様々な人による学園祭の様子① 461話

【王子】


「あなたもこの洗髪剤で髪を洗うのよ、アルフレッド。王家主催の夜会と学園祭では、私達がサラサラの髪で生徒の前に現れるの。分かった!」


 姉は俺に洗髪剤を渡した。


「これはレイシアの作った液体石鹸? いいけどなんで?」


「私が売り込むからよ。あなたも一度だけでしょ洗ったの」

「ああ。あの時はサンプル預かっただけだったら」


「もう少し入荷が安定したら、あなたも毎日使うことね。いい、ちゃんと洗いなさい」


 姉の言うことは絶対。俺は、まあいいか。と風呂に向かった。



 髪の長さも違えば、整髪用の油をつかっていないからか、姉がよこした液体石鹸は半分以上残った。

 それにしても本当にサラサラになるな。鏡を見ると髪がランプの光で輝いている。

 姉が欲しがるのも分かる気がする。


 女性は本当に綺麗になることに必死だからな。まあ、俺も王族として身なりは気にしないといけないし。それに頭が軽くなるんだよな。これ使うと。そうだ!


 整髪剤の残りの分量を確かめると、俺は小さなビンに整髪料の一部を移し替えた。



【アリア】


 最近、寮の先輩からよく話しかけられる。この間も「文学サークルに入らない?」って声がかかった。チーノ先輩とミッチ先輩。それに一年生のノエリの三人が文学サークルに入っているみたいなんだけど。

 あたしは「生徒会で忙しいから」と断ったんだけど、「「「キャー! 生徒会!」」」って勝手に盛り上がって生徒会の話を聞きたがった。別にいいけど。私が話すと「これで裏付けが……」とか言っているけど、小説でも書くのかな? 文学サークルだし。

「また聞かせてね」って言葉通りそれ以来ちょくちょく話しかけてくる。まあ、いいけど。


 寮のお風呂は7人くらいは水浴びができる。3日に1回時間が決まっている交代制だ。そうでないといくら水があっても足りなくなるから。本当に贅沢なシステムだね。お風呂入れるの⁈ って喜んでいた寮生も多かったんだよ。学園に来る前は体拭いて、髪だけは服着たまま外で洗うって子が多かったから。法衣貴族と言ってもそこら辺は平民とそんなに変わらないね。王都は水が豊富だからかな?


 今日は最後の時間に当たった。明日は学園祭だから言われた通り髪を洗わないと。お湯は無理だから水でいいよね。


「それはなんですの?」


 チーノ先輩が隣に来て私が持っているビンを見てきた。


「これですか? 会長からこれで髪を洗うように言われているんです。明日は学園祭で私は会長の秘書役をしなければいけないので見苦しくないようにしろということなのでしょう」


「会長って、王子様の事よね! 直々に貰ったの⁈」

「貰ったというか、配給じゃないでしょうか」


 石鹸も買えないと思われているんだろう。信用ないんだろうな。


「王室の石鹸って固まっていないのね!」

「髪専用の石鹸らしいです」


 石鹸なんて汚れが落ちればいいんだから何でもいいよ。髪専用とか意味が分かんない。


「ねえ、どうやって使うの?」


「お湯に溶いて使うらしいんですけど、水しかないからいいですよね。こうやって桶に汲んだ水にこのビンの三分の一を入れて溶かすらしいです」

「ふんふん」


「髪と頭の皮膚にしっかりと液が回るように髪を漬け込んだ後、余った液を手ですくいながら皮膚に摺り込むみたいです」

「難しそうね。私、手伝っていいかな」


「そんな! 先輩にそんなこと」

「いいから。やってみたいの!」


 他にいた女の子たちも集まってきた。王室の石鹸というのが気になっているみたい。


「じゃあ、私桶を持ってあげる。頭に近い方がいいよね」

「え~、チーノずるい。私にもやらせて!」


 わさわさと集まって来ては私の頭をかわるがわるなでるように液を摺り込んでいく。あっ、気持ちいいかも。


「次はどうするの?」

「一旦水をかけて液を流し落としたら、また繰り返す。それを三回分入っているから三回行わなくてはいけないのです」


「分かったわ。それにしても王家は丁寧に髪を洗うのね。よし任せなさい」

「そんな。自分でやります」


「遠慮しないで。やりたいのよ。王室のものなんて触れないんだから」


 そして私は先輩たちのおもちゃになったように、髪を完璧に洗われた。なぜか体まで!

 あとで王子がくれたクッキー渡しますので。そう言うと歓声が上がったので、寮母さんが慌てたように入って来て私達は一緒に怒られた。



【シャルドネ】


「レイシア。あなた学園祭一度も参加したことないって。どうして⁈」


 夏休みに入る前の最期のゼミ。学園祭でのゼミの発表のための注意を話していた時、信じられない事が発覚した。


「一年生と二年生の時何をしていたのですか」

「一年生の時は領地でいろいろあって戻るのが遅れましたし、二年生の時はイリアさんが行かなくてもいいんじゃないって言ってくれたので、他の事やっていました」


「イリア、あの子! まあ、イリアは身バレ嫌だからってレポート書いて出しただけだったわね。そういえば同じ寮だったのよね」

「はい。お世話していました。料理は私が担当でしたし」


「イリア先輩、レイシアさんのお食事を食べていましたの?」

「はい、ほぼ毎日」


「羨ましいですわ! レイシアさんの食事を食べていたイリア先輩も、イリア先輩と一緒に過ごしていたレイシアさんも。下町で着替えを手伝ってくださる方がいないという条件でなければ私もそちらで過ごしたかったですわ」


 ナズナはイリアを尊敬していましたからね。それでも今年卒業なのにまだ就職先が決まっていないのが本当に困るわ。実力はあるのだけどそれとは別なのが芸術の難しい所。貴族としてのコネや大先生のお気に入りにならないと中々入り込むことは難しい。平民向けの雑多な所じゃ嫌でしょうし。


「ナズナはステージ発表に推薦しておきました。ここでよいスカウトに認められるようにがんばりなさい」


 奇跡程の願いしかかけることができないのだけど。そう言うとナズナは前向きに「はい!」と返事をした。


「アルフレッドは生徒会で当日は無理でしょうから、騎士団改革のレポートを出しなさい。それとイリアが書いた本二冊合わせれば十分でしょう」

「はい」


「ポマールとレイシアは共同研究でいいわね。『どこでもかまど』と『人工魔石箱』の展示と構造を理解できるパネルか何かをだせばいいわ。レイシア、ポマールに説明させるのは無理だと思って、当日はあなたがお客様に説明と対応をしてね。まあ、シャルドネゼミを見に来るのは、本当に興味ある人たちだけだから。ほとんど暇を持て余すでしょうけど。ポマールの就職に有利になると思うからそこ気を付けて付けてね」


 そう言ってゼミを終わった後に、あんなことになるとは思っていなかったのよ!


 王女キャロライナのお茶会でレイシアがやらかした! というかキャロライナがやらかした! なんでこんなコンビが出来上がるのよ! 混ぜるな危険の二人が出会ってしまった。しかもレイシアが引く展開なんて想像できるわけがないじゃない!


 レイシアを引き入れた時、キャロライナをゼミ生にしてなくてよかったって思っていたのよ! キャロライナは有能な子が好きだから。お茶会に呼ぶって言った時も本当は辞めさせたかった。あの時の私、なんであんな挑発的なことを言ってしまったの? ちょっと自慢したかったんだよね、レイシアの事。


 まあいい。終わったことは仕方がないわ。これからよ。


 王女が宣伝する魔道具と石鹸を作るレイシア。どうしましょうか。学園祭で華々しく紹介するべき? それとも商会が立ち上がるまで隠すのが正解? 引き抜き・妨害・横やり。そういうものは王女の庇護下に入ったからと言って無くなわけではないのよね。所詮レイシアは子爵。しかも奨学生という弱い立場。前面にキャロライナが出てくるのはまずいわね。あの子だって学生の中ではトップだけどまだまだ子供。社交界でもまれた海千山千の者達とやり合うにはまだまだ甘い。


 学園祭でレイシアを表に出すのは止めた方がいいわね。そうなるとポマールをどうすればいいかしら。


 って、ポマール何作っているの! 髪乾かし器? 二種類の魔石の組み合わせ? えっ? どういうこと? 発表待って! 今回は地味に過ごしましょう。魔道具展示なしで! 私のゼミはいつも通り閑散としていいのよ! やばいわ。キャロライナがレイシアの事言わないように言っておかないと! レイシアがやらかさないようにしないと。


 私はポマールとレイシアに展示の変更を提案した。

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