だけど、やっぱりおかしいよね。


 って、あれ? なんで会長が泣いているの? え? 感動した? どこが?


 いや、だからね、私のドレスなんて贈らなくてもいいって言ってるじゃない! 

 え? 生徒会としての最低限の身だしなみとして?

 それなら私制服で! 制服じゃダンスできない?

 じゃあ他の方と。 

 あ~、確かに私が一番下端ですね。爵位も立場も。


 へいへい。分かりました。業務ですね。はいはい。


 男爵用の衣装だから安いもんだ? 私にとっては新品のドレスってだけで信じられないくらいの値段なんです!


 俺に任せてくれ? さっきの話聞いていなかったのかよ! ああ、もう。


「では、この食事会は今日までにしましょう。これからかかる食事代をドレス代に当てれたと思えばわずかにでも良心の呵責が……」


 ダメなの⁈ これは俺の癒しだ? 意味分かりません! 癒し? 私は緊張しながら栄養補給しているだけなんですが!


 生徒会として相談したいことが山ほどある。そのための時間だ?


 そんなもの業務時間内に終わらせましょうよ! 残業だったんですか、この食事会! しかも私だけ! 時間外労働させられていたのですか!


 ま、まあ食事代が残業代だとおもえば……。とても高いですね。現金でいいのですよ。って言えるか!


 分かりました。ドレスも食事も経費なのですね。では、制服だと思って一時お借りします。パーティーが終わったらお返しいたしますので、来年の子に引き継いでください。


 と、声に出して言いたかったんだけど、ま、引継ぎ事項として書類作ってドレスは一緒に生徒会室に保管しとけばいいよね。

 会長に婚約者ができるまでの応急処置。


 ま、それも生徒会のお仕事なのでしょう。頑張ろう!


 王子様も大変だね。まあね、会長にはいつもご飯を食べさせてもらっているから……。


 ドレス着て一曲踊るくらいは協力しましょう!

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